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抜いた刀、折れた扇、手前はそれでも舞い続ける

「はぁあああああああああああ!!!」


 シラヌイが扇をぶん投げた!? 扇は今のシラヌイの主武装のはずだがそんなことしても良いのかよ!? どうやってこのトモエと戦うつもりなんだ。


「文字通り児戯やねえ」


 ほら言わんこっちゃない、速攻で切り払われたじゃねえか。これで武器失っちまったことになるぞ。とてもとてもまとも戦闘にはならない。一方的な虐殺になっちまうじゃねえか!!


「我流・浦陰うらかげ


 ちょ、扇の後ろからシラヌイ出てきたぞ。どうやって隠れてやがった、でも今はトモエの刀は振り抜いた形になってるから隙だらけだ。空中で攻撃の体勢を整えていたシラヌイの方が攻撃は速い。これならまず一撃を入れる事ができるんじゃないか。


「へえ、我流の舞かぁ。悲しいわあ、サムライの血はどこにいってしもうたんやろねえ」


 扇の後ろから出てくるとかいう訳の分からない初撃にも関わらずトモエはなんてこともなさげに捌きやがった。マジかよ、あのタイミングの攻撃でも当たらねえとか。


「じゃあお返しや、お遊びにはお遊びで」


 刀を手放した!? 何をする気だ、そんなことしても刀には扇ほどの幅はないから身を隠すなんてことできないはずのに。


「ッ!?」


 消え、た? おいおいおい、嘘だろ消えるわけないだろ人が、だから移動をしたはずなんだ、どこかに居るはずだ。


「ほほ、鬼さんこちら」


 下か!? 一瞬で身を地面すれすれまでかがめたから見えなかったのか、それに今でも下手したら見失いそうなほどの気配の薄さはなんだ。


「無想剣・比良、って言うんや」

「うっ!?」


 手放した刀が落ちてきたのを掴んで切り上げを辛うじて二本目の扇で防ぐことには成功した、でも完全に防げたわけじゃない。扇の要の部分がばっさりを切り裂かれているからもう扇として振る舞うことはできないだろう。


「次々いくよ、受けられるもんなら受けてみいや」

「くっ、はっ、こ、の……!!」


 ギリギリのところでシラヌイはトモエの攻撃を受けているが、かなり厳しいことは分かる。一歩間違えば、一瞬緩めばそこで終わりだ。そして、その瞬間が決して遠いわけじゃない。


「なあ、いつまでこっちのこと舐めとるん? さっさと抜きや、打ち合っても分かるわ。あんさんの動きは骨の髄まで刀を振るためのもの、なんで舞なんてやっとるの」

「う、るさい、それが、手前だ、レヒト様にも褒められた、これが手前なんだ!!」


 押し返した!? いや、違う押しこんだんじゃない、押し込まされたんだ。誘導された動きだ、つまりこの後に待つのはトモエのカウンター。


「あほくさ、だからこんな事になるんや」

「あ、が」


 深々とトモエの膝がシラヌイにめり込んでいた、確実に効いている。それでも一刀両断とならなかったのはまだトモエに戦闘を続ける意図があるからに他ならないだろうな。たぶんあそこで斬り捨てることもできただろう。


「なあ、さっさと刀抜いてくれへん? そうすればまだ勝負にはなると思うわ、弔い合戦なのに甘いこと言うてる場合か」

「弔い、じゃない……レヒト様はまだ死んでいない」

「ほほ、面白いこと言いはるなあ。どうみても致命傷や、そうなるように斬ったんやもん」

「それでも、死んでいない。手前が覚えている限り、レヒト様の褒めた舞がある限り、死んでない」

「なんや訳の分からんことを、もういいわ。見込みなしってことで幕を閉じるのも先達の務めやろうし」


 トモエから遊びが消えた、さっきまでとはなにも変わっていないはずなのに。身体が危険信号をガンガン出してやがる。逃げろ、こいつには絶対勝てない、今すぐ逃げないと死ぬって細胞レベルで叫んでやがる。近くに居るだけでそれなのに、正面からそれと対峙しているシラヌイはもっと酷い状態だろう。


「手前が、舞で終わらせることに意味がある。だから抜かない」

「へえ、どうでも良いわ。終わりや終わり」


 トモエの動きが途端に捉えがたくなる、極端に速いということではない。むしろあえて遅い瞬間があるからこその幻惑。速いのか遅いのか自然なのか不自然なのか、それすらも分からなくなる無限の深みの中に落とされたような気分だ。


「ま、だ、まだぁあああああ!!」

「頑張るなあ、でももう斬ったわ」


 食らいつくシラヌイに向かって投げられたその言葉は正しく現状を示していた、シラヌイの服がはらりと落ちる。そのすぐ後に血が噴き出した。駄目だったのか、シラヌイ……


「はぁ、つまんな。もっとできる子やと思っとったわぁ。矜持を抱えて死ぬのに意味は無い、矜持は勝ってこそ生きてこそのものやのに」


 心底つまんなさそうに刀を納めるトモエの腕を死に体のシラヌイが掴んだ。まだ動けるのかシラヌイ……!?


「……れ」

「なんて? 遺言くらいは聞いたるわ」

「止水・葉隠、手前を侮ったな」


 傷からの血は止まり、光を失いかけていた瞳は全てを見通すかのような輝きがあった。そうか、体力最低値で耐える能力はそのまま持ってたのか、それで体力減少に伴う能力強化が最大値になったんだな。つまり固有能力【葉隠】が発動した、これなら勝てるかもしれない。


「その目は……!」

「我流・彼岸櫻ひがんざくら


【葉隠】

ー 致命傷を受けた際に体力を最低値で一定時間固定する、その間にダメージを受けたとしても体力は尽きない。なお、体力が減れば減るほど全能力が向上する。

 おぞましきサムライの血、手前はそれが心の底から憎かった。だから舞う、あの人のために、手前のために舞う。嗚呼、でも今ようやく分かった、サムライのあり方というのは何かを守るために他の全てを捨てるということだった。そのために命を投げ出しても良いという覚悟のあり方だったのだ、不肖の身で今まさに悟った。サムライと云うは死ぬことと見つけたり、ゲイシャもまた然り ー


「散華せよ」


 舞と言うにはあまりにも短い一撃。だが、その一瞬だけ壊れた扇も斬られた身体も存在せず。桜舞う舞台の上で絢爛な衣を着て扇を振るう姿を幻視した。

































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