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中編

執務室に着くと、彼女へ来客用ソファーへと腰掛けて貰い、私も対面に座った。

すぐ様、先に連絡を受けていたであろう侍女が若干ソワソワしつつ紅茶を置く。


「お気遣い頂き、有難う御座います」


「とんでも御座いません」


律儀にも侍女へと目線を合わせニッコリと礼を言う彼女に好感を抱き、侍女の肩からも力が抜けたのが分かった。

少しだけ、彼女が聖女であれば良かったのにと思ってしまった。

いや、これ以上の迷惑は掛けられない。

素直に分からないと伝えて、教えて貰えるだけでも十分過ぎる。


「まずは、恥ずかしながら先に申したように我が国では聖女召喚の文献も殆ど残っておらないのだ。なので、150年前の事も教えて頂きたい。それに、人材派遣会社とは…何だろうか?初めて聞いたのだが…」


そう、我が国の150年前の資料だけ数が圧倒的に少ないのだ。

文献を掘り起こすのに魔法師団以外の人材も多く投入したのにも関わらず、虫食い状態と言えるくらいにしか見つけられなかった。

今の今まで、当時も魔物の氾濫があった為に混乱で文献が焼失か何かしたのだと思っていたのだが。

まさか聖女召喚自体が関わっているのか…?


「なるほど…そうですね。では、まずは弊社の顧客情報に記録されていた御社がされた150年前の聖女召喚からお話し致しましょうか。こちらの資料はお見せ出来ませんので、口頭での説明になる事をご了承下さいませ」


「それで構わない。宜しく頼む」


「かしこまりました。前任者からの資料によりますと、当時も魔物の氾濫が頻発した為に聖女召喚を行ったそうで御座います。その時に召喚した聖女ですが、あまり質が良いとは言えなかったようですね。身分が高く見目の良い殿方にだけ、愛想を振り撒く方だったようで御座います。何人かの方は籠絡されてしまい、国庫の方へも影響が出たようで。通常ならば影響はなかったと思いますが、既に疲弊していた国の状況ではかなり苦しかったかもしれませんね」


「な、何!?国庫だと!?その籠絡された者の中に王族か、それに準ずる者が居たという事か!?」


あまりの内容に、ソファーから腰を上げ声を荒げてしまう。

後ろで控えていた護衛騎士や侍女、侍従からも息を呑むような気配がした。

何故、そのような重大な事実を後世に残してくれなかったのか!


「いや、貴女が悪い訳ではないな…すまない…」


私はハッとして謝罪の言葉を口にしてから、痛む頭を抑えてソファーへと戻り紅茶を一気に煽った。

何と恐ろしい…

そんな危険な方法だけを文献に残す等、何を考えていたのだ。


「いえいえ、驚かれて当然かと。ですが、当時の状況で身分の高い方々の醜聞が広まっては国として立ち行かないとお考えになられたのかもしれませんね。その方の名誉の為にも、お名前はお出ししませんが。最終的には聖女の地位を確固たるものにする為と、聖女と籠絡された方々だけで各地を回らせて魔物の氾濫を治めさせたそうです。流石にこちらの資料にも、これ以上は詳しくは記載されておりません。その後、聖女達がどうなったかも…」


全てを言葉にされずとも、それだけで分かってしまった。

消されたのだろう…

勝手に呼び寄せ、酷い人間だったから、都合が悪くなったからと。

この国は、何と罪深いのか…

彼女の話しを聴き終わった執務室は、重い空気が漂ったいた。


「さて、そう落ち込まないで下さいませ!その為に聖女専門人材派遣会社の弊社が存在するのですから!」


その空気を打ち消すように彼女は明るい声を出した。

そして、ニッコリとした笑みと共に手元に薄い紙束を出される。

とんでもない衝撃発言も添えて。


「それに、御社にとっては酷い醜聞だったかもしれませんが、直接雇用型聖女召喚のトラブルとしては珍しい部類では御座いません。国が滅ぶとかもあるあるですよ!」


「それは、あっては駄目だろう!!!」


思わず盛大に叫んでしまい若干気不味くなったが、これで叫ばない人間は居ないのではないか…

後ろでは侍女の一人が倒れ、外へと運ばれて行った。

彼女だけは、あれ?っと不思議そうな顔をしたが、流石に滅んじゃ駄目だろう。


「申し訳御座いません。弊社の業務をご存じない御社へは、軽率で不適切な発言でした。ですが、今回は弊社にお任せ頂ければ前回よりも格段に質の良い聖女を派遣出来るとお約束致します!ご安心下さい!今、運ばれて行った女性にもお伝え下さいませ!」


「いや、私もすまなかった。あの者にも伝えておこう…その派遣とやらの説明をお願いしたいのだが、この前に一度休憩を挟まないか…?ヤマカワ殿の時間は大丈夫だろうか?」


「宜しくお願い致します。お気遣いまで有難う御座います!本日は他の予定を入れておりませんので、ご安心下さい。今回で御社の不安を出来る限り排除させて頂きたく存じます!」


ヤマカワ殿、これは気遣いではない…

私が限界なのだとは、流石に口に出せなかった。

これ以上は、周りに不安を撒き散らす訳にはいかない。

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