5.絵の修正
貞子は、すとぷりのジェル君が好みらしい。
わたしは、さっき見た画像を思い出しながら再び絵を描くと、仕事に戻った。
仕事が終わったので、ラウンジに行くと、貞子がヘッドホンをしてスマホでユーチューブを見ていた。その隣には、彼女の後輩の伽椰子が同じようにして座っていた。
わたしは昼間描いたイラストを取り出して、貞子に差し出した。彼女はチラッと見て言った。
「ヤッバ! うわっ、ヤッバ! 何これ! ひどくない!?」
貞子は絵を伽椰子に見せた。伽椰子は「うーん、微妙……」と言った。
こいつらの態度、むかつく。
「ちゃんと描いてよ! いい!」
貞子は絵をわたしに突き返すと、再びユーチューブに食い入った。
頭にきた。
わたしは「誰が描くものか」と思い、事務所へいったん戻った。
冷蔵庫から缶ビールを出し、何かツマミがないかと探したところ、さけるチーズが目に入った。
さけるチーズは大好きである。
だが、貞子から貰ったものは食べたくなかった。
探したが、他にツマミはない。買いだめしといたのは全部食べ切ってしまったようだ。寒いし暗いし、これから外に買い物にいくのは面倒。
しかたなく、わたしはチーズを皿に乗せてラウンジに戻った。
彼女たちはまだいた。
ユーチューブは飽きたようで、わたしの指定席の隣に移動し、テレビのグルメ番組を見ていた。
わたしは、とりあえず冷え冷えのビールをコップに注いで一口飲んだ。
かーっ! うまい!
ビールは必ずコップで飲むべし。
三度注ぎはしない。メンドウだから一度注ぎである。わたしには一度注ぎと三度注ぎの味の違いは大して分からない。
缶のまま飲めば、洗い物がでないので楽だが、アルミ缶で飲むのとでは、ビールの味が全然違うのである。
その違いは分かる。わたしは違いの分かる男なのだ。
分かる手間は惜しまない。
わたしはビールの余韻を楽しみながら、チーズを割いていった
一本が二本、二本が四本。
チーズをイカそうめんのように、細く細く割いていく。
数えはしないが、たぶん五十本くらいにはなる。これを皿に並べていくのである。
そうして、細くなったチーズを一本ずつしゃぶりながら、ビールを胃に流し込むのが最高なのである。
ビールを飲んでいると、テレビを見ていた貞子が言った。
「あの天ぷら蕎麦おいしそう」
品の良い蕎麦屋で、大きな海老天が映っていた。
「あれは、ぜったい旨いだろ」
「ねえ、こんど食べに行こうよ」
「行きたいね」
「じゃあ、行こう!」
「て、お前、おごってもらうつもりだろ。自分の分は自分で払えよ」
「ケチー」
ケチじゃない。当然である。
ふと気がつくと、伽椰子がわたしの席に移動して来ていて、わたしのさけるチーズを食べていた。
「お、お前、なに食っとる!」
わたしが言うと、伽椰子は子犬のような目でわたしを見た。
くっ!
食うなとは言えない。
結局、チーズは半分以上、彼女に食べられてしまった。
これは絵の報酬だったのだ。
わたしはビールを飲み干し、からの皿を見ると、仕方なく、らくがきちょうを取り出した。
次回は「6.本気モード」