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将軍様の一太刀

「何事であるか」


 そりゃ襖ぶち抜きゃ駆けつけてくるわな、さあ上手いこと言わなきゃならないぞ。


「ごぷっ」


 なんだ、吐いたのか俺。何をだ、飯をか? まさか、でもこの鉄臭さは、そうか血か。思った以上にダメージは深いみたいだな。


「其処元、その傷はまさか」

「少し、やられた。でも、シラヌイは、あの通りだ」

「なんと、見る影もなく痩せ細っていたというのに。今や壮健そのものではないか。其処元は真の名人と言わねばなるまい」


 ここでシラヌイの要求を飲ませるしかねえな、少なくとも今の俺は娘の不治の病を治した名医的なポジションだ、無下にはできねえ。少しずつ痛みがしてきたから話せなくなる前に言わないと。


「シラヌイ、は、サムライじゃなくてゲイシャになりたいらしい。もしそれを無視したら、また同じことが起こる、ぞ」

「なんと、斯様な望みはついぞ聞いてはおらなんだ。あい分かった、命を失うのに比べればサムライの才能なぞ要らぬ、ゲイシャにでもなんでもなるが良かろう」

「ま、真ですか父上!? 有難く存じます!!」

「二言はない、だが礼ならばこの者に言うが良い」

「はいっ!!」


 やっべえ、息するだけで死ぬほど痛え……上手い具合にバフが弱まった時に殴られたのか、まさかの重傷だぞ。


「祓いの方!! ありがとうございます!! よろしければ名前を教えてはいただけないでしょうか!!

「れひ、とだ。すまんが医者かなんかを呼んでもらえるか、傷が割と深いみたいなんだ」

「レヒト様ですね、今すぐに最高の薬師を読んで参ります!!」


 現金な奴だ、元気一杯じゃねえか。めちゃくちゃダッシュしてたぞ。それくらいでちょうど良いから別になんの問題でもないんだがな。


「其処元が娘の仮病を解いてくれてことには感謝の言葉も見つからぬよ」

「気づいてんのかよ、じゃあなんとでもできただろこれ。斬るなり叱るなり」

「できぬのだ、家族であれば尚更な。いかにサムライの最高位といえども家族の問題を刀で斬り裂くわけにもいかんのでな」

「はっ、とんだなまくらじゃねえか。げほっげほっ!!」

「其処元の言う通りなのだ。敵は斬れようが身内となると途端に我が腕は鉛の如く重くなる。親として情けない限りだ」


 将軍のこんな一面を見ることなどゲームの中ではなかったな、父親としての将軍はただの不器用な親父みたいだ。


「その傷はシラヌイがつけたものだろう、見事な鎧貫きだ。胸を抜け臓腑まで傷ついたと見たが如何か」

「当たりだよ、先制は俺だったが、そこから見事に隙を狙い撃ちされたさ」

「あの子はやはりサムライになる運命ではないか、ゲイシャの才能はあの子にはないのだ」

「それは本人も分かってた、それでもなんだ」

「……左様か、ならば何も言うまい」


 この会話も非常に興味深いんだけどよ、薬師まだ? 結構以上にキツイんだ今。


「将軍様!! 翼持ちが脱走しました!!」

「であるか、撃ち落として構わん。もう用はない」

「それが羽が桁違いに硬く、刃が立ちませぬ」

「ほう、それは面白い。其処元よ、一つ面白いものを見せてやろうではないか。見えるかどうかは分からぬがな」


 将軍がゆらりと立ち上がった。


「あいつは聖人だぞ、俺が枷だった最初とは違う。勝算はあるのか」


 俺っていうお荷物がない今は翼の聖人を縛るものは何もない。もしかしたら将軍でも勝てない相手かもしれない。


「なあに、空を飛ぶ燕程度なら落とした事があるゆえ心配召されるな」


 いや聖人と燕を一緒にされても困るんだが、それとも本当に将軍からしたら微々たる差でしかないってのかよ。


「みいつけたあああああ!!!」


 馬鹿でかい声と一緒に暴風を巻き起こしながら翼の聖人が姿を現した、足とかもう猛禽そのまんまになってやがるな。より鳥に近づいて出力を上げたんだ。


「二度も落とせると思うなよおおお!!!」

「呵々、よく囀るものよ」


 全くもって対照的な二人だった、聖人は風を巻き起こしながらどこまでも激しく攻撃を繰り出す、それに対して将軍は最小限の動きで羽と風を躱していく。それはさながら水面の月を取ろうともがく獣のようで、格の違いというのを見て取れるほどだった。


「ちょこまかと……!!」


 翼の聖人が高度を一気に上げた、すぐに豆粒ほどにしか見えなくなる。そんな場所から一体何をする気なんだ。


「なるほど、全て吹き飛ばす気か。確かにこれは避けられぬ。はて困った、おそらく縮地も通じまい。如何様に斬り捨てたものか」


 俺を巻き込む気満々の範囲攻撃かます気かよ、俺をここで殺したら神の言いつけに背くって事も頭にないくらいキレてんのか。


「このまま待つのは悪手、さりとて縮地で飛ぼうとも迎撃されるであろう。弓を放っても当たるまい」


 なんだ、将軍の身体からオーラが放たれ始めたぞ。白い霧のようなそれはゆっくりと立ち昇っている。何かの技を放とうとしているようにも見えるが。


「ならば道理を返すしかあるまい、理はあれども絶対ではないことを刻んでやろうではないか」


 居合いの構え、どう考えても届くはずのない位置に翼の聖人は居る。それでも将軍なら、そう思ってしまうほどの迫力があった。


「ぬぅん!!」


 気合の篭った声とは裏腹に滑らかにゆっくりと抜かれた刀身は液体が流れるように淀みなく横に一閃し、音もなく朽ち果てた。


「これが理還しの太刀よ」


 何が起こったのかいまいち分からない、そう思っていたのは一瞬だけだった。


「な、なんだこれ」


 将軍が刀を振った直線状の空間にヒビが入っていた、それ以外に表現のしようがない。そして鏡が割れるような音とともにそのヒビは修復された。


「落ちよ小鳥、鳴かずば翼を折られることも無かっただろうに。相手を見て鳴くべきであったな」


 遥か遠くにいた翼の聖人はその両翼を失い落下している。あのヒビの修復に巻き込まれたに違いない。


「すげえとかそういう次元じゃないだろもうこれ」














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