度を越した世界
「これで良いの?」
「え? え? 料理? 今のが? 食べられるもの以上に食べられないものが入ってるのに? 私が今まで料理だと思ってたのはなんだったの?」
計画通り……!! というのは半分くらい本当だ。これは共同イベントの一つだからな、ティーアが料理する場面に他の仲間を同伴させると精神的に多大なショックを受けて戻ってくるっていうギャグイベントだ。良い影響があれば良いが……
「レヒト君あーん」
「ありがとな」
「え、ちょ、そんなもの食べたら死……」
俺とティーア以外が食べたらそりゃあ死ぬだろうな、だってこれ危険物だから。
『ヴェノムサンド』
ー 人類未踏の域に足を踏み込んだ料理。これを食べることができるものは楽園の入り口を見ることができるだろう。複合された作用はもはや予測不能であるが抗う術は用意しておこう、たとえそれが意味を成さないとしても ー
「美味い!!」
「うふふ……嬉しい」
「嘘……あんなの食べられるわけ……ましてや美味しいなんてそんなはずは……」
あ、恐る恐る手を伸ばしやがった。
「駄目だよニケちゃん。これは私とレヒト君だけの料理だから」
「で、でも」
「意地悪で言ってる訳じゃないぞ、お前が食べたら間違いなく死ぬ」
「レヒト君が食べられるなら私も大丈夫……!!」
「……ティーア、匂いだけなら大丈夫か?」
「半々で酷い目にあうと思うよ」
「だそうだ、とりあえず匂いからいってみろ」
「……すん」
嗅いだな?
「ーー!!?」
あーあー、大変だこれ。顔が真っ青だ。
「こんっなものっ……!! 食べて!?」
「ああ、美味いぞ?」
「美味しいよ?」
信じられないって顔してるな、それでいい。自分の常識なんぞ意味がなく相手の常識なんかも意味がないことを知れば化け物なんていう言葉に傷つくこともないだろ。みんな違うのが当たり前なんだからな。
「どうだ? これでもお前は自分を化け物だと思うか」
「……ううん」
よーし!! 成功!!
「……」
「なんでまた首輪を!?」
闇は消え去ったはずだぞ!? それなら奴隷になりたがるわけないのに!?
「だって……好きなんだもん」
「は?」
「はぁ?」
なんかティーアからえげつない殺意が飛んでる気がするが問題はニケの発言だ。
「なんて?」
「レヒト君が好きなんだもん……だからレヒト君のものになりたいの」
「なんで?」
「かっこよくて、強くて、命の恩人だけど見返りを要求しない男の子……好きにならないと思うの?」
「ならないだろ……」
「なるよ?」
なんでティーアがそこで出てくるんだ……ややこしくなるから黙ってなさい。
「奴隷でいいので側にいさせてください」
「嫌です」
「性奴隷でも良いから!!」
「どっからそんな言葉覚えてくるんだ!?」
絶対にニケを奴隷なんかにするわけにはいかねえ、それは詰みだ。それだけは避けなきゃいけない。
「それだけは駄目だ……その、奴隷とは結婚できないだろ……?」
もうちょっといいセリフ無かったもんかね!? 我ながら最悪の方向に舵を切ったと後悔している!!
「え? それって……」
ほらこうなる!! そのトゥンクって音はどこから出てるんですかねえ!! あとハートマークを大量生産してんじゃねえ!! このエフェクトはあのイベントかよ……マジか……
「おいおい……恋仲イベントは早すぎる……ちょろすぎるぞニケ」
一定の条件を満たさないと発動しない筈なのに、なんでこんなに簡単に発動したんだ。主人公には発動条件なんか設定されてねえのか?
「それって……結婚してくれるってこと……?」
「違う、そういうことじゃない」
「え……どういうこと」
考えろ考えろ……関係を破綻させずに言い逃れをする方法を……!! ここでそうですと言って恋仲イベントが成立すると取り返しのつかないことになるからな。
「なにせランダムなステータスが常時バフ状態になる」
つまり俺には永遠のステータス減少になる、ゲームの時は恋仲イベントで狙ったステータスをバフる為に延々とやり直したもんだけどな。「告白マラソン」とか「厳選カップル」とか「政略ラヴァーズ」とか揶揄されてた。
「奴隷にはなるな、結婚もしない。じゃあどうすれば良いの!! この思いはどこに行けば良いの!?」
「秘めておけとは言わない、でも今は駄目なんだ。どうしてもだ……お前には言えないが絶対に駄目なんだよ」
「そんなの……ひどいよ……どうすれば良いの……心が裂けそうなんだよ……」
「分かってくれ」
「そんなぁ……」
よし……エフェクトが消えた。これでイベントは終了だ。フォローはここからすれば良い。
「ニケ……強くなれ。強くなって強くなってそれで全部終わった時……そこから全部始まるんだ」
「レヒト君……何を……?」
「俺からはこれ以上言えない……ごめんな。これ以上は言えないんだ」
だってネタバレになるから。流石にそれは駄目だろう、それで変にイベントが変わったりしたらもっと手がつけられないかもしれないし。
「レヒト君……分かったよ……全部終わったらまた返事を聞かせてね……」
よーしよし……決意にあふれた目をして去っていったな……これで主人公としての役割を果たしてくれると信じてるぞ。
「ニケちゃんとなら別に良いんじゃないの?」
「マジで言ってる?」
すげえ殺意を発してたような気がするんだけど? どこで心変わりしたの
「途中で思ったの。レヒト君を独占なんて勿体無いことしたら世界の損失だって。遺伝子をたくさん残すべきだと思うな」
「お前ほんとすげえな……」
「あと気をつけてね、ニケちゃんって諦め悪くてかなりしつこいから」
「え? まさか」
手が何かに触れる感触がした……紙か?
「そーっと……そーっと……」
「お前さっき出てったよな」
「っ!?」
俺の手を契約書に引っ付けて奴隷契約結ぼうとしてるニケがいた。
「やめろっつの!!」
「うるさーい!! 私を誤魔化そうとしても無駄なんだからねー!! 無理にでも特別な関係になってやるんだからー!!」
あ、逃げてった。
「しくじったぁ……」
あいつの奴隷契約と婚約も躱さないといけなくなっちまった……