#6 / 暇な女王
梓は松井と一緒に美術室で絵を描いていた。
最初は無言だったものの、最終的にだるくなってきてスムーズに行かなくなっている。
「努力しない人が嫌い。じゃなかったのかしら。」
「私はもう無理ね。」
「メイド服を着てエロいポーズを取らされたくなかったら、もう少し考えてくれるかしら。」
「くっ。私の処女が目当て!?」
「・・・・・。」
「う、虫を見るような目で。」
「虫ではなく爬虫類ね。この場合。」
「・・・・ふむ。もしかして、噂の彼氏とデートできなくて不機嫌だったりする?」
「・・・・・。校内デートの約束はしているから。」
「は?」
他の美術部員も含め、は?以外のリアクションしかできなかった。
「私たちに対する当て付け?」
「そうね。メールで学校まで来たらいいことをしてあげるとは言ったけれど。何故か変顔の犬画像をプレゼントされたわね。」
「少なくとも貴方よりは健全で良かったわね・・。」
「残念ね。」
「あのね。もしそれで、彼が変な気を起こして襲いかかってきたらどうするつもり?」
「私なりの観察眼で考えれば彼はそうしないタイプに見えたけれど。彼、妹がいるみたいだし。」
「・・それ、前から知ってたの?」
「勘よ。」
「・・・えっと、真面目に聞いてるんだけど。」
「だから。勘。彼の言動や態度から見て、明らかに妹がいるなって。そう思っただけだから。」
「・・・・・わからない。私は一体なにと会話しているんだ。」
「どうでもいいけれど。真面目に手を動かしてくれる?言動と行動がまるで一致していない貴方を見るとイライラしてくるわね。」
梓に取っては、松井さんのことよりも立夏の方が気になるが。
彼は一体今頃なにをしているんだろうか。
妹から貰った変な画像を届けておいたが、意味は全く無かった。
とりあえずこれやったら面白いんじゃない?という妹からの助言だが。とりあえず僕はそのまま学校へ向かう。
適当に坂道を歩いた後、試しに裏庭へやってくるとそこにはトランペットを吹いている少女がいた。
吹奏楽部の練習、だろうか。彼女は綺麗な音色を出した後に、演奏をすぐにやめてしまった。
「・・・はぁ。全く。いつまでやってればいいんだか。」
「?」
彼女の言葉の意味がよくわからなかった。彼女を見ていると、気付かれてしまった。
「・・・誰?」
「朝倉立夏です。」
「・・・・遠見真里奈。」
普通に自己紹介してしまったけれど、まぁ同じ学校だからいいだろう。
「練習、頑張っているんだな。」
「なに?新手のナンパ?」
似たようなことを誰かに言われた気はするけど。恵に比べると真里奈は明らかに警戒の度合いが違う。
「ま、前からよくここで演奏していたから。気になっただけだよ。」
「・・・・・鬱陶しい。」
「・・・さっきの、どういう意味なんだ?」
「え?」
「だから、いつまでやってればいいとか。」
「・・・盗み聞きなんて。」
そう言った彼女は近くにあった椅子に座る。
「適当に練習してろって、パートリーダーに放置されただけよ。吹奏楽部で、本格的に大会に出るために練習するかしないかでかなり揉めてるから。」
「聞かなかった事にしておこう。」
「待ちなさい。」
逃げようとしたら止められた。
「ここまで言わせておいて自分は逃げる気?貴方、部活は?」
「帰宅部だ。」
「・・・・面白い人ね。殺されたいの?」
ここまで怖すぎる殺されたいの?があるんだろうか。
本当に逃げたかったが、とりあえず話だけはしてみよう。
「いや。えっと。知り合いのパシリになっただけだから。勘違いするな。」
「そう。そういう可愛そうな役回りは嫌いじゃないけど。」
「・・・・それで、大会に出る出ないというのはまだ争っている途中だと。」
「そうね。どうして、女ってこうも面倒なのかしら。」
「面倒っていうか。大会に出て金賞とか取れるレベルなのか?」
「その場で本当に殺されたく無かったらそれ以上言うのはやめなさい。」
「・・・・。」
「でも、そうね。喉が渇いたし。貴方パシリなんでしょう?」
「・・・・。」
本当は自分の彼女?と校内デートする予定だとか言ったら本当に殺されるんじゃないかと思っていた。
「水でいいから買ってきてくれる?」
「・・・それでいいのなら。」
そして、自動販売機にとあえず移動してみた。
そして、帰ってきてみると彼女はそのまま待っていたようだ。
「本当に買ってきてくれるあたり、私に気があるんじゃないの?」
「それと似たような事言われたけど。そうじゃないと思う。」
「誰に?」
「九条恵という子。」
「あぁ。ドッチボールで変な転び方した子・・。」
「・・・。」
物凄く内容を聞いてみたかったが、今はやめておいた。
「そんな子からも警戒されるようなことを?」
「いや。むしろ事故っていうか。」
「そう。事故。」
別に深い意味などないが。彼女はただ、その場でゆっくりしたいように見えていた。
「遠見さんは、大会に出たいのか?」
「分からないわね。」
「分からない?」
何ていうか。分からないという言葉を口にするやつと会うことが多い気がする。
「あまり本気で打ち込むと、将来に影響が出るかもしれない。音楽の道に進んだところで、どこかで限界が出てくるかもしれない。いくら私でも、そこまで別に高望みはしていないから。」
「そういう青春とかは興味はないのか。」
「貴方は、どっちを選べる?大会に出れるように頑張るか。それとも、部活動でふざけで遊んでいる程度にしたいか。」
「本気でやるかやらないかなんて。部外者の僕に判断できるものじゃないだろ。」
「そうね。理屈で考えたら、普通は遊んでいる方がいいものね。」
「・・・なんで?」
「きついから。」
正直、それはあんまりじゃないか。そうは思ったけれど、でも全国大会に行けるまで練習なんて難しいだろうし。
「だから。吹奏楽部は東西に二分化されて、抗争中。」
「君は、やるとしたらどっちなんだ?」
「私は中立に立って。もし賛成数と反対数が均等になったらどうするか。1円玉を投げて決めるわ。」
「せめて500円にしろよ。なんでそこでケチる・・?」
そもそも本当に半分に分かれる可能性もないので。本当にコインを投げて決めるなんてことはないはずだが。
「あっちの方に3年の綺麗な先輩がいるから。ナンパしてきたらどう?」
「なに言ってんの?」
2年生の女子高生にナンパさせられようとしている僕は一体なんなのか。
「精神的に弱らせて彼女を大会向けレッスンの反対派に転向させるのよ。」
「・・・あの、あそこにいる人がそうなのか?」
彼女が指さした方向には確かに、その綺麗な先輩がいたけれど。
「というか、そんなことをして何の得が?」
「綺麗な人が、突然現れた男の人と出会ったらという妄想を実現してみようかって。」
「・・・。」
どうやら遠見真里奈は雨宮梓並に鬼畜なんじゃないか。
「断るよ。そんなことをして僕が別の女の子に目をつけられたらどうする。」
「そうね。女の子って怖いものね。」
「大体、なんでそういうことを僕にやらせようとするんだ。」
「暇つぶし。」
「・・・・。」
「いいからいいから。」
やっちゃえ!と女の子に言われているけど。男としては物凄く情けない気持ちになる。
とりあえず、その3年生の中居瑞穂という女子生徒に近づいて話しかけてみ用とした。しかし。
「真里奈と話してきたんでしょう?」
どうやらバレていたようだ。
「悪いけど。私に話しかけないでくれる?」
その睨む目は、リアルに恐怖を感じるものだった。
「本気で怒られたいの?」
僕は逃げた。
そして僕は真里奈に抗議した。
「君は僕をどうしたいんだ?」
「流石に、貴方程度じゃ先輩を落とせなかったわね。」
「どんな奴でも無理だと思う。場合によっては僕は社会的に死にそう。」
しかし、その中居さんは遠見の事をよく知っているのかその場ですぐに怒ることはなかったが。
「面白い事になりそうだと思ったけど。いきなり中居先輩を籠絡するのは無理ね。」
「お前はなにがしたいんだ?」
梓とは別の意味で意味不明な空気を持ってる。
「もし。この吹奏楽部の中で誰か一人が男を理由に大会出場反対に寝返ったら・・面白そうじゃない?」
「・・・・・お前がやれ。」
「あははは。そんな事をしたら私が怒られるに決まってるじゃない。というか、私と付き合いたいの?」
「誰がそう言ったんだ。他のやつと付き合え。僕はそんな女の子同士の修羅場に付き合いたくない。」
「えー。一緒にやろうよ吹奏楽部。」
「いきなりなんだお前・・・。大体僕は楽器弾けないし。」
「大丈夫よ。高校で楽器初めての子もいるからギリギリ。」
「なんでいきなり親身になるんだ。遠見はとりあえず大人しく練習してくれ。あんなに上手いのにどうして途中で止めたりするんだ。」
「同じ曲を37回も吹いてるのにまだやれっていうのね。」
「ん、じゃぁ昨日は?」
「55回ぐらい。」
「・・・・・。」
まぁ、それぐらいやらないと一日潰せない・・か?
「とりあえず私の演奏を聴きたいということね。それで私のファンになってくれるのなら別にいいけど。」
「ファンでいいよもう。」
「じゃぁ、特に静聴して聴くといいわ。」
ん?それ日本語はあってるのか?奇妙な言い間違いに聞こえてしまったが、彼女の演奏を聞くしか無い。
その演奏を数分、僕はそのまま立って聴いていた。
「大会に出場できそうなんじゃないか?」
「私だけ考えてもダメよ。」
「それもそうだな。」
「それで、貴方は何か用があったんじゃなかったの?後に誰かいるけど。」
「え?」
後ろを見ると、雨宮梓がいた。
「・・・えっと。」
「ここに来て早々浮気だなんて。いい趣味をしているのね。」
「浮気・・?」
遠見は何で?と言う表情になっていたが、梓は別に怒ってるようには見えなかった。
「部長から吹奏楽部が東西分裂中って話を聞いたけど。そんな中でパートリーダーよりも演奏が上手い貴方は、どうしてそんな感じなのかしら。」
「えっと。貴方は・・その人の彼女だったりする?」
「そうね。」
「もしかして対抗意識燃やしたりしてない?」
物凄く意地悪な言動をしたが、あずさは気にしていない様子だった。
「ある意味、貴方は部長が一番嫌いな人かもしれないわね。」
「え?どこの?」
恐らく松井部長のことだろうけど、遠見には分からなかったようだ。
突然梓は僕の手を引っ張ってその場を離れようとする。
「ちょっと?いきなり行かないでよ。それとも本当にやきもちだったら誤解しないでよね!ねぇ、名前ぐらい言ったら!?」
ガン無視である。
雨宮梓は彼女の声を聞かず、そのまま僕と一緒に校内へと拉致した。
残された彼女は、あまり納得がいっていない様子だった。
「なにあれ。でも、本当にやきもちだったりしたら可愛いけど。そうね、後でまた会ったら何か話でもしようかしら。」
「さっきから何やってるの・・貴方は。」
「あれ?先輩?」
中居はいつの間にかそばに立っていた。
「あの男子を突然私に話しかけさせたり、私をストレスで退部させたいの?」
「中居先輩がいないと少し寂しいですけど。」
「貴方、時々空気が読めないって言われない?」
「そうですね。」
遠見真里奈にとっては、雨宮梓に言われたことが気になっていた。
自分が、どこかの部長が一番嫌いな人かもしれないって。どう言う意味なのか分からなかった。
「明日もう一度立夏のことからかって、それから私は部活のことを考えてみます。」
「・・・あの、真里奈ちゃん?」
「さっきの女の子に対抗意識を燃やしているわけじゃありません。勘違いしないでくださいね。」
「そ、そう。」
突然何かに燃え出してきた彼女の様子がわからなくなってきた中居だった。




