アスリートはだいたいM、サムライもそう
「隠さなくていい、これは大事なことなんだ」
自傷ができるとできないとではシラヌイの戦い方が全然変わってくる。できれば自分からできると言って欲しいところだが。
「う、そのう、手前のことをみだらな女と思わないで欲しいのですが」
「思わない、絶対に」
「これを首に当ててもらえるでしょうか」
これって訓練で使ってた鉄扇だよな、なんでこんなもんを当てるんだ? ゲームだとなんかエフェクトが出てそれで体力を消費してたが。
「はい」
「ひぅっ!?」
何さっきの声。
「あの、空いている手で首を掴んでいただけますか」
「え?」
「い、いえ、なんでも」
意味があるんだろうなきっと、やるだけ損になるような気も薄々してきているんだけどこれはどうなんだろうな。実際絵面としては首を掴んで武器を首に当ててるとかいうとんでもなくヤバい光景なんだが。
「っ〜〜〜!!」
「なんか嬉しそうだな」
「そ、そのような事は」
いやいや、顔赤いし息も荒いし、力は込めてないけど少しでも俺がその気になったら死んでしまうぞ今の状況。
「でも、もっと絞めていただけると手前は嬉しいかなと」
「マジか」
シラヌイはもしかしたら、いやもしかしなくてもドMなのではないだろうか。そうじゃないともっと絞めて欲しいだなんて言わないだろ。
「こうか」
「んきゅっ」
今どっから声出したんだよ。
「すばらじいでず、じぶんではできぬぢからがげん、ごれならば、ずぐに」
「すぐになんだ、このままで良いのか本当に」
めっちゃ不安になってきた、これそのまま気を失って終わりなんじゃねえの? ただの一人遊びに付き合わされてるだけだったりしない?
「んんっ!!」
「うおっ、大丈夫か?」
ビクンビクンしてるけどマジで大丈夫か、気を失う寸前なんじゃ。
「もう結構です、これで入りました」
「え? あ、うん」
いきなり超冷静になられてもこっちが戸惑うわ、でも確かに体力が減ってる時のステータス上昇の証である赤黒いエフェクトが出てるな。
「入るっていうのは、何かスイッチ的なものなのか」
「手前は止水と呼んでいますが、先ほどのように一回無我の状態に入ることにより一時的な境地に至ることができるのです」
うーん賢者タイムだよねそれ、それで実際に効果が出るんだからすごい話だが現実的になった結果自傷スキルが賢者タイムになるとは誰も予想できなかっただろう。
「しかしこれは一時的なうえ時間がかかる故全く実戦では使えないと思っていましたが、ここまで早く手前を止水に持っていけるとは。どこかで修行を積まれたとしか」
「人の首絞める修行なんざしたことねえよ」
「だとしたら才能です、誇るべきでしょう」
「誇れねえよ……これは」
ドMを満足させる首絞めができることの何を誇れと言うのか、一生気づかなくて良い才能の一つだって絶対。何この複雑な気持ち。
「今の状態ならばもっと激しい舞も難なく踊れましょう」
「もっと激しい、ねえ」
今だって十分激しいんだが、これ以上いったらもう人の枠組みを外れた動きをしそうだな。
「では、一差し。我流・天昇」
「いきなり踊るのか」
疲れてねえのか、シラユキとの稽古はそんな簡単に回復できるほど緩いとは思えなかったが。サムライ、もしくはゲイシャには超回復能力でもあんのか。
「はっ!!」
やっぱり日本舞踊じゃねえな、つーかダンスですらねえぞ。これ新体操の床のやつだ。めっちゃバク転とかして最後に飛ぶやつ。
「うわー、飛びすぎだろあれ。天井が高い場所でよかったな」
もうね、最後の飛んだ時の捻りとか回転とかは見えない。きっとものすごい量の変化があるんだろうなー、と思うくらいしかできない。
「どうでしょう!!」
「いやもう言葉もねえよ、凄いよお前は」
もう日本舞踊的な踊りはしなくて良いな。そうなるとバフがかかるからもっと我流を極めて欲しいってのが俺の正直な感想だ。ティーアでやらかした道だが仕方ない一度も二度も一緒だ。
「きっとその動きは踊りの歴史を塗り替えるぞ」
「でへへ〜、それは手前を誉めすぎです〜」
なんだその緩んだ顔は、イベントシーンでも見たことねえぞ。よっぽど踊りを褒められるのが嬉しいんだなきっと。
「そういえば弓の稽古は如何でした」
「ああそれな、残念だけど技は習得できなかった。射てば当たるけどそれだけだな」
「では、一つコツを伝授いたしましょう」
「コツか、なんのコツを教えてくれるんだ?」
「流星です」
そんな技あったか? 俺の先生はそんな技のこと一回も言ってなかったが。
「ではまず、ここをギューン、そしてググッとやって、バーンです」
何一つとして伝わってこないけど、とりあえず光り輝く矢が上空に向かって放たれたのは分かった。感覚派が教えると駄目だなやっぱ。
「するとこうなります」
「え?」
目の前に上級技の一条が雨あられ。一条と五月雨の合わせ技ってことか。
「ね? 簡単でしょう」
「いや無理だから」




