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弓とはこう撃つ、のだがなぁ

「せいっ!!」


 俺の撃った矢が的に当たる、もちろんど真ん中でしかも10連続だ。


『補正の結果阻害要因がなければ命中率は99%です、連射した場合、曲芸撃ちをした場合には若干の下方修正が行われます』


「マジで若干すぎてどんな撃ち方しても外れねえぞこれ」


 型を教えてもらったのはいいんだけどなあ、なんかデタラメに撃っても当たっちゃってむしろ申し訳ないくらいだ。教師役のサムライの人も苦笑いをしている。


「うーむ、当たっているで御座るな。しかも動きながらでも百発百中と来ている。基礎で教えることはもうないので御座るが」


 そう、基礎的なところではもう何も弓で俺が覚えるべきことはない。だって当たるし、むしろ問題なのは応用編の技を覚えるところだった。


「どうして技を撃とうとすると途端に鈍くなるので御座ろうな、皆目見当がつかないで御座るよ」

「それは俺もそう思う」


 なんか補正って通常攻撃にしか乗らないみたいで、サムライの技を使おうとすると全然当たらないどころか発動すらしないんだよな。


「とりあえずは初級の五月雨からやろうと思っているので御座るが、上空に射った矢を空中で分散させるところまで至らない理由が分からないので御座る」

「うん、なんでだろうね」


 なんで一本しか射ってない矢が空中で何十本何百本に増殖して降ってくるんだよ、物理法則を無視するにも程があるだろ。なんでこれを初級と言い張れるんだこいつ。俺が悪いっていうよりもやっぱりサムライ専用技なんじゃねえかなあ。


「これでは中級の廻天、上級の一条は習得できないで御座るよ?」

「はは、あれはもう無理だと思うな常識的に考えて」


 だって信じられるか、廻天なんか当たったところが螺旋状にえぐれた後にブラックホール的な現象が発生して範囲攻撃になるだろ。一条に至っては矢が光り輝きながらレーザーみたいに飛んでいくし、もう俺には何が何だかよく分からないでゴザルよ。


「うーむ、貴殿の身体には素晴らしい素質を感じたので御座るが」

「はははー、残念だなー」

「これ以上は無駄で御座ろうな、幸い強弓を引くことはできるようで御座るから普通に使う分には問題ないで御座ろう」

「ありがとう、技は習得できなかったけど助かった」

「いやいや、ご息女を助けていただいた礼としては安いもので御座る。その弓も差し上げるで御座るよ」


 なんでもこれは五人引きの弓らしく、結構強めの弓らしい。ただ撃つだけでもそこそこの威力にはなるだろうからありがたい。ステフからもらった弩ほどではないのが悔やまれるが、あれは神に通用しなかったから惜しくもない。できればこの弓に呪いをかけれれば良いんだが。


「それに、あちらと比べればこちらの稽古など遊びのようなもので御座る」

「あー、あれは、そうだな、流石に同情する」

 

 教師役のサムライが見た方向は屋内鍛錬上の方だった、そこからは金属同士がぶつかる音が絶え間なく聞こえてくる。それに混じって怒号も飛んできているから尚更恐ろしい。そこで稽古を行っているのはシラヌイとその母親であるシラユキだった。


「遅い! 醜い! 弱い! そんなんでよくもまあゲイシャになりたいだなんでぬかしたもんだねえ、我流でしか踊れないならせめて美しくありな!!」

「く、なんて、重い一撃」

「無駄な動きが多いんだよ、あれも無駄これも無駄だから遅い、だから軽い、だから醜い、さあ一撃でも当ててみな」


 あれって鉄扇って奴だよな、クソ重いだろうになんであんなにふわふわした動きができるんだ。それにシラユキの方は完全に日本舞踊のお手本みたいな動きで攻撃しているように見える、滑るように移動しながら切れ目のない腕の動き。よく分からないが優雅な動きってことは分かる。シラヌイのアクロバット的な動きも凄いんだが全く通じていないみたいだ。


「まだ梅にも対応できないんじゃお先真っ暗だよ!!」

「こ、の!!」

「なんだい怒ったのかい、でもそれが事実なんだ!! 受け入れな」

「きゃああああ!!?」


 良い一撃が入ったな、しかも顔に正面から。あれ顔に傷が残ったりするんじゃねえかな。容赦がないにもほどがある。


「全く、せめて竹くらいには対応して欲しいね」

「う、ぐぐ」

「その無様さはなんだい、あんたの恩人だってあそこから見ているってのにみっともないったらないね。こんな姿を見たら曾祖母様がなんて言うだろうね」

「見られて、る?」

「そこから見ているよ、あんたが蹲っているのをね。どんな気持ちだい、役に立ちたいと思った相手に駄目なところを見られるのは」

「い、いや、見ないで、こんな手前を見ないで!!」


 うーん、別になんとも思わないけどな。シラヌイの醜態なんていくらでもあるし、バーサーカー状態の時とか自滅技の暴発とか色々知ってるからこれくらいでなにか思ったりしない。むしろ頑張ってんなあと思うくらいだ。


「それが今の力だってことを認めな、話はそれからだよ」

「うああああああああああああ!!!」

「がむしゃらになっても無駄だよ、動きが粗くなるだけさ」


 もうボロボロなのにまだ動くか、シラヌイの根性にはマジで驚かされるな。でもなんか満身創痍の割には動きが鋭いような。


「はっ、無駄な動きをする余裕がなくならなきゃまともに動けないのかい!! 最初から今みたいに動きな」

「あああああああああああああああああ!!!」

「悪くない、でも、まだまだだよ」

「あっ」


 首を鉄扇で叩かれてシラヌイの身体から力が抜けた、今度こそ終わりだ。流石に完全に意識を刈り取られた後から動くことはできないだろう。


「まったく、これでようやく次の段階にいけるかね」


 そう言ったシラユキの着物の袖はパックリと切り裂かれていた。











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