#2 / ある意味試練?
その光景を見ていた九条恵はどうしていいのか分からなかった。
幼なじみである雨宮梓が、あのクラスメイトの男子生徒に対してあのようなハレンチな真似をしているのは悪夢でしかなかった。
自分を差し置いてどうしてあんな男と付き合っているのか分からない。
顔が自分好みだったからなのだろうか。それとも実はお金持ちの息子だったりするんだろうか。それ以外にあるとすれば、一目惚れなのか?
実は何かひどい物に影響されたのかもしれない。九条恵にとって雨宮梓は幼なじみであり、そして最も愛情が深かったはずだと。
だが、それは恵視点で見たただの思い違いである。
雨宮梓にとっては、必ずしも九条恵だけを特別に見ているわけではないことに彼女は気付いていなかった。
ただそんな気持ちを理解する心の知能指数の低い残念な少女は、こうしてただ教室で既成事実を作った二人を見た後に逃走した。
見てはいけない現実を知ってしまったかのような感覚。
自分ではなくあの男子生徒を選んだ違和感に九条恵は混乱している最中だった。
「はぁ・・・はぁ・・・・。」
水道で水を大量に飲む。意味のない行為かもしれないが、自律神経を強引に整える程度にはなるかもしれなかった。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・・・。」
どうして自分がこんな気持ちになっていのかわからない。
五月のくせに妙に高い湿度のせいで体全身に虫が湧いているような錯覚を覚えていた。
せめて学校が全館冷房設備になっていればいいが、そんな余裕がないのが現実である。
「・・・・気持ち悪い・・・。」
そう恵は言った後、自分の力ですぐに帰宅する事にした。
「女の匂いがする。」
家に帰った朝倉立夏は、朝倉美亜という妹にそう言われていた。
リビングでくつろいでいる最中だが、そんなに梓の匂いが移っていたんだろうか。
「いや、わかる分けないだろ。」
犬なみの嗅覚を有しているんだろうか。
「お兄ちゃん、誰かと変な事していなかった?」
「変・・?まぁ変か。」
「何言ってるの?」
「なぁ、美亜は彼氏とかいるのか?」
「いないわね。むしろ可愛い女の子の大切な部分は私が既に見ているぐらいだし。」
「・・・・。」
下品な妹だった。
こんな妹を育ててしまった家族は処刑ものだろう。
「知ってる?実は世界規模で男女のセックス回数が減ってるって事。」
「妹にそんな話振られたくねぇよ。」
俺の妹が可愛くない件について、みたいなタイトルに変更したいレベルだった。
「つまり、このまま行けばどっちかがハーレム展開になることを許されるんじゃない?」
「ありえるか。」
「えー?」
「大体、美亜には気になる男子とかいるのか?」
「うーん。」
10秒ぐらい会話が止まった。
元々知能指数が低いため、会話が止まる時はものすごく長く沈黙するのだった。
「いないわね。」
有名ジャンプ漫画のアニメ並みというか、雑な引き延ばしにしか見えなかった。
というか、普通に答えを出すのにそこまで時間かかるものなのか?
中二病という言葉もあるけど、あれはわりと知能指数高めじゃないと発症しないんだよな。
「そういうお兄ちゃんはいるの?JKとエロい事した事あるの?」
「お前、男だったらこの場でぶん殴ってるぞ・・・・。」
軽い家庭内暴力だった。
「つまり居るのね。」
「くっ、なんでそういう所だけ勘がいいんだ?なんでそれが学校のテストで反映されない。」
「私だって多少のことぐらい知ってるわ。戦国時代はBLだったことぐらい。」
「余計なことを誰が教えた・・!」
「友達・・?」
くそ、僕の妹を更に汚しやがって。狭い家の中だから妹の馬鹿っぽさがリアルすぎて痛い・・!
「で。一体どういう人としたの?」
「お前の頭の中の妄想だとまるでもう既にやったみたいな感じになってるけどしてないからな。」
「そう。イチャイチャしていただけなんだ。」
意外と納得してしまった。ん?まて。そもそも僕は教室の中で確かわりと妹の言っていることの方が正しい行為をしていないか?
「そ、そうだな。ちょっと仲良く遊んでしまっただけだよ。」
「あまりお兄ちゃんらしくないね。」
お前はその洞察力をもう少し別のところに生かして欲しい。
「女の子の体なんて、母親と妹で見飽きているはずだし。」
「誤解を招くような発言をするな!!どんな長男だよ!!」
しかも母親は断じて女の子の体じゃないし。
「ん?妹みたいに接すれば彼女できるのかなって思ってただけだけど。」
「あー。」
典型的な恋愛の勘違いとして、本来赤の他人である人間を家族と同じコミュニケーションを期待してしまう奴がいることだ。
根本的な間違いはそもそも、妹はどう考えても年下であるはずなので。そういう意味では、むしろ同等扱いされると思っている女子生徒に似たような態度を取るのは非常にまずいパターンだった。
というか、僕は中学の時に女子に一度それをやってしまったので嫌われたことがある。
恩師曰く、親族とべったりなタイプの男女はモテないことが多いとのこと。
明らかに経験則のため、その恩師の言い方が必ずしも当たっているわけじゃないが。
しかし、それが絶対に間違っているわけでもないから困る。
この妹、絶対に男にモテなさそうだし。
「それは絶対にない・・・?」
しかし、問題は雨宮梓の態度がどちらかというとお姉さんよりだった気はするが。
そういう意味では、雨宮梓にも妹や弟がいたりするんだろうか。あるいは年下の親族がいたとか。
梓が美亜と同じ典型的なコミュ障だと考えれば、辻妻は合うかもしれないけど。
「本当に?うーん、恋愛って難しい。」
「そうだな。意味不明だもんな。」
「というか、お兄ちゃんがイチャイチャしていた人ってどういう人なの?」
「・・・・少なくとも。」
少なくとも、お前とは全く逆のタイプの人間だと言っておいた。




