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3 騒がしい朝

「おっはよー佑くん!」


 始業式翌日の朝、校門まで来ると何故か陽歌が門の前に居た。


「おはようさん。誰かと待ち合わせでもしてんのか?」

「何言ってるの。佑くんを待ってたに決まってるじゃん。教室に入る時一人じゃ緊張しちゃうんじゃないかと思ってさ」

「子供じゃねーんだからいちいちそんな事で緊張なんてしねーよ。てか、それなら家から一緒に来ればよかったじゃん」

「いやー、それがさ、登校してる途中でそれに気が付いてさぁ」

「ふーん、何でもいいけど」


 そのまま陽歌と一緒に昇降口まで行き、靴箱から上履きを取り出し履き替えて教室に向かおうかという時、靴箱の先にある柱の後ろから、こちらの様子を伺っている人物の影が見えた。


「なんだ……?」

「どうかしたの?」

「いや、あそこにいる子、学級委員の杠葉さん」

「ん? あ! あやちゃん! こっち、というより佑くんを見てるみたいだけど、何か用があるんじゃない?」


 柱の方にゆっくりと近づいて距離を詰めると杠葉さんもこちらが近づいている事に気が付いたのか、ひょこっと柱から姿を出した。


「あ、あのっ……」


 続きの言葉を待ってみるが中々言葉が出てこない。とりあえずこちらから言葉を投げかけてみるとしよう。


「杠葉神社の巫女さん、まさか同じ学校で同じクラスになるなんてすごい驚いた」

「――気付いてくれてましたか。眼鏡を掛けてたのでもしかしたら気付いてくれないんじゃないかって不安だったので、ちょっと安心しました。それで、その……」


 杠葉さんの頬はやや紅潮し、顔は俯き気味ながら俺に何かを伝えようとしている。


 なんかこの子って、全ての仕草が何故だか可愛いんだよなぁ。


「き、昨日はありがとうございましたっ……!」


 それだけ言うと、杠葉さんは小走りでどこかに行ってしまった。

 靴箱の方に顔を向けると、陽歌が何やらニヤニヤしながらこちらに走ってくる。


「佑くん! 私は幼馴染にやっと春が到来する予感がしてちょっと感動してるよ!」

「えっ?! あの大天使杠葉さんと俺が?!」

「なーんて、ないない。一瞬そう思ったけど、やっぱないよねそんなわけ」


 キラキラした目から急転直下の冷めた目、上げてから落とすのやめてもらえませんかね?

 言ってみただけでそんなわけないことぐらいわかってるっつーの。


「あのさ、俺をからかって遊んでない? とはいえあの天使に限ってそんなわけないわなぁ」

「天使天使って、あやちゃんを見る目が安定のただのヘンタイでキモい。ところでそういえば知り合いっぽかったけどいつの間に口説いたの? ライバルは……まぁあれをカウントしていいのかわからないけど一人だよ! あれさえいなければもっと多いはずなんだけどね!」


 相変わらず容赦ない言葉の選択ですね、ホント。慣れてるからいいけどさ。あと、口説いてねーし。

 というよりライバル一人とは何故に? 容姿を見るだけだと陽歌と同等かそれ以上だけど? あの子がモテないわけなくない?


「二日前に杠葉神社に行ってな、それで色々あった。ちなみに口説いてなどいない、以上」

「あぁー、じゃああのお守りはその時ゲットしたのかぁ。納得っ! で、その時口説いたと」


 どうやら納得してくれたらしい。口説いたという誤解を除いて……。

 そもそも俺は口説きのテクニックなんて持ち合わせていないことをお前はよく理解しているはずなんだが。


 というより杠葉さん、やっぱり昨日は困ってたんだな。


 なら何故学級委員になる選択をしたのだろうか、疑問は膨らむばかりだ。


「そういや杠葉さん、今日は眼鏡掛けてなかったな」

「神社のお手伝いとか体育の授業がある日は掛けてないよ。あとはまちまち、掛けてたり掛けてなかったり」

「へーそうなんだ。どっちも天使だからいいけど」

「やっぱキモイ……」


 陽歌は冷ややかな目で見てくるが、いつものことなのでスルー。


 教室に入ると、男女合わせて八名ほどの生徒が、ある机を囲って賑やかに話をしている。その机の中心人物は昨日の藤崎先生との会話の中心人物、二岡である。


 こうして見ると、ただの超人気者にしか見えないんだけどな。


 席に着いてチャイムが鳴るまでボーッとしようと思っていたのだが、陽歌が自分の席に鞄を置くなり直ぐに俺の席に駆け寄ってきた。


「ボーッとしようと思ってたんだけど」

「もう! 転校してきたばっかなんだから積極的に色んな人とコミュニケーションを取んなきゃダメだよ!」

「俺はお前と違ってコミュ力おばけじゃないんだから簡単に言うな。俺のコミュ力は陽歌と比べると月とすっぽんなんだぞ」

「コミュ力があるのとコミュニケーションを取ろうとするのは別なんです~。ほら、つべこべ言ってないで行くよ!」

「行くってどこに?!」


 俺の質問はどこへ行ったのやら、陽歌は俺の左腕をガッチリ掴んで引っ張り出す。


「おい! 痛え! やめろぉ!」

「さあ行くよー!」

「だから! 行くってどこに?!」

「何やってんのあんたたち……」


 登校して来た有紗が俺たちを見るなり、少し冷めた声で聞いてくる。


「あ、有紗ちゃん! おはよう! そうだ、この人のお友達になってあげて!」


 それを聞くと有紗はクスッと笑った。


「心配しないではるちゃん。こいつはもう私の下僕のようなもんだから」

「それは余計心配になるよっ?!」


 陽歌は驚愕といった表情をしている。俺も下僕になった覚えはないし、そう認識されてるならそれを改める必要がある。


 というより、本当に俺を下僕だと思ってるならお前の性格が心配だよ俺は。


「ふふっ、下僕は冗談だけど、まぁ割と仲良くしてるから安心して」

「なんだぁ~、よかったぁ。でも佑くん、あやちゃんに続いて有紗ちゃんまで攻略済みとはやるじゃん! 私びっくりだよ~」


 攻略とは……その発想に俺もびっくりだよ。杠葉さんと有紗って俺が主人公のギャルゲーのヒロインだったの? それならそれで大歓迎だけど……。


「はるちゃん。私、こいつに攻略された覚えはないんだけど」


 ニッコリスマイル! いや、隠し切れてねぇから。怖いぞ、顔。

 ほらな? やっぱ俺が主人公のギャルゲーなんて無いじゃん。


「なんだなんだ騒がしいな転校生!」


 そこそこにぎやかな俺たちの雰囲気に釣られたように一人の男子生徒が輪に入ってきた。


「あ、相沢、おはー」

「おはよう良介くん」

「おはようお二人さん!」

「おい相沢、騒がしいのは俺じゃねぇ、この二人な」


 俺に話しかけて来たこの男子生徒は相沢良介(あいざわりょうすけ)という小学校、中学校時代の同級生だ。

 このクラスにおいて、俺の小学、中学時代の同級生は陽歌と相沢の二人だけ。二人しかいないとも思えるが、二人いるだけでもかなり助かる。なんなら、通ってた中学から花櫻学園に入学した同級生は、確か十人くらい? だった気がするから、二人なら多い方かもしれない。


「そんなことねーぞ。相変わらず御影と(たわむ)れてたじゃねーか。そしてそれに加えて姫宮ともだと? はぁ、モテ男はうらやましいなぁ」

「どう見てもモテ男は俺じゃなくてあっちだろ」


 俺の視線の先には、机の周りに人が集まり爽やかスマイルを浮かべている二岡がいる。


「あぁ、あいつは二岡真人(におかまさと)って言ってな、クラス一の人気者、いや、学年一、学園一か、とりあえず超人気者、花櫻のスーパースターだ」

「見りゃわかる」

「相変わらずムカつくわね」

「まぁまぁ有紗ちゃん、落ち着いて」


 有紗は二岡を見るなり苛立ちを募らせる。

 昨日からの態度を見る限り、個人的な恨みでもあるのかと勘繰ってしまう。まぁ、あんな言われ方をしたら恨むのも必然な気もするけど。


「お、早速集まってんな!」


 聴き慣れない声と共に見知らぬ三人組が教室に入ってくるなり、俺達の輪の中に加わってきた。

 これで、俺の机を六人が囲んでいる。


 待てよ? 二岡が八人、俺が六人、しれっと良い勝負してね?! ……まぁ、所詮は転校生バブルなんですけどね。


「俺、涌井猛(わくいたけし)! よろしくな!」

「あたしは春田弥生(はるたやよい)! よろしくね」

「うちは臼井慧(うすいけい)。よろしく」


 俺の机を囲む三人は順々に自己紹介をしてくれる。

「えっと、涌井に春田に臼井だな、覚えた。よろしく。その、クラスメイトだよな?」

「そうだよ佑くん! 昨日自己紹介した時にクラスのみんなの顔確認しなかったの?」

「しようと思ったんだけどな、有紗の金髪見たら相変わらずのインパクトですっかり頭から抜けちまってた」

「何よそれ、私の髪が変だって言いたい訳?」


 有紗は机をバンッと叩いて威嚇してくる。


「そうは言ってねーだろ」

「ははっ! おもしれーなお前ら!」

「涌井って言ったわね、何あんたも一緒になってバカにしてんのよ!」


 どうやら有紗と涌井も今日が接するのが初めてのようだ。


「あぁ、ごめんね姫宮さん。こいつ普段から空気読めなくってさぁ」

「そうそう! というか、姫ちんのヘアスタイル抜群に似合ってるんだけど、涌井っち、姫ちんになんか言うことないんじゃない?」


 臼井が涌井に代わって有紗に謝ると春田も謝るように涌井に促している。


「えっとその、二人とも……?」


 涌井は春田と臼井にそう言われて焦りを見せ始める。

 涌井は別に有紗を笑ったわけじゃないと思うんだけどな。


「涌井、とりあえず謝っとけ」


 相沢がすかさずそう言うが、確かにとりあえず謝っておけばこの場は収まるだろう。

 いや、多分涌井は悪くないはずなんだけどね。


「そのヘアスタイルが似合ってないと思ってる訳じゃなくて、ただ椎名が面白いなと思って笑ってしまいました! 不快な思いをさせてしまいすいませんでした!」

「素直でよろしい! 次からは気をつけるように!」


 涌井の謝罪を受けて有紗はすっかり機嫌を取り戻した様だ。それより、涌井は一体俺の何が面白かったというのだろうか。疑問に思うがわざわざ確認するのも面倒だから、聞き流すとしよう。


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