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3 幼馴染がいつもと違う

 窓の外から聞こえてくる小鳥のさえずりで目が覚めた。

 なんというか春って感じだ。正直なところもう少し寝かせて欲しかったけど。


 時計に目をやれば、針は七時を示していた。

 以前は朝練もあったしもっと早く起きていたが、これからはこの時間に起きれば学校に余裕をもって着くことが出来る。


「まぁまだ学校始まるってわけでもないからこんな早く起きる必要もなかったけどな」


 とはいえ、やる事がないわけではない。

 俺もこの春から花櫻学園の生徒になるわけだから、他の生徒と同じように春休み中の課題が出されている。

 今日は四月四日。始業式のある四月六日まであと僅かだ。

 比較的得意な現代文(当然平均以下)、普通に出来ない英語の課題は既に終わり、残すは数学である。


「何とか今日中に終わらせるか……」


 とりあえず朝食を食べる為にリビングに行き、やかんに水を入れお湯を沸かし、オーブントースターに食パンを二枚入れて焼く。


 左手で箸を使う生活もなんだかんだ計七ヶ月近く送ってきているから慣れてしまった。

 だから、炊飯器で米を炊いたり、目玉焼き程度ならば焼いて食べることも出来るような気がするのだが、今日はめんどくささが勝ってしまった。

 もちろん、出来る気がするだけであって、できる保証はないのだが……。


「それにしてもパンとお茶、何となく合わねえ」


 お茶は好きなのだが、パンと合わせると個人的には微妙な気がした。


 朝食を終えた後、テレビを点けてボーッとしながら朝のニュース番組を見ていると新入生特集が始まった。

 この春から新生活をスタートする生徒向けに文房具を紹介している。

 便利な物から人気がある物まで、シャープペンやら消しゴムやらノートやら色んな物が紹介されている。


「あー、そういや新しいノートとか買ってなかったっけ。あとルーズリーフももう無くなりそうなんだったわ」


 そんなことを考えているとインターホンが鳴った。誰なのかは何となく予想は出来る。


 モニターを確認すれば予想通り陽歌が居た。


 通話スイッチを押し『今開けるから待ってろ』とだけ言い玄関に向かい、ドアを開ける。

 そこにはもちろん陽歌が居たのだが、普段は殆どがフリフリの可愛い系の服にフリフリのスカートを履いている陽歌が、今日はシンプルな黒のパーカーにスキニーデニムを履いていたのでその目新しさに違和感を感じた。


「おはよう佑くん!」

「あぁ、おはよう」


 とりあえず家の中に陽歌を入れる。


「で、何か用か?」


 湯呑みにお茶を注ぎ陽歌に差し出しながら尋ねる。


「ありがと。えっと今日ね、入学式の準備があるんだけど、それまで暇だから来ちゃった」

「ん? 入学式の準備? それって俺聞いてないけど行かなくていいのか?」


 何も言われてないから行かなくていいはずだが、念のために聞いてみる。

 もし本当は行かなくちゃいけないのなら、転校早々以前に転校前からサボりとか教師の心象が悪すぎる気もする。


「大丈夫だよ。帰宅部の生徒で予定が空いてて来れる人は来てって言われてるだけだから。部活に入ってる人は活動があるかもしれないからね。ボランティアみたいな感じかな」

「ほぇ~、ちゃんと行くなんて偉いなお前」

「偉くなんてないよ。こんなの普通だよ」


 一般的な生徒なら、大半は強制じゃないなら行かないと思うけどな。それなのに行くとか普通に偉いだろ。


「でさ、佑くんの今日の予定は?」

「数学の宿題終わらせてその後ちょっと買い物に行く。学校始まる前に必要そうな物は買っとこうと思って」


 ついさっき見ていた情報番組のことを思い出し、買い物に行くことを決断してそれを陽歌に告げる。


「なんだぁー、残念」

「まさかとは思うけど、俺を準備に連れてこうとか思ってたわけじゃないよね?」

「そのまさかだよ!」

「いや行くわけねーだろ!」

「あはは! 分かってるよ、試しに聞いてみただけだから」

「というよりなんで私服? 学校行くのに大丈夫なのか?」


 学校に行くというのに私服で現れた陽歌に違和感を感じていた。


「あー、なんか制服じゃなくていいって先生が言ってたから。制服より動きやすい格好で来て下さいだってさ」

「へー、なるほど。だからか」

「んー? あっ……! もしかして、私の制服姿が見たかったとか?! あーでもでも、やっぱりそれは当日のお楽しみっていうかぁ! でもでもすごく可愛いブレザーだから期待しててね」

「いや、別に全くそんなこと思ってなかったわ。普段フリフリのお前が珍しくシンプルな服装してるから気になっただけ」

「もぉー! そこは楽しみにしてるって言ってくれても良いのに! あと、私だって常にフリフリの服を来てるわけじゃないんですー! そりゃ今でも着るけどさ」

「はいはい。陽歌の制服姿を見れるのを楽しみにしてます」

「ちょっと。感情が全く入ってないよ」


 陽歌はジト目でこちらを見つめてくる。


 いやでもちょっと待てよ?


 確かに花櫻学園の女子の制服は可愛かったような記憶がある。少なくとも前の学校や中学の時よりも。それを普通に可愛い陽歌が着たら――。


「……何? 私の事ぼーっと眺めちゃって。遂に私の魅力に気付いたわけ?」

「おう。確かに花櫻の制服を陽歌が着るとより可愛くなる気がしてきてな」


 当たり前のように口が動いてしまっていた。


 ――しまった……! ついうっかり口が滑ってしまった。このままでは安定の貶しタイムに突入してしまうかも……。

 例えば、うわぁー……、佑くんってやっぱ私のことそんな目で見てたんだキモーい。みたいな。


 そう思ったのだが陽歌の反応は違っていて――。


「……なっ! バカァー! 普段はそんな事全く言わないくせに急にそんな事言わないでよ! もう私行くから!」


 ——顔をみるみるうちに赤くして、少しの間の後にそう言った。


 その後陽歌はバッと立ち上がり、慌てて出て行ってしまった。


 な、なんだったんだ?


「……いや待てよ? ――っ?!」


 やってしまった。

 口が滑ったとは言っても、いつもの茶番と違って面と向かって割と普通に恥ずかしい事を言ってしまったのではないか?

 しかも真顔で……。でもよ、なんで陽歌が慌てるんだ?

 お前、普段から自分が可愛いの自覚してる発言してんじゃん。

 しかも制服姿楽しみにしてろって言ってたじゃん。


 この後俺は、陽歌が慌てていた理由をしばらく考えてみたが結局結論は出なかった。

 そして数学の課題をやるという予定をすっかり忘れて昼を迎えたのだった。

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