後編
茶菓子として甘い物を食べ、紅茶飲み一息入れる。
その間に私は、この衝撃的な事実と出来事をどう陛下へと報告しようかと頭を回していれば、食べ終わったらしい彼女から頭を下げられた。
所作も美しい、本当に何故…彼女が聖女ではないのか。
「殿下、とても美味しゅう御座いました。ご馳走様です」
「いや、急ぎであったので簡単な物しか出せなかった。それで…申し訳ないのだが、何一つとして理解が追い付いておらないのだ。一から説明をして欲しい。宜しく頼む」
「お任せ下さいませ!まずは弊社の説明というよりは、聖女の派遣システムまたはサービスとは?という所からご説明させて頂きますね。お手元の資料、1枚目をご覧下さい」
私の言葉に一切嫌な顔をせず掌で資料を指した彼女は、この説明に慣れているようだった。
私は資料を捲る。
そうすれば、簡単な図解と共に聖女の派遣についての説明が記載されていた。
ふむ、こういった図があると分かりやすいのだな…
我が国では報告書等は文字だけだったが、今後は図解も取り入れてみよう。
「この図1のように派遣とは、まず弊社で聖女と各国の希望を別々に聞き取ります。そうして、条件に合う聖女が現れた時点で御社へと職場見学に行かせて頂きます。その後、聖女への最終確認を行いまして合意が得られれば業務へと移るといった流れになりますね。結婚で言う仲人と思って頂ければ良いかと。派遣される聖女ですが、基本的な聖女教育や研修は弊社で完了している者達だけに御座います。不安に思ったり悩まれるような事がある場合は、その都度ご相談にも乗らせて頂きますし、定期的に御社へわたくしが伺いもしますので派遣後のサポートも万全の体制を敷いております。更に3ヶ月毎に面談を設け、契約更新を行う国が一般的です。その面談で、直接雇用契約への変更も可能で御座います。また、1人の聖女は最大で3年間の派遣と決まっております。その時は、別の聖女と新たに契約して頂くか、派遣していた聖女を直接雇用契約へ変更して頂くかを選んで頂きます」
「なるほど、色々と細かく決まっているのだな。我が国が求めている聖女を遣してくれるのは有難い」
「そうですね。そこが一番のメリットかと。各国で独自に聖女を召喚する場合、どのような聖女を召喚出来るかは魔術師の方や魔法師の方、あるいは伝えられた魔法陣の精度によって異なりますので。そうしますと、呼び寄せた聖女が国が求める基準に達していない場合も御座います。この国のように。まぁ、藁にもすがる思いでされる場合も多いですので、致し方ない部分もありますが」
「あぁ、そうだな…」
「また、召喚された聖女側からしましたら、突然の誘拐や拉致監禁に等しい行為で御座います。帰る術がないならば、強制労働と捉える事も御座いましょうね。事前通達等なく、逃げ道を塞ぐように召喚してから合意を得ようとするのですから。そうして召喚された聖女全てが、快く国の為に働いてくれるとは限らないとは思いませんか?聖女も能力はあっても、ただの人間で御座います。感情や、それまで営んでいた生活が御座います。奴隷等ではなく、人権が御座います。実際、召喚された恨みから復讐としてや、帰れない事に自暴自棄となって国を滅ぼす聖女も一定数存在致します。それ以外にも、待遇面等での不満により逃げ出す方もいらっしゃいますね。勿論、直接雇用に満足される聖女の方も一定数いらっしゃいますので、弊社が直接雇用型聖女召喚自体を否定するつもりは御座いません」
彼女が語る聖女召喚の真実に絶句する。
だが、当たり前ではないか。
もし私が訳も分からず突然召喚され、見ず知らずの国の為に一生働けと言われて、首を縦に振るだろうか…
元の世界へ返してくれと言わないでいられるだろうか…
それ相応の対価を求めないだろうか…
だが、疲弊した国がそのような対価を支払えるのだろうか…
聖女とて一人の人だと、何故そんな当たり前の事を忘れていたのか!
それを奪う権利は、疲弊し藁にもすがる思いとは言っても、私達にはないではないか!
何故、今の今まで助けて貰って当然だと思っていたのだ…
あまりにも相手を考えていなかった国と自分に気付き、目眩がする。
「何という…」
「殿下はお優しい方で御座いますね。ここまで聞いても、聖女は召喚された国の為に働くべきだと意見を曲げない方もいらっしゃいますので…」
茫然とする私に優しく言葉を掛けた彼女は、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべていた。
多くの聖女や国を見て来た中で、清濁合わせ飲むような事がなかった訳ではないのだろう。
やはり、彼女こそが聖女ではないかと考えてしまった。
「そんなお優しい殿下の為にも、弊社、聖女専門人材派遣会社ホーリースタッフは存在しているのです!聖女側の希望を聞く優秀なコーディネーターも数多く在籍しておますので、必ずや御社の求める聖女を派遣致します!独自で召喚を行い国を傾けるかもしれないという危険に対する保険と思って頂いても良いかと存じます」
「あぁ、ヤマカワ殿…何と心強い事か。宜しくお願いしたい!」
私には、彼女が光輝く希望に他ならない。
だが、そんな彼女はまたしても私に特大の衝撃を齎すのだった。
「有難う御座います!では、次に紹介料と派遣料について、ご説明させて頂きますね!」
「何と!?!?」
「え…?こちらも慈善事業ではなく、ビジネスで御座いますから…申し訳ありませんが、無料では致しかねます」
しょんぼりと困ったように眉を下げる彼女は可愛らしくもあるが、既に自分の容量を超え過ぎた出来事に、また日を改めて話し合いを行う事にして貰った。
その時は何を言われようとも、陛下や宰相に神殿関係者から魔法師団長といった重役達を巻き込もうと心に決めて。
私が私の責任で進められる範疇を越えている!
越え過ぎている!
そうして次の約束を取り付けた彼女は、ニッコリとした笑顔と共に青白い光の中へと消えて行ったのだった。
拙い作品ですが、最後までお読み頂き有難う御座いました!