第21話 頼もしい仲間たち
◇◇◇
フェンが駆け出した先で、か細い声が微かに聞こえた。
「……ひっ……うぅ……」
「いた!あそこっ!」
月明かりに照らされた崖の下で、小さな男の子が木の根元にうずくまっているのが見える。
「ジョセフくん!」
名前を呼ぶと、びくりと肩が揺れ、怯えた目がこちらを向く。
「……だ、だれ?」
「お姉ちゃん達は冒険者だよ。お父さんたちに頼まれて、助けに来たよ!」
「こ、怖かったよぉぉぉ」
「もう大丈夫だよ。すぐにそっちに行くからね」
リリアの隣で、ロルフが素早く周囲を確認する。
「ここからなら降りられそうだな。リリアはここで待ってろ。俺が担いでくる」
「待って!私も行く!」
思わず口をついて出た言葉に、ロルフが一瞬驚いた顔をした。
「一緒に行く。ジョセフくん、ケガしてるかもしれないでしょ?」
フェンも小さく頷く。
「ぼくも行くです」
ロルフは小さく息を吐き、リリアを抱き寄せた。
「分かった。絶対に離れるな」
三人は慎重に崖を下り、ジョセフの前に膝をつく。
「……おねえちゃん?」
「よく頑張ったね。偉いぞ。痛いところはない?」
「足が痛い……」
ジョセフの身体には、あちらこちらに擦り傷があり、足首が腫れていた。
(かわいそうに。痛かったし、怖かったよね)
リリアは小さな足にそっと手を伸ばした。
「今、おまじないをかけてあげるね」
震える指先を胸に当て、静かに念じる。
「いたいのいたいの、とんでけー!怖いのも、とんでけー!」
白い光が優しくジョセフを包み、こわばっていた表情がふっと緩んだ。
「……あれ……いたくない……」
次の瞬間、堰を切ったように泣き出す。
「う、うわああああん!」
リリアは迷わず抱きしめた。
「よかった……本当によかった……」
そのときだった。
がさり、と茂みが揺れる音。
「来るぞ」
ロルフが低く告げ、リリアを背に庇う。
闇の中から現れたのは、牙をむき出しにした山狼型の魔物。唸り声をあげ、こちらを睨みつけている。
「フェン!」
「任せるです!」
フェンが吠え、ロルフが一気に前に出る。
「リリア、下がれ!」
リリアはジョセフを抱きしめたまま、必死に頷く。
戦いはあっという間だった。
ロルフの一撃で魔物が吹き飛び、フェンの追撃で完全に沈黙する。
静寂が戻った山の中で、リリアの体が遅れて震え出した。
「……怖かった……」
ロルフは何も言わず、ぎゅっとリリアを抱きしめる。
「もう、大丈夫だ」
フェンも尻尾を振りながら近づき、ジョセフの頬をぺろりと舐めた。
「わ、わわわ……」
「フェンが背中に乗せてくれるって。さぁ、帰ろう」
ジョセフは目を丸くすると、フェンにぎゅっとしがみついた。
◇◇◇
村に戻ると、ジョセフの両親が駆け寄ってくる。
「ジョセフ!!」
「母さん!父さん!」
泣きながら抱き合う親子を、少し離れた場所で見守る三人。
「本当に……本当にありがとうございました……!」
何度も頭を下げられ、リリアは慌てて首を振った。
「無事で良かったです。もう、勝手に山に入っちゃ駄目だよ?」
「うん!ありがとう!お姉ちゃん!ワンちゃんも!お兄ちゃんも、魔物バーンって、かっこよかった!」
村人たちの3人を見る目が、明らかに変わっていた。
「すごい冒険者さんたちだ」 「恐ろしい魔物を討伐してくれたなんて、村の恩人だ」
その夜、リリアの家には感謝の品として、村人たちから食べきれないほどの食料が集まり、マーサは目を丸くした。
「まあまあ……明日からしばらく食料に困らないね。リリア、お手柄だよ」
「えへへ。今日私、冒険者として、初めて人の役に立った気がする」
「ああ。大したもんだ」
ダンがリリアの頭をクシャッと撫でる。
◇◇◇
「またいつでも帰っておいで」
「うん!お土産一杯持って帰るね!」
「楽しみにしてるよ」
両親に別れを告げ、王都に向かう三人。
「ところで、ロルフのご家族はどこに住んでるの?」
「王都にいるぜ?」
「近くじゃん!いつでも帰れるじゃん!っていうか、王都に家があるなら、なんで一人暮らししてるの?」
「まぁなぁ。いずれは戻るつもりだが、実家暮らしは実家暮らしで面倒なことも多いからな」
ロルフが小さく笑う。
「……次は、俺の家に行くか?」
リリアは少し驚いて、それから頷いた。
「うん。行こう」
こうして三人は、再び王都へと向かって走り出した。
















