2.貞子
初めて貞子に出会った時、彼女が可愛いと思ってしまったのは、一生の不覚である。わたしの最大の黒歴史だ。なかった事にしたい。あの時は、頭がどうかしていたのだ。
見た目はそれほど悪くはない。
たとえるなら、広瀬アリスと橋本環奈を足して、三で割ったような容姿である。
男性職員から人気がある。デートに誘おうとしている同僚がいるが、わたしに言わせれば「悪いことは言わない。絶対に、やめておいた方がいい」である。
性格に少々難があるのだ。
いや、少々どころではない。「かなり」と言っていい。
わたしと一緒に昼飯を食っていると、いきなり、「うわ! あぶない! うんちが漏れるとこだった!」と言って、トイレに走っていく女である。
おそらく多くの人は「そんな女性がいるはずない」と疑うだろうが、まったくのウソ偽りない事実である。
これで社会人だろうか。
よく就職できたと思う。
スッキリした顔で戻って来たとき、わたしは眉をひそめて言った。
「うんち出たか?」
「え? わたしアイドルだから、うんちなんか出ないよ」
彼女はしれっと答えた。
「じゃあ、何、出して来たんだよ」
「え……ユニコーン……、ラメをキラキラ光らせて、いっぱい出て来た」
想像してしまった。
ラベンダー色のユニコーン。
あれは角が生えているのではなかったか? お尻に刺さらないのだろうか?
もし刺さったら痛いだろうに……
とにかく食事中の会話ではない。
まあ、発想力が優れているのは認める。わたしにはない考え方である。最近、わたしの書く小説に下ネタが多かったのは、彼女の影響が大きい。
いやな影響である。
ある日、いつものように仕事のあと、ラウンジで寛いでいると、貞子がやって来て言った。
「ねえ、すとぷりの絵を描いてよ」
?
次回は「3.すとぷり?」