黒き角と白き牙
「んぐっんぐっ、どーすっかな」
ぶっちゃけまともに挑んだら俺に勝ち目はない、圧倒的にない。全く持って勝てる気がしがしない。一応ティーアのスープ最後の一本を飲み切ったから戦えはするだろうが。
「ユーホとユーイーが復活してようやく形勢不利にまで持っていけるかどうかって感じだな」
俺だけだと無理なところから不利までいけるならそれは試す価値のあることだろう。それをあいつらが許してくれるかは別の話になってしまうが。
「他愛もない、余だけでも勝てるというのにリチョウ殿まで居ては赤子の手を捻るようなものですな」
あいも変わらず良い声してんな、牛の体のどこからそんな声が出てるんだよ。
「ガル」
「おお、リチョウ殿もそう思われますか。いやはや主人の命とはいえ面倒なものです」
なんで会話が成立してんだ、ガルとしか言ってなかっただろうが。
「さて、いつまでも入り口で見ていては何も変わりませんが良いのですか? お仲間の生殺与奪は我々が握っていますよ」
もう気づいてやがったか、こっそり復活させるのはもう無理そうだな。
「くそ、なんでったってお前らを同時に相手しなきゃならねえんだよ」
「ぶも? これは異なことを申しますな。その口ぶりでは余達と戦ったことがあるように聞こえますぞ」
「あるよ、何回もな。お前らには妄言にしか聞こえねえだろうが」
同時とか無理すぎるから少しでも言葉で混乱させておきたい。
「ああなるほど、貴方はマレビトなのですね。余が出会ったのは初めてですが偶にあると言います。どうですか今の気分は、遊びだと思っていた世界で死ぬというのはあまり良い気持ちではないでしょう」
「ガル」
「申し訳ありませぬリチョウ殿、これは言ってはならぬことでしたね。いやはや失敬、自分だけが何もかも知っているような顔をしているのが少々不快でしたので」
ちょっと待て、なんつったこいつ今、マレビト、遊びだと思っていた世界、何を知っているんだこいつら、何を隠しているんだ。
「お前ら、何か知ってるな」
「さてはてなんのことやら、貴方の使命は十の王冠を得て神を殺すことですよ?」
「くそっ、話す気はねえってか」
「ええ、これ以上話す気はありませんよ。ですからもう戦いが始まります」
リチョウが居ねえ、もう移動しやがったのか!?
「ガル」
「うおおおおおおおおお!?」
後ろか!?
「一発ならどうとでもなるんだよ!!」
身体が勝手に動く、一戦闘一発限りのカウンターが消費されたのは痛えがここでリチョウを仕留められれば。
「ほお、それはゴクウ殿の武芸ですな。呪いであっても消えぬ技の冴えは天晴れと言うほかありませぬ」
後ろからの飛びかかりをいなして転がした所に追撃を入れようと弓を引いた、だけどそれを射つことはできなかった。
「か、は」
「だが悲しきかな、それは借り物。二の太刀には対応できない」
クダンの突進をまともに喰らう、聞こえちゃいけない音が身体のあちこちから聞こえてきている。駄目だ、これは駄目なやつだ。動けない、根性とかそういうことじゃない、構造的に壊れちゃいけないところが壊れている。
「う、ぐ、あ」
「手応え、いえ、角応えからいってもう動けますまい。なんと弱く、なんと脆い、これで神に弓引くなどとよくも言えたものですな」
言い返すにも声が出ねえ、叫ぶのを我慢するだけでで精一杯だ。こんなにあっさりやられるのかよ、こんなところで、やられるの、かよ。
「ああ、それでもわたくしの騎士なのですか。しゃんとしなさい」
「駄目ですよイー姉様、この男はやはりここぞという時に役に立ちません」
なんでこのタイミングで二人の声が聞こえるんだよ、意識を失っているはずだろう。ていうか、もうちょい優しい言葉をだな。
「時間がありません、血を取り込んで一時的に境界を曖昧にしている今しか使えない方法です」
「本当にやるのですか、確かに魔力タンクとしては認めますが、それでも今の相手には通じなかったのですよ」
「ユーちゃんはわたくしと一緒になるのは、嫌?」
「さあやりましょうイー姉様!! 今すぐに! ハリーハリーハリー!!」
いやうるせえなこいつら、死にそうな時くらい静かに感傷に浸らせろや。お前ら姉妹のコントに付き合ってる余裕はねえんだって。
「いきますわよ、魂約魔法・多重実存領域」
「イー姉様のためならば、魂約魔法・混沌存在承認」
なんだ、なんか、すげえ、窮屈なんだけど、これいったい、どうなって、やめ、入ってくんな、なんなんだ、俺に、わたくしに、私に、何が起こっていやがりますことなのよ。
『ふぅ、上手くいきましたわ。戦力集中は戦略の基本ですから、卑怯とは言いませんわよね?』




