ぐるぐる
「いやこれは予想外」
なんとか犬の最後っ屁である自爆を耐えたのは良かったんだけどな、バフの効力がそこまで強くないタイミングで食らったみたいで結構ダメージは食らったんだ。
「それで……ミイラ男になったと」
致命傷になるような感染症の兆しも全くなく、ただただ表面がこんがり焼かれてしまったようで全身包帯でぐるぐる巻きになってた。奇跡的に悪化することなさそうだけど皮膚の再生次第では一生人に見せられない身体になるかもしれないって村の医者に言われた。
「……魅力の値で発生するイベントは軒並みアウトかな。あー、ミスコンの商品は結構有用だったんだけどな……そこは諦めるとするか……」
あれはイベントに参加できるだけの魅力の数値があればあとは根回しで優勝を確定させるイベントだったからな。これじゃあ参加もできやしないか……まあ仕方ない。
「……見た目以外の機能には全く支障がないってのもすげえ確率だよな、致命傷確率が下がってるおかげかな?」
まあ見た目なんてそこまでこのゲームで重要なパラメーターじゃないし、ティーアとニケが無傷だったなら別におれの身体がミイラ男染みたものになろうとも別に大したことじゃない。不思議と火傷の痛みもないし、包帯の交換の手間があるくらいだ。
「……だからさ。そんなに泣かないでくれよ、俺が悪いことしたみたいじゃんか」
「だっで……だっでぇ……!! レヒト君が……!!」
確かにティーアは表面がカリッカリのウェルダンになった俺を医者に持っていった本人だから一番酷い状態を見てる、それも今の号泣につながってるんだろうな。
「この通りもう大丈夫だから、な?」
「でもぉ……!!」
うーん困ったな、そんなに泣かれてると、とりあえずお前のメシを食えば体力回復早まるからお願いするぜ☆ って言いにくいな。
「じ……じんだかとおもっで……こわかったんだよぉ……」
「いやいや死なないから、こんなところで死ねないから」
「そんなこといっでも……くろこげだったんだよお……」
黒焦げだったのか、意識を失ってたから知らなかったけど仁王立ちで意識を失ってたらしいことは知ってる。不思議と家に被害はなく人間だけを殺す術みたいだって話も聞いたな。
「もう大丈夫、安心しろって」
「ほんと……?」
「本当」
とりあえず落ち着かせて料理を作ってもらおう。そうしたらもっとどうにかなるかもしれないし、デバフ
は俺に無限の可能性を与えてくれるんだ。
「だからちょっと料理を」
「面会できるようになったっていうのは本当!?」
また光りながら登場したかニケ、お前は俺の話の腰を折るのが本当に上手いな。別に良いんだけどさ。
「おう、無事だったかニケ」
「あ、ああ……ああああああああああああああああああああああ!!!」
叫びながら号泣するのやめてくれるかな、ものすごいブサイクになってるぞ今のお前。仮にも嫁入り前の女がして良い顔じゃないなうん。
「い……生きてる……!!」
「勝手に殺すな」
「だって、あんな状態で……!!」
「黒焦げだったんだろ?」
「身体が炭みたいになってて……でも良かった……これで……」
うん? なんだその箱は、箱の中に何か入ってるのか? お見舞いの果物とかかな、それならありがたい。ここの飯は薬膳みたいなもんでくそ不味いうえに少しだけバフがかかるから俺には結構キツいんだ。
「あげられる……」
「何かくれんのか? こんな有様だからなんでも喜んでもらうぞ?」
「喜んでもらえると良いんだけど……」
がちゃりという音と共に箱から出てきたのは鎖とそれにつながった首輪、それに仰々しいオーラを纏った紙だった。
「弟の命、私の命、とても返しきれる恩じゃない……だから私の全部で恩を返します。私をもらってくれますか」
「え、いらない」
「そんなこと言わずに!! 一生かけて尽くしますから!!」
「いや重い」
「それくらいのことを私にしたんですよ!!」
「えー」
「えーじゃなくて!! 私は本気です!!」
やばいやばいやばいやばい……!! これは流石に知らない、知らないイベントだが……これを成立させると主人公がいなくなる……それじゃあ駄目だ世界が終わる……主人公がいなくちゃ始まらないイベントなんて山ほど有るんだぞ……首輪に契約書ってどうみても奴隷契約だろ……キャラを奴隷化なんてそんなシステムなかっただろうが……!!
「それだけは勘弁してくれ、俺は友達をそんな風にしたくない」
「え、とも……だち……?」
あれ、なんかマズったか……ニケの顔が緩んでいくぞ。どっちだ、良いのか……悪いのか……!?
「友達……なの?」
「ち、違うのか?」
「良いの……?」
「当たりまえだろ……?」
なんだ? なんか噛み合ってない感じがする。俺が知らないニケの情報のせいでなんかとてつもなく迂闊な発言をした気がするぞ。主人公としてではなくニケっていう個人への理解不足がここで仇になったか……!!
「私が怖くないの?」
「ニケが?」
「うん」
「全然怖くないけど」
「……」
「やめろやめろ!! 無言で首輪はめようとすんな!!」
なんだ!? 行動が読めねえぞ……こいつは今何を思っているんだ……全然分かんねえ……どんなことを言えば良いのか判断に困る……
「だって……レヒト君が優しいから」
「待て待て……理由が理由になってねえ。俺が優しいとなんでニケが首輪をするんだよ」
「だって……私のこと助けてくれたのも、友達って言ってくれたのもレヒト君だけだから、レヒト君と一緒に居たいと思って……」
は?
「お前人気者じゃないのか」
「え? そう思ってるの? それは違うよ、みんな私が怖いから敵にならないようにしてるだけ。私はずっと1人だった。家族でもまともに話してくれるのは弟のテナだけだよ」
おいおい、主人公は皆の人気者で惜しまれながら冒険に旅立つんだろう……!? なんでこんなに闇を背負って病みを纏ってんだよ……!?
「私は化け物だから」
「ぷっ」
「なんで笑うの?」
「お前が化け物だなんてそんなおかしな事あるかよ、本当の化け物……もとい度を超えた世界って奴を見せてやるよ」
「それはどういう……?」
俺が生み出してしまったものを見せてやろうじゃねえか……そうすれば化け物なんていう言葉のちっぽけな枠組みなんてどうでもよくなるはずだ。
「ティーア!! ちょっと料理作ってきてくれ、手加減なしだ」
「え? 今?」
「今すぐに、ニケを連れて」
「分かったけど……なんで?」
「お前だけが頼りだ……頼むよ」
「……分かった。行くよニケちゃん」
「え? ええ?」
見てこいよニケ……お前の世界はそれで一気に変わるはずだ。