翼はなくとも羽ばたこう
「あああああアアアアアアア!!!!!」
「なんと面妖な」
翼なくても飛べんのかお前、だったら翼なんていらなかっただろ。それとも翼がなければいけない理由でもあったのか。
「この高さならば弓も届こう、射抜くのになんの不都合もなし」
「アアアアアアア!!」
将軍の放った矢は轟音を響かせながら次々と翼の聖人に刺さっていく、それでもただひたすらにまっすぐ突進してきやがる。結構致命的な場所に刺さってると思うんだけどな。
「死なずの怪異か、なれば殺すに一工夫が要ると見た」
脇差を抜いた、あれでもう一回空間斬りでもやるつもりか。あれなら今度こそ翼の聖人を仕留められるかもしれない。
「護刀・岩永」
何あれライトセイバーじゃん、光の刃が脇差を延長して普通の刀くらいの長さになってる。あんなもん持ってたのか将軍。
「真の姿をあらわせ」
「伸びるのかよ!?」
すごい勢いで光の刀身が伸びていく、行き先はもちろん翼の聖人だ。
「うぎっ!?」
「捕えたぞ」
串刺しにされた翼の聖人がジタバタしているが、身体の中心を貫かれているからそう簡単に抜けるわけもない。
「天照」
「ガアアアアアアアアアア!!!!」
光の爆発というかなんというか、とりあえず刺された場所が爆発しているのは間違いない。焼けているわけでは無さそうだが致命傷であることに代わりはないだろうな。
「これでも死なぬか、一体何がそこまでこの世に留めるというのか」
「アアアアアアアア!!」
力ずくで抜け出しやがった、これでも止まらねえとなったら四肢を切り落として達磨にでもするしかねえぞ。グリンの水の体でもないのになんでこんなに死なねえんだよ。
「マダ、ダ、トドク、テハ、トドク、マダ、オワラナイ、オワラナインダアアアアアア!!!」
「執念、いや怨念か。余程の事があったと見える、だが足りぬ。この首をくれてやるほどではない」
ついに翼の聖人が将軍の所に到達した、将軍は焦るでもなく脇差の長さを元に戻した。
「この間合いならばこの長さの方が良い」
「トドクゾ、テガ、イマハ、トドク、アノトキトハチガウ」
「何を見ているかは知らぬ、だがここまで来ては致し方ない。その五体分けてくれよう」
「ジャマダアアアアア!!!」
俺目掛けて飛んでくる翼の聖人が将軍の脇を通り抜けた、そしてその一瞬後に響く音。それは澄んだ金属の音。何かを斬った刀の音。
「五閃、半呼吸と言ったところだな」
「ア、ガ」
「さらばだ」
身体が五体の切れ目にそって斬り裂かれていた、さすがにこれでは動けるわけもなく翼の聖人だったものがその場に転がった。
「終わったのか」
「うむ、ここまで来れば終いであろうな」
なんかピクピクしてる気がするけどな、しかも血が流れてねえからまだ普通に動くような気さえしてしまう。
「薬師を連れて参りました!!」
「ようやくか、痛みともこれでおさらばだな」
「待て!! 来るな!!」
「え?」
将軍の声が聞こえた時にはすでに腕がシラヌイに向かって飛んでいっている。その速さは今までの比ではなく。目にも留まらぬというような速さだった。
「あー、クソ、絶対これ傷悪化しただろ」
違和感を感じていたから間に合った、腕単体ならそこまで火力はねえだろうと思っていたが腕だけでも聖人だな、きっちり俺の身体に突き刺さってやがる。
「がふっ、大丈夫か」
「は、はぃ……」
「そいつは良かった、お前がこれで死んだりしたら一大事だった」
「レヒト、様、お身体が」
「ああ、これは大丈夫だ。どうせ食うつもりだった」
「食う……?」
聖痕を集めねえとならねえからな、弾になる呪いがねえ以上は、直接ぶんどるしかねえだろうと思ってたんだ。ちょうど腕が刺さってることだし、吸収でもできるんじゃねえかと。割と賭けだがこれができねえと弾になる呪いなしで聖人と戦えなくなるからな。
「よし、いけた」
腕がみるみる萎んでいきやがる、これなら大丈夫ってあれ待てよ。今腕が抜けたら俺はどうなる? 脇腹に風穴が開くな。
「待て待て待て!? 俺死ぬぞこれ!?」
「レヒト様、あなた様に舞を一差し奉じます。これは手前が舞える唯一の舞に御座います」
俺が死にそうなのに舞うの? なんで? ここはそこの薬師のおっさんから薬ぶんどって俺にかけてくれよ。
「いきます、我流・黄泉還り」
まさか回復効果のある舞なのか!? それならオールOKだぞ!!
「この舞は身体本来の回復力を極限まで高めてくれるはずです」
え? そんなもんくらったら反転して俺が即死するのでは? 止めさせねえと!?
「止めよシラヌイ、不憫に思って言ってなかったがお前の舞は我流の癖で効果が逆転するのだ。だからお前はゲイシャにはなれぬのだ、恩人を殺す気か!!」




