#9 / やっちゃった!?
ゲームセンターで九条恵と一緒に遊んだ後、適当に喫茶店で休んでいた。
「適当に何かしているつもりだったけど。実際のところそこまで何かしたいと思わないわね。」
「普段はこういうことはしないのか?」
「何か良いネタはないのかしら。」
ネタを要求されても困るのだが、家で暇をつぶすわけにはいかないのだろうか。
「何か良いネタをとは言ってもな。そう簡単に出せるほどおしゃべりじゃないんだ。」
「そう。適当に時間を潰す方法はないと。」
「九条の家はどうなんだ?」
「私は自分を考え直す時間が必要なのよ。」
そういういみのわからない事を言っているが、どこか悪いことでもあったのだろうか。
「何の淀みもない感じになったら良いのに。」
「つまり、平和に暮らしたいって事?」
「目の前の人類全てが、NPCのように生きていたら良いのに。」
「そんな要求されても困るんだけど。」
「人生が長すぎると、面倒くさいとは思うのよね。」
17歳のくせに考えていることがダメ過ぎる。
「突然ガメラが襲いかかってきて人類が滅べば良いのに。」
「何でガメラなんだ・・。」
「ゴジラは新しい映画出来たけど、ガメラは出なかったわね。」
そんなの僕は知らない。
「何で面倒くさいって思ってるんだ?」
「面倒なものは面倒でしょう?毎日のように試験や勉強の心配ばかりする親や、将来のことだけ考えられても。私は何も興味はないから。」
「興味ね。」
「金さえあれば生きていられるんだから、別にそこまで多額のお金がなくても良いと思うんだけど。」
「・・・・。」
九条恵みたいな事を言った人は他にもいるけれど、しかしその考え方だと虚無感を感じたりしないのだろうか。
全てが寒い空間というか。どこか人間味すら消えているような気はする。
「それじゃ囚人みたいじゃないか?」
「別に、拘束なんてしていないじゃない。ルールも、別に決めていないんだから。」
それはつまり、一歩も動かない柴犬のようなものだった。
「惰性、と少し違うわね。単純に意味が感じられないというか、別に生きるだけならそこまで力なんてなくて良いはずなのに。」
金や力がなくても、適度に清貧生活ができていれば良いと彼女は言ったが。
そんなことができる人間は少数派だということが問題なのだ。
「綺麗に生きていれば、それなりに何とかなると思うわ。」
「言っている意味が分からない。」
妹のように下品な事を言っているわけじゃないけれど。彼女の場合、それはそれであまりにも人間性がおかしい気はする。
「何も無いまま人生を終了させたいのかお前は。」
「終了っていうより投了ね。」
前、麻雀ゲームで投了したくないにもかかわらずNPCが勝手に投了するせいで勝てなかった時があるのだが。あれは一体、どうしたら僕は勝てたのだろうか。
ボードゲームが弱いタイプの人間は、最弱のNPCにすら負けるという事実を理解できていない人は多い。
何でだろうか、別に悪いことはしていないつもりなんだろうけど
「勝手に投げ出したいという気持ちは誰にだってあるだろ。」
「えぇ。でもそうじゃ無くて、ただ生きているだけなら別に何も問題ないじゃない。」
「えぇと。じゃぁ、どうなって欲しいんだ?」
他の人間に対する欲求が、割と意味不明な感じに説明されている気がする。
「分からないわね。私、そう言葉はうまくないし。」
「もう少し何とかならないか?夢とか、アイドルになりたいとかでも良いから。」
「私、ああいうのを見ると血糖値上がるのよね・・。」
「そうか・・。」
「ある意味、誰が見ても私はつまらない人間なのかもしれない。人間が大人しく生きていれば良いと思っているけど、結局私は人間関係という仕事を放棄したいだけだし。」
雨宮梓から少し聞いた情報によると、九条のワーキングメモリは微妙だとか。
仕事の効率が悪いわけではないが、決して有能ではない彼女はただよく分からない虚無感を受け入れている。
「周囲の人間がロボットみたいに生きてくれれば良いのか?」
「そんな高性能なロボットなんて今まで存在しなかったでしょう。」
確かにそれはそうだけど。
「いいえ、ある意味ロボットなのは私の方なのかもしれないわね。」
「感情はあるだろ。」
「感情なんて、それこそストレスの数値でしかないんじゃない?」
「・・・とりあえず、九条としてはそんな生活をしていても平気なのか?」
「平気とは少し違うわね。」
「?」
「他人が全員一緒に見えるっていうか。友達と他人の区別が曖昧になってくるっていうか。全般的に見て、特別というものがないから。消えてなくなりたいという人がいるけど。私の場合、もう既に他人なんてほとんど一緒なのだから。そんなセンチメンタリズムにすら縁遠い。」
「僕は、他の誰かと一緒だと・・?」
「梓を特別に感じていたのは、ただ彼女が私より殆どのことをこなせているから。私より能力値が高いくせに、それでも気取ったところもないから。ある意味別の人類にも感じていたけど。」
「そ、そうなのか?」
梓がそこまで頭が良い、わけではない気はするが。
ある意味、それは九条が彼女を過大評価しすぎていただけなんじゃないか。
「それでも。気持ち悪いと感じることはあるんだな。他人を。」
「そうでしょうね。貴方たちみたいに、人目を気にせず、あんな事をしたんだから。ただ、私としてはどうして彼女が肉欲を選んだのか気になるんだけど。」
「肉欲って。」
「変な高い牛肉でも食べて性的に興奮しすぎていたのかしら。」
「梓が聞いたら怒らないかそれ。」
本当に牛肉を食べていたとしても、普通あんな行動はしないだろう。
「・・・貴方は、梓のこと好きなの?」
「え?」
「本当は、どうなの?」
「それは・・。」
分からない。本当に好きかどうかを聞かれてもそれは困る問題だ。
「そう。面倒くさいのね人間って。漫画どころか現実まで引き延ばし展開をしてくるんだから。」
「・・・・。」
漫画の場合、どう考えてもそれは不自然だろみたいな事を平気でやれるから。
「漫画とか読むんだから、九条にとっては現実に何か良いこととか起きて欲しいんじゃないか?」
「別に。何もないけれど。・・・・・」
そして、九条恵はこちらを見る。
それが一体どういう意味なのか、最初のうちはまるで分からなかった。
「梓がどうしてあんな事をしたのか。とりあえず確かめる必要性はあるようね。」
そして、場所はまた変わる。
喫茶店で飲食をした後に向かったのは、誰もいない公園だった。
そこの木の下で、九条恵は僕の目の前に立つことになる。
これが一体どういう状況なのか、どうして彼女がそんな事をするのかは分かったけれど。
しかし、梓の真似をすることが彼女にとって良いことなのか。
「私が喫茶店の中で試さないのは、飲食中だからというのもあったのよ。」
「つまり・・。」
お互いに水を一度飲み干した後だからだろうけど。
つまり、九条恵は当時教室で僕と梓を見たときに気持ち悪くなったのは口の中に食べ物を含んでいたからだろうか。
クッキーか、あるいはガムか何かを。
気持ち悪くなったのは、割と結構仕方がなかったのかもしれない。
「梓以外に女の子と付き合ったことはあるの?」
「いや、ないけど。」
「妹さんは?」
「何でみんな、僕と妹がそういう関係になっているところを妄想するんだ?」
「そう。」
「というか、僕が九条にそんな行為を試さなくちゃいけないのはどうかと思うけど。」
「じゃぁエロくなければ良いのよ。」
「えっと。どういう意味だ?」
「梓にした事と同じ事を、とりあえずしてみれば良いわ。私は、それで判断するから。」
その彼女のいうとおり、僕は彼女にキスをすることにした。
教室でやったことは、実際には梓からされたことになっているんだが。しかしそれを説明する気はなかった。
九条恵にキスをする。彼女にとって初めての行為だったはずだろうし、二人目とはいえ緊張してしまう。
「ん・・。」
胸を触ると、梓ほどじゃないが良い感触があった。
「梓・・こんなことやってたんだ。」
「大丈夫か?」
「・・・もうすこし、こうしていたい。」
「もっと触れても良いのか?」
「・・う、うん。」
彼女の言動を信じて、僕は彼女の上着の下から手を入れる。
九条は緊張している様子だったが、そこに彼女が前に言っていたような苦痛や嫌悪感はないはずだ。
彼女の体の暖かさを感じられる。
ギリギリのところまでなら、ここでそういう事をしても大丈夫だと。僕はそう思っていた。
「何、やってるの?」
「「え?」」
何故か真里奈が。吹奏楽部で練習しているはずの真里奈が僕たちを発見していた。
「えっと。これは。」
「貴方、梓の彼氏だったはずじゃ・・まさか、これって・・。」
「ち、違うわよ!ていうかいきなり誰よ貴方!?」
「そ、その。誰にも言わないから、まさか私と同じ学校の生徒が公然猥褻していたなんて誰にも言わないから!!」
ただ、そのセリフが明らかに大声だった。
真里奈はそのまま勢いよく走り出し、何処かへ逃げてしまった。
「ど、どうしよう。」
「・・・・まぁ、良い子そうだし良いんじゃない?」
どうしてこういうことになってしまうのだろうか。
まだ波乱?の状況は続きそうではあった。




