せかいめつぼだま
Twitterで鈴木ファティさん/てんつぶさん/ゆるさんを台風の目として
瞬間的に吹き荒れた「世界滅亡系BL」というお題。
はい、いつものように、鈴木ファティ師匠に「書け」と奥歯ガタガタ言わされましたので
死に物狂いででっちあげました。もう逆さに振ってもなにもでないよ…・゜・(つД`)・゜・
「ねえ、パーシモン、ためしてみたいから、てつだって?」
極上の笑顔で、目をキラキラさせながら、小さな坊ちゃまが私の手を引く。
ええ、どこまででも、おつきあいいたしますとも。
「ねえ、パーシモン、これなーんだ?」
坊ちゃんは、懐から小さなガラス瓶を取り出して、私に見せてくれた。
中には、ガラス玉のような、あめ玉のような、
透き通った蜂蜜色の、ちいさな球体が5つ。
それぞれに、異なる差し色が一筋だけ入っていて、中々に綺麗な代物だ。
「かくれ森のおじいにもらったんだ。『せかいめつぼのたま』って言うんだって。
キレイでしょう。」
かくれ森のおじい…。森の際に住む変わり者のご老体か。
噂では、隣国から流れてきた知恵者と聞くが。
「坊ちゃま、またこっそりお屋敷を抜け出して、遊びにいかれたのですね。
危険だからおやめくださいと、あれほど申しましたのに。」
坊ちゃまはとにかく好奇心が旺盛で、面白そうだと思ったら最後、まったく危険を顧みないところがあるのだ。
「もうー。パーシモンは若いのに頭が硬いなあ。
おじいが、遠くへ引っ越しちゃうっていうから、お別れの挨拶に行ったんだよ。
おせんべつを渡したら、お礼にこれをくれたの。
この玉を7つ集めたら、すごいことが起きるんだってさ」
「またそんな、どこかのお伽噺のようなことを」
「まあ、僕だって本気で信じてる訳じゃないよ。
食べられるって言ってたし、本当はただの飴ちゃんでしょう」
坊ちゃまはそう言うと、瓶の蓋を開けて、
その中の1つを、無造作に口に放り込んだ。
「坊ちゃま!毒味も無しに!!」
「ん、甘い。パーシモンもお食べよ」
思わず叱りつけた私の口に、坊ちゃまは素早く、その飴のようなものを押し込んできた。
口内に果物のような甘さが広がったので、
食べられるというのは、嘘ではないようだが…。
しかし毒かもしれない。
あわてて吐き出そうとしたところへ、
あろうことか坊ちゃまは、無理矢理口づけをしてきたのだ。
「んんーっ!!!!」
坊ちゃまを力尽くで払いのけるわけにもいかず、口をふさがれ、もがいているうちに、
口内の飴玉は、溶け砕けて消えてしまった。
「ふふっ、これでパーシモンも、僕といっしょだよ」
ぷはっと唇を離して、得意げに微笑む坊ちゃまに、いつだって私は勝てないのだ。
幸い、あの飴玉は毒ではなかったらしく、その後、坊ちゃまも私も、体調を崩すことはなかった。
ただ、気のせいだとは思うが、私はあの日以降、やたらと坊ちゃまの気配に敏感になった。
ドアを隔てた別の部屋にいても、「ああ、今あのあたりにいらっしゃるな」と判るのだ。
多少薄気味悪くはあるが、従者としては大変便利な感覚なので、私はこのことを誰にも言わず、黙っていることにした。
月日は過ぎ、坊ちゃまの背もずいぶんと伸びて、
今では私とそう変わらない位になったが、ご性格はそのままだ。
相変わらず、供もつけずに街に出たり、隣国の伝承に詳しい研究者の元に通ってみたり、
その好奇心を満たすことを最優先として、日々を過ごしておられる。
先日など、服に血をつけてお帰りになったので、召使一同真っ青になったが、
なんでも、下町で聞き込みをしていた時に、すぐ傍で馬車に轢かれた者がいて、その時についたらしい。
ご本人には全く怪我はなかったため、一同胸を撫で下ろしたが、当然、坊ちゃまはしばらくの間、外出禁止を言い渡された。
「残念だけど仕方ないかー。まあ、知りたいことは大体判ったしね」
外出禁止を言い渡されても、けろりとしている坊ちゃまに呆れつつ、『坊ちゃまから放たれるあの気配』が、一段と濃くなっていることに、私は気づいていた。
坊ちゃまが外出禁止を言い渡されてから1ヶ月後。
いかにも下町育ちといった風情の少年が、坊ちゃまを訪ねてきた。
何でも先日馬車に轢かれたのは、この少年の兄らしい。
坊ちゃまの指示で、すぐに医者に運ばれたが、治療の甲斐無く、亡くなったそうだ。
「そう…。わざわざ知らせてくれて、ありがとう。
ところで君は、こんな飴玉を食べたことはあるかい?」
唐突に坊ちゃまが、例のガラス瓶を取り出す。
最初見た時には、5個入っていたあの飴玉も、今は赤の差し色の一つを残すのみだ。
…いや、違う。
あの飴玉は、黄金のような蜂蜜色に、一筋だけ別の色が入っていた。
たしか、紫、青、水色、緑、白…だったはず。赤は無かった。
これは新しく手に入れたものか。
「は、はい…。半年位前かな…、
仲良くなったおじいさんにもらって。
キラキラして、すごくキレイで、食べるのは惜しかったんだけど、とてもお腹が空いていたから」
「そうだろうとも」
おずおずと答える少年に、坊ちゃまはニコニコしながら、
「せっかく来たんだから、たくさん食べてお行き」と、
彼のために紅茶を入れ直し、焼き菓子をすすめた。
そのようなことは私がやりますとお止めしたが、
「わざわざ訪ねてきてくれた彼への感謝だよ」と言われると、
それ以上咎めることは出来なかった。
少年は嬉しそうにいくつも菓子をほおばり、お茶を飲んでいたが、
しばらくすると急に青ざめて、苦しそうに胸を押さえた。
「どうしたんだい、具合が悪いのかい」
「は…い、ごめんなさい、なんだろう、急に胸が苦しくなって…っ」
「それはいけないね、横になって楽にしたまえ」
坊ちゃまは席を立ち、少年のためにクッションを枕にしたり、かいがいしく世話を焼いている。
しかしその目がいけなかった。
あれは、見たことのない昆虫を見つけ、標本にするために、嬉しそうに息の根を止めるときの目だ。
「坊ちゃま…」
言外に非難の響きを乗せて、坊ちゃまを睨むが、本人はどこ吹く風だ。
「シッ。もう少しだけ、黙って見ておいで」
少年の顔色は紙のように白く、ひどく呼吸が苦しそうだ。
これは医者を呼ばないとまずい、
自分がいながら坊ちゃまを目の前で殺人犯にする訳にはいかないと、
私がきびすを返して部屋を出ようとした時、ガッと腕を捕まれた。
「ホラ、きた!」
坊ちゃまが興奮しきった瞳で見つめるその先、
何もない筈の空中に淡い光が凝り、そこにはあの飴玉が浮かんでいた。
坊ちゃまは素早くそれを掴み、くだんの瓶にしまうと、
「飲みなさい!」と、ふところから別の瓶を取り出し、少年の口に流し込んだ。
「パーシモン!バケツと大量の水、大急ぎで!!」
飛んでくる指示にともかく応えねばと、私は厨房へ全力で走った。
あんな騒ぎを起こして、さすがの坊ちゃまもお咎めなしとはいくまいと思っていたのに、
あれは「毒を飲ませた」訳ではなかったそうだ。
アレルギーという名の病らしいが、他の人が食べてもなんの害もない食材なのに、特定の人はそれを身体が受け付けず、拒否反応が激しすぎて、毒を飲まされたのと同じようなことになるらしい。
幸い少年は命を取り留め、完全に身体が回復するまで、そのままお屋敷で介護された為、
彼は「兄に続いて僕まで助けて頂いた」と感謝こそすれ、かけらも恨んでなどいないらしい。
坊ちゃまの狡猾さと悪運に、背筋が寒くなるが、思えば幼少期からこういう方であった。
「ねえ、パーシモン」
「はい、何でございましょう」
「賢いお前のことだから、もう大体は察していると思うけど。僕が調査した結果を聞いてくれるかい」
「謹んで拝聴いたします」
「僕がかくれ森のおじいからもらったあの飴玉は、
隣国の伝承にある『世界滅亡の玉』だったよ。
7つ集めると世界は滅びるとされている。
玉の状態のままでは、小さなものだし、どこにあるのか探すのは難しい。
ただし体内にあれを取り込んだ生体同士は、他の玉がどこにあるか感知することができる」
「はい」
私はうなずいた。
「ただし、玉にも自己保存本能のようなものがあって、自分を取り込んだ生体が、生命の危機にさらされると、道連れにされないよう、生体から分離する。」
「先日の弟少年のようにですね」
「そういうこと。僕は、最初に受け取った5個のうち4個、弟少年の1個、彼の兄の分1個、合計6個の玉を既に取り込んでいる。残りはあと1つだ」
「私が取り込んだ分ですね。いかが致しましょう、毒でも煽りましょうか」
「せっかちだなあ。まあ最後まで聞いてよ。
そもそも『7個集めたら』っていう条件が不明瞭なんだ。
『取り込んだ生体が一堂に会したら』ならば、弟少年が訪ねてきたときに、世界は滅びている筈だから、それはない」
「そうですね」
「ということは、『玉の状態で7個揃う、またはそれに条件がつく』、
あるいは、『1人の生体に7個の玉がすべて取り込まれ、またはそれに条件がつく』、
のいずれかだと思ったんだけど、もう一つ思いついたんだよ。」
坊ちゃまはそこで一拍おき、キラキラした目で私の手を取った。
「『取り込んだ生体同士が繋がることで7個が揃う。』
ね、だから、パーシモンを抱かせて。」
ああ、この目だ。
自分を夢中にさせるものを見る時の目。
あの玉を取り込まず、ただの従者のままであったなら、この目で見て頂くことは、決して出来なかったろう。
「坊ちゃまのお望みのままに。それでも上手くいかなければ、毒でも何でも煽りましょう」
最初は、もっとかわいい坊ちゃまと従者の話の予定だったのですが、どうにも上手くまとまらず、マッドサイエンティスト風味をいれたらちゃんとフタが閉まりました。理屈がよくわかりません。