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ヤマカワさんと王子様 1

ほんの少し続きです。

蛇足と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

「ご機嫌よう、殿下。本日はお時間を頂きまして、誠に有難う御座います!」


「…いや。今日、この時間を指定させて頂いたのはこちらだ。良く来てくれた……だが、何故に天井から?」


聖女の派遣で、ヤマカワ殿と改めて約束をしてから数日。

まだ、彼女の来訪時間までに余裕があるからと執務室で書類を片付けていれば、何故か青白く天井が輝き彼女がフワリフワリと舞い降りて来たではないか。

驚き過ぎて、彼女への挨拶もそこそこに遠回しでも何でもなく疑問を口にしてしまった。

普段、こんな失態は演じないのだが…

部屋に待機していた護衛と侍従も動けずに事を見守っているだけだった。


「あぁ!今週は聖女能力PR週間で御座いまして」


「…聖女能力PR週間」


「そうで御座います。弊社登録の聖女は、転移魔法も聖女教育や研修で必須技能として取得させております。わたくしのような営業を通して、その有能さの一端を知って頂く試みが聖女能力PR週間で御座います!今回はノベルティーも作っておりまして、聖女の祝福ステッカーセットになります。良ければお使い下さい」


ニッコリとした笑顔で金色のキラキラとした小さい正方形をしている5枚のカードを両手で前に出されれば、反射的に受け取ってしまう。

祝福ステッカー…とは?

転移魔法にしても、一人で実行出来る人間が存在するのか?

我が国で行うならば、魔法師が最低でも3人は必要だ。

営業というのは魔法師なのだろうか?


「転移魔法が必須技能……祝福ステッカー……ヤマカワ殿、今回も申し訳ないが何一つ理解が追い付かないのだが?」


「そうですねぇ…では、まずは転移魔法について。以前は必須技能でなかったのですが。その頃に、契約外の長期討伐業務へ聖女を同行させ聖女労働基準法に違反した国が御座いまして。その際、出張手当等の支給もなく揉めに揉めた過去から、聖女を守る為にも弊社登録聖女には必須技能となっております。最近は当初の目的とは異なりますが、交通費に上限があっても自宅から通勤したいという聖女も使っておりますよ」


「聖女労働基準法…」


「直接雇用型聖女召喚しかされない国では、聴き慣れない言葉かもしれませんね。資料への記載も御座いますが後で口頭でも説明させて頂きますね。聖女ステッカーですが、ノベルティー…顧客の方へと無料でお配りしている物ですから、大した効力は付与しておりません。普段身に付けている物に貼って頂ければ、一度だけ命を助ける程度で御座います」


「十二分に大した効力だが!?!?………タダで配っていると!?宝物庫に納められる神器に等しいではないか」


彼女と話していると、自分の常識がガラガラと音を立てて崩れて行く気がする。

私は何と小さい男だったのか…

このままでは、第一王子という器に見合わない人間に成り果ててしまう。

だが、父である陛下は聖女召喚が生贄に等しい儀式であった事実と今までの心労で倒れ、その分の執務で王妃と宰相は多忙を極めてこの件に関われず、神殿や魔法師団も各地の魔物を抑える為にトップをこれ以上抜けた状態には出来ない。

弟達はまだ小さく、足りないながらも私がやるしかないのだ。


「ふむ、御社では珍しい品物になってしまいますか…魔物を鎮めるような業務に関わる直接的な効力の付与はしていないので大丈夫だと思っておりました。弊社の認識不足で御座いました。現場からの貴重なご意見ですから、今後企画部でのノベルティーや商品開発会議等で参考にさせて頂きますね!有難う御座います!」


「い、いや…頂けるこちらとしては魔獣討伐でどうしても怪我人が絶えないのでな、有難い以外にはないのだが。そうだ!今回から陛下や宰相も含めて話し合いが出来ればと思ったのだが、都合が付かなくなってしまったんだ。私だけでも良かっただろうか?」


「ええ、勿論で御座います!わたくしとしましては、担当の方が決まっている方がお話しも進めやすいですから。途中で担当の方が変わると、説明しているされていないといった水掛け論に発展するケースも御座いまして。こちらの都合ではあるのですが」


珍しく困ったような笑顔を浮かべた彼女を、来客用のソファーへ腰掛けるように勧める。

同時に侍従にも合図を出して侍女も呼んだのだった。

女性一人が男ばかりの部屋というのは、揚げ足を取りたい人間にとっては良い餌だろうからだ。

国の混乱に乗じて何かしようと企てる人間は、どうやっても出てくる。

そんな事で彼女を悪く言われたくもない。


「そうだ、ヤマカワ殿。前回言われていた派遣して頂きたい聖女の希望条件なのだが、これで良いだろうか?それとは別に、貴女は何処でこの国の言葉を?」


「準備して頂き有難う御座います。拝見させて頂きます。言語教育は弊社の営業の研修やセミナーで行われますので、最低でも担当になった区域の5ヵ国語は読み書き必須で御座います。日常会話でしたら、もう何ヶ国語かは。あ!弊社と登録の聖女に関しましては、大抵の場合は本人の祝福によって意思疎通で困る事は御座いません。ご安心下さい」


「それはもう、外交官では…?」


ニッコリとした笑顔で答える彼女こそ、やはり聖女なのでは…と思いつつ、同時に是非側近としても近くに居て欲しいと思ってしまう。

有能過ぎないか?

そんな彼女が手渡した聖女の希望条件を読み終わる頃に、侍女が紅茶を載せたトレーと共に入室して来た。


「お邪魔しております。あ!前回、具合が悪くなられた方ですよね?配慮に掛けた発言をしてしまい申し訳御座いませんでした。その後、お体の具合は如何ですか?」


「いえ、わたくしこそ先日は大変失礼致しました。お気遣い頂き有難う御座います。翌日からは仕事へも復帰させて頂いております」


彼女に声を掛けられ、侍女は嬉しそうにペコリと頭を下げる。

こういった、きめ細やかな心遣いが出来る所も好ましい…


「そうでした!前回、わたくしの不用意な発言で室内にいらっしゃった方々へ多大な心労をお掛け致しました。そのお詫びと言っては細やかではありますが、こちらをどうぞ。皆様にもお渡しして宜しいでしょうか?毒味が必要でしたら致しますので、お気軽にお申し付け下さい」


「いや、気を遣わせてばかりですまない。だが、ヤマカワ殿のお気持ち有難たく頂戴しよう。毒味は気軽には頼めないが、皆にも是非渡してやって欲しい」


有難う御座いますとニッコリとした笑顔で答えた彼女は、席を立つと侍女や護衛と侍従へと私の前に置かれた小さな瓶と同じ物を手渡していく。

謝罪と労いの言葉を掛けながら渡す姿は私の思い描く聖女そのものだ。

しかし、何処からその量の小瓶を出したのだろうか…

王都へと巡業に来ていた手品師よりも軽やかに、そして鮮やかに次々と物を出現させている。


「心を落ち着ける効果のあるキャンディーで御座います。ほんの少し疲労回復にも効果が出るように致しておりますが、甘い物ですので一度に沢山はお召し上がりにならないで下さいね?小さなお子様に渡す時は半分に割って下さいませ。喉に詰まると大変ですので」


「は?これは魔法薬なのか……?」


「いえ?お菓子に御座いますが?」


いや、お菓子に疲労回復効果があってはおかしいだろう!?

確かに疲れた時に甘い物を食べると落ち着くが、それとは違うのだろう!?

彼女の説明に思わず声を上げると、その事実に気付いた周りもぎょっとしつつ自分の持つ小瓶と彼女を何度も見遣る。

その反応が正しいと私は思うぞ。


「あ〜〜〜!失礼致しました。御社では、疲労回復効果がある物は全て魔法薬として分類されるのですね!わたくしの勉強不足で御座いました。まぁ、元気になったかな?くらいのプラシーボ効果だと思って頂ければ宜しいかと!疲れた時に甘い物を食べると落ち着く程度の認識で大丈夫で御座います」


「……プラシー?いや、こちらも有難く執務の合間に頂こう。皆も、普通の飴として食べてくれ…」


あちゃーっと言うように額をペシリと叩くような仕草をした彼女は、また不思議な発言をしたが気にしたら負けのような気がした。

深く考えずに素直に受け取るべきと判断した私は、周りへの口止めと礼を言って小瓶を懐へと仕舞うのだった。

キラキラと光を反射させて輝く飴に、罪はない。

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