#4 / 部長が言うには無能が嫌いなんじゃくて努力しない奴が嫌いらしい
雨の勢いが一段と強くなっていく。正直、この数年間やたら雨が多い気がするけれど。
その雨の中勉強するのもかなり憂鬱な気分で、湿度に気分を害される事に僕は抗議したかった。
しかも夜はくそ寒いことがあり、一度しまった毛布を取り出すこともあった。
明らかにこれは寒がりの僕を殺しにきているんだろうと思わせる。湿度が高くても寒いと逆に体がおかしくなりそうだ。
とはいえ、年中暗いというのはどういうことなんだろうか。
地球温暖化というと、まるで水分が全て蒸発してしまいそうな環境になるのかと思っていたが。それもまた違う話である。
「昼だというのにこうも暗いと、カーテンを閉めていたら一層わけが分からなくなるわね。」
雨宮梓はそう言って、適当に彼女が自作していた弁当を食べている。
微妙に炭水化物が少ないような気がするが、彼女はダイエットでもしているんだろうか。
「学校を卒業したらどうするの?」
「いきなりその話か。」
「私と結婚したいと言われても、今は返事できないわよ。」
奇跡的にその発言は誰にも聞こえていなかったが、ちょっと心臓に悪すぎないかそれは。
「梓はどうするんだ?」
「分からないわね。」
そう言っているが、その分からないは無知だからというよりは不安による物だろう。
「美大に行って、その後に知り合いと一緒にアニメーターを目指すつもりなのだけれど。」
「はぁ。」
自分と違って凄い夢だとは思うが。大丈夫だろうか。
「PCやIpadでも絵が描けるように練習して、それで有名なアニメ制作会社に勤められればいいなという希望的観測論。正直、進路相談でも先生はコメントしづらい進路だから。仕方がないわね。」
「絵がうまければいいんじゃないか?」
「さぁ。もし間違って変な会社に就職してしまったら、内容の薄いアニメをギリギリの給料で作らされる可能性もあるから。注意した方がいいわね。」
「嫌なことを言うな・・・。」
「いくら実力はあっても、場合によってはその仕事で食えない場合もある。そんな仕事はやめてくれって先生が泣いて懇願していたけれど。この私も流石に困ったわね。まるで死にに行こうとする特攻兵じゃない私。」
「・・・・。」
昼休み中にそんな重い話を聞かされる僕はどうしたらいいんだ。
「それで。貴方は?」
「まだ分からない。」
「そう。それもいいわね。年収300万以下でも生きていけるんじゃないかしら。」
「嫌なことを言うな・・。」
「そして私は意味のわからない低収入で高品質アニメを手がける。」
「やめろ。本当にそうなったら死にたくなる。」
「ある意味、これってどう言う状況なのかしら。私たち、冷静に考えたら現実的にまともに生きる方が不可能なんじゃないかしら。」
「なんでか一応聞いておこうか?」
「いいえ。本当のところ、私も好きなアニメの原画と同じ程度の絵を描き続けられるのか。部活でテストさせられたことがあるのよね。」
梓は美術部に入っている事自体は知っていたけど、まさかそこまでするとは。
「正直きついわね。部長が一度指定した絵を私が短時間で描く作業をしようとなると。正直、命がいくつあっても足りなさそう。」
「部長は、絵上手いのか?」
「じゃなかったら、部長になれないでしょね。何故か人材豊富なのよね、美術部は。」
教材がたくさんあるからだろうか。今まで描かれてきた物が多くネットで手に入る分、その技術を吸収できる余地のある人間はすぐに上達する。
その意味では、僕とはかなり大違いの人間のようだが。
「でも、一人ぐらいあまり絵が上手くない人はいるわね。」
「世の中無能そうは人は結構いるけど。」
「部長にとっては、物を貰ったり渡したりする以上の努力をしない半端な人間が嫌いみたいね。」
「はぁ。」
「勉強こそ多少はできるけれど。でも知識を吸収することはできても仕事はできない。スキルを得る努力をないことで、未熟な人間のまま無駄に時間を潰す人が一番嫌い。松井さんは、何も努力しない人が一番嫌いで。努力しても能力が伸びない人よりも、努力せずに生きていこうとする人間に対する憎悪が人一倍強いみたい。」
「・・・・・。」
例えば、低収入でもしつこいレベルで生きていこうとするタイプのだらしない人間とか。
本当ならいくらでもチャンスがあったのに、そのチャンスを全て無駄にして生きている無能・・。
美術部の部長、松井さんの言うとおり確かにダメな存在ではあるが。
「でも、今時そんな人間はいっぱいいるものね。」
「スキルを持つことができないだけで、仕方ないんじゃないかそれは。」
「貴方は、才能がないのをスキルを持つことができないと言い換えて誤魔化そうとしなかった?」
確かに、僕の言っていることはそう言う酷い言い方になるけど。
じゃぁ、他にどう言えばいいんだろうか。運命じゃなかったとか、もっと他の才能を目指せとか?
「昔とどう違うんだ?昔だって無能な人ぐらいたくさんいたはず。」
「そうね。適当にただ飯を食べて暇を潰して、簡単な仕事をこなせる一種の緩い奴隷が大量生産されればいいけど。でもそれは関係ないでしょう?」
「は?」
関係、ない?
「だから。そんな人たちが多く居ても意味がない。その人たちが他の手段で、価値のある労働をしない限りは。」
「松井さんと何を話していたんだ・・!?」
「日本の、特に地方の人口をどうやったら倍増させられるかを考えていただけ。」
「・・・・。」
女子高生のくせになんて現実主義・・。
「もっとも、場所によっては無理な感じもあるけれど。もし本当に金をより多く集めたかったら。私たちが作る価値を見る、共有したいと思う人間たちが今よりももっと多くないといけないそうだけど。松井さんはとりあえず、英語の勉強をする事にしたそうね。」
「・・・・英語ができた方が、翻訳してより多くの人に伝わるようなものを作れるから?」
「適当に動画に何かしらアップできればいいなと。彼女はそう思っていたけれど。残念ながら彼女に英語の才能はなかったようね。テストの点数、赤点ギリギリだったそうよ。」
「・・・・一応努力はしたんだな。」
「まさか、自分が一番嫌いな人間になるわけないでしょうね。それとも、本当は笑いがとりたかっただけだったり。」
「笑いを取るためにそんな大袈裟な話を梓に持ち出したのか?」
「そうね。とりあえず、赤点を取った罰に彼女は一日メイド服で過ごさせてもらったけれど。」
「・・・・・。」
一体、美術部は何をしているんだろうか。明らかに問題がありそうな気がしてならない。
放課後、僕と梓はそのまま商店街へ向かった。事実上雨の中でデートという事になるが、その初デートの場所はカラオケボックスだった。
「さて。続きをしましょうか。」
「続き?何を言ってるんだ?」
「だから。あの時の続き。美術部や他の用事で忙しかったし。何より第三者が深入りできないでしょう?」
「この場所を選んだのはそういう理由?大丈夫なわけないだろう?」
「別に本格的な事するわけないじゃない。」
「・・・・まだ恵が、当時の感想がどんなものか言ってなかったな。」
「どうせ、気持ち悪いって思っているんでしょう?恵は見た目通り子供だから、漫画みたいにドキドキできると期待していそうじゃない。」
「お前は違うのか?」
「貴方は、恵の方が好みなの?」
質問を質問で返されたが、しかし恵のことが好きかと言われても困る。
「あの茶髪おさげが幼児っぽく見えて犯したいとかそういう感覚はある?」
「お前は僕を警察に突き出したいのか!?」
「エロい話なんて結局そういうものでしょう?」
「それでも恵はお前の幼なじみじゃないか?」
「幼なじみだけど、でも彼女はもう少し大人になってもらわないと。」
なんで保護者みたいな態度なんだろうか。
あまり納得がいかないというか、正直彼女はわざと僕を困らせようとしているとしか思えなかった。




