白縫フラグ
とりあえず意識を失ったシラヌイを放っておくわけにもいかねえから介抱することにした。とはいえできる事は少なく傷に薬を塗るくらいしかできなかった。シラユキ曰く
「あなたが塗った方が効果があるわ」
とのことだったので大人しく従った。その時に鉄扇で口元を隠していたので全く見えなかったが恐らくあの口は凄い勢いで弧を描いていたに違いない。
「まあ顔以外には目立った外傷はないって話だったから助かったな。流石に気絶してる女の身体をまさぐるのはちょっと」
あんだけボロボロだったのに打ち身にすらならないってのはシラユキの技量の高さのおかげなんだろうな。つまり傷がつくように顔をぶっ叩いたのは完全にわざとだってわけだ。怖え母親だぜ全く。
「ぺたぺたっと、これで良いのかな」
白い軟膏を顔にすり込んでいく、よく伸びるそれは変な臭いもせずベタベタしているわけでもないサラサラしたものだった。多分良いやつなんだろうな。
「もっちもちじゃねえか、すげえよ赤ちゃん肌だよ」
シラヌイの頬の触り心地が思いの外良い。ちょっと癖になるなこれ。
「うりうり」
楽しくなってきた、なんかこうもっとむにゅむにゅしたい気持ちに駆られる。やってしまおうか、いやそれは駄目だろう流石に、むにゅむにゅは流石にない、でもな、絶対気持ちいいだろうな、どうしようか。
「あの、これ以上は」
「うおう!? 起きてたか!?」
「はは、実は軟膏を塗られ始めた段階で手前は起きています」
「ごめん、好き勝手にいじり倒した」
「それはまあ手前も心地良かったので不問とします、むしろ時たまであればやって欲しいくらいなので」
「耐えられなくなった訳じゃない、のか?」
「左様です、その、ちょっと病みつきになりそうだったもので」
まさか俺にフェイシャルマッサージの素質があるとでも言うのか、いやあるな多分。能力補正のラインナップを見る限りだと手先に関しては無敵に近い感じするし。マッサージ業界ならばもうすでに天下を取れるんじゃねえかな?
「それに、手前の技ではなく肌を褒められたのは初めてでしたので少しだけ驚いておりました」
「こんなに綺麗なのに、それはちょっとおかしいな」
「っ!?」
「おいおいトゥンクっていう音がしたぞマジか」
やっべ、フラグが立つ音がした。ニケの時もあったけど恋仲イベントの発動条件がほぼなくなってるみたいだな。おいおい小さいハートをぽこぽこ生み出すんじゃねえよ。
「て、手前の心の臓腑がおかしくなって、バクバクと鼓動が、痛いほどに」
「よーし落ち着け、深呼吸だ。冷静にな、冷静になるんだぞ」
これは俺に向けた言葉でもある。迂闊な言動は予想外の結果を生み出すからな。
「すー、はー、すー、はー、少し楽になって参りました」
「続けて、意識をしっかりと持てよ」
「分かり、ました、すー、はー」
呼吸が整ったことで落ち着いてきたようだ、これなら変に恋仲イベントが進行するような事はないだろう。驚かせやがって、全く。ニケにしろシラヌイにしろチョロが過ぎるぞ。
「そういえばティーアとプラチナには発生してないな、別に良いけど」
「てぃーあ、ぷらちな、それは誰かの名前でしょうか。詳しいことをお聞かせください」
なんだ、圧がすごい。さっきまでのほわほわした空気はどこにぶっ飛んだ。なんで後ろに般若が見えるんだ。
「落ち着け、深呼吸だぞ」
「ええ、落ち着いております。それに今までないほどに澄み切った気持ちで御座います。あらゆる雑念が吹き飛んだ境地に至った気さえしています」
背筋が凍るような笑いをするんじゃねえ、マジで怖いから。ジリジリとにじり寄ってくるな、何この迫力。
「さあ、お教えくださいませ。レヒト様」
「ただの幼なじみと飼い狐だよ」
「あらまあ」
一気に迫力が霧散しやがったな、なんだったんだ今の。恐ろしい変貌だった、さっきの状態ならシラユキに勝てるんじゃねえの。
「それはそれは、手前が気にすることではなかったのですね。安心いたしました」
「いや何を安心するんだ」
「それはもちろん、もちろん、あれ? なんでで御座いましょうね」
「俺が聞きてえんだけど」
「手前にもよく分かりません、ですがさっきはそうすべきだと思っただけで」
無自覚か、意識的になれるなら強化モードになるかと思ったがそんなに上手くはいかないみたいだな。つーかお前の戦闘の要のスキルは使わねえのかよ。
「なあ、切腹はしないのか」
「レヒト様? 一体何を言ってるんですか? 切腹などしたら死んでしまいますが」
「ド正論どうもありがとう、切腹っていうのは言葉の綾でな。お前は多分体力が減ってる方が強いはずなんだ」
お前だけ体力が減るとステータスが上がる仕様のはずだ、結局体力減らすと安定しないのが仇になって評価が低いんだが。
「だから自分で体力を減らす技能があるはずなんだが、心当たりはないか」
シラユキへ一矢報いた時は体力が減った状態だったのも理由の一つだろうからその仕様は存在しているはずだ。
「そ、そんなものは、ありませぬ」
顔を背けて目が泳ぐ、絶対あるわこれ。




