矢が飛ばせれば弓です。
「次は猿か」
二つ目の門を目の前にしたところで俺は見ないようにしていた現実に目を向けることにした。それはもちろん壊れた弓が呪われてできた謎の物体Xについてだ。
「どうしろってんだよこれ」
砕けた持ち手の形はそのままに歪にくっついた弓の本体、灰色の模様が入っているので元は木製だったはずだがそれも今は怪しい状態だ。弦に至っては完全に切れていたところから灰色の毛が混ざってつなぎ合わされた。それだけなら別に良いが、問題はその張り方だ。
「強く張りすぎだろ手が切れんぞこんなの」
ギッチギチに張り詰めた弦は確実に俺の手にダメージを与えるだろう、なんならこれを刃の代わりにして斬りかかれるくらいだ。
「矢は一応撃てそうだが、これを引いて手が落ちたりしたらそれで終わりだぞ」
怖えなあ、呪って欲しいとは言ったけどこんな風にしろとは言ってねえんだよなあ。
『双狗の灰弓』
ー むかぁしむかしの事じゃった。あるところに心優しきお侍とその愛犬がおったそうな。ある時お侍は暗がりに光が差し込むのを見たんじゃと、お侍は大層驚いた。そして嘘に立ち向かったんじゃ、そこでお侍は左腕を嘘に取られてしもうた。でもお侍には痛くも痒くもなかったそうな、愛犬がそのまま腕の代わりになってくれたんじゃ。犬の名は太郎と次郎、死してなお忠を尽くす名犬じゃ ー
「なんで昔話風なんだよ、結局能力とか判んねえじゃねえか。それに罪悪感が凄い」
呪われてるのは確実なんだが、一発射って見ないと分かんねえか。実際持ち手は俺の手の形そのままだから持ちやすくはあるんだが。
「どーせ壊れねえだろうからこの門は試し射ちにゃあちょうどいいな」
どうか俺の手が切れませんように。
「そーっと、そーっとだぞ」
ギンギンに張り詰めた弦に手をかける、頼むぞ切れるなよ俺の手。
「あれ、フワフワしてる」
弦っていうより毛の成分の方が強いな、これならいけるかもしれないぞ。
「ふんっ、ぐぎぎぎぎぎ」
いや固いな!! すげえ引きにくいぞこれ、前のは結構簡単に引けたはずなんだけどこれはかなり労力を使う。
「狙いはど真ん中だ」
ここまで力がいるとなると相当な威力が出ると見た、火力不足にはなりたくないからな、できれば門をぶち抜いてくれよ。
「うおらああああああ!!」
矢が飛んだ軌道に風が渦巻くのが見える、すげえなんだこれ。矢がジャイロ回転するわけないから空気を裂いた後に真空でもできてんのか?
「なんか鳴き声みたいな音だな」
矢が飛ぶ音に混じって犬の遠吠えのような音が混じってるような気がする。これがなにかの効果があるものなのかそれともただの呪い産物かはまだ分かんねえ。
「さあ、威力はどうだ」
門にぶち当たって土煙が上がってるから門にどれくらいの被害を出したかは見えない。目で見てるわけじゃないがそこはご愛嬌だ。
「……俺が射ったの矢だよな」
門には顎で食いちぎられたような傷ができていた、とても矢でできるような痕跡じゃねえ。何が起きたらあんな風に傷が付くんだ。
「一回使ったから見せてくれると良いんだが、どうだ」
【白狗の無念 自傷確率アップ・大(反転) 】
ー 守れなかった、主は美しく強かったがそれ以上に敵は強大だった、せめて我が身が盾になれば。しかしそれも叶わぬことだった ー
【黒狗の懺悔 攻撃阻害・大(反転)】
ー 気づくのがあと数瞬早ければ、主の刃は止められた。だがその数瞬が遥かに遠い ー
【双狗の顎】
ー 当たった箇所を起点として双狗の顎の追加攻撃が発声する。誇り高きかつての牙とは似ても似つかぬ醜悪な噛み跡は呪いによって変質したものではない、もとより同じ物の在り方が変わっただけである ー
「反転してなかったらやっぱり手が落ちてたっぽいな、つーか自傷確率ってなんだよドジっ子かよ。攻撃阻害ってのもよくわかんねえな、阻害要因の空気を避けた結果あの飛び方したってことで良いのか?」
空気を弾いて抵抗を減らして飛んでるからあんな凄まじい飛び方をしてるってことで良いんだよな、呪いの解析とかもっときっちりやってくれれば分かりやすいんだけどな。
「まあいいや射てるなら問題無い。門が削れるってことは破壊もできそうだし」
矢の残り本数も気になるが、ここでケチっても進めねえだけだからな。射つしかねえ。
「うぎぎぎぎ」
一射ずつしかできないのは悪化したところだけどその一射で終わるように射てば問題無いってことだ。ここは変化を喜んでおこう。
「砕けやがれ!!」
二射三射と重ねていくと流石の門ももう駄目だった、穴が空いて通れるようになったな。
「じゃあ行きますかね、猿の攻略だ」
この先はぶっちゃけジャングルだ、そこで化け物猿とタイマン張ることになる。
「っていうのは素人のやることよ、こちとら玄人だからな。猿は知能の差で圧勝してやろうじゃねえか」




