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構わないでください、頼みますから

「シラヌイさーん? なんでまた角が生えてきたんですかね」

「し、知りません。これは勝手に」


 折った瞬間にまたニョキって感じで角が生えてきやがった。折ったらイベント終了シラヌイ解放って感じだったはずだが何か間違ったか。


「ふんっ」

「ああっ、また!?」


 生えたての角は折りやすいな、まだ硬くなる前みただ。これならウエハースみたいな感覚でバッキリいけるぞ。


「また生えたか」

「あはは、なんででしょう」


 やることは一つ。


「ふんっ!!」

「待ってくださいまし!!」

「なんだ、角折らないとガキが消えないだろ」

「やはり御存知なのですね、でしたら手前の願いを聞いてはくれませぬか。見たところ高名な祓いの方なのでしょう?」

「聞くだけ聞いてみようじゃないか」


 シラヌイのお願いとかそんなのあったか? そんなのイベントない気がするんだが。


「実は手前はこの場所から出たくないのです、外の世界は恐ろしい。父や兄も恐ろしい、どうしてあのような戦狂いから手前のような軟弱が生まれたのか分かりませぬ。だのに皆からは期待を受ける、耐えられぬのです」


 え? どの口がそんなこと言うの、お前戦闘中ほぼほぼバーサーカーだけど? めっちゃ楽しそうに刀振ってたけど?


「そこで手前は考えました。そうだ病気になろうと。そして陰陽術をこっそり練習すること幾星霜、遂にこの身にガキを宿すことに成功したのです。そしてやっと一日中穏やかに寝ていられるようになったのです」

「ふーん」

「なぜ折ろうとするのです!? 同情してはいただけないのですか!?」

「そんなこと言ってもお前を放置してると死にそうだし。そんな身体でこれから生きていくのは難しいだろ」


 それに今を逃すといつここに来られるか分からないからお前を仲間にしておきたい。


「あ、これなら心配御無用。これこの通り」

「健康そうだな」


 青白かった顔に血が通って肉付きも普通になった。なに今の幻術なの?


「ガキに食わせてる分を戻せば良いので身体に支障はありませぬ」

「将軍はお前はもう限界だと」

「ああっ、手前の演技力が怖い。そこまで騙せてしまうとは、やはりサムライではなくゲイシャになるべきなのではないでしょうか」


 なるほど、2年の間になにがあるかは知らんが今の段階ではコイツはただの引きこもりだ。これを説得するのは骨が折れるぞ。ゲームだと角折ったら外の世界に連れてってくださいと言われるからそのまま連れ帰れるんだがな。


「ゲイシャになりたいのか?」

「叶わぬ夢で御座いますが、煌びやかな衣を纏い華やかな舞で敵を滅殺する様はまさしく戦乙女の憧れ」


 まずもってゲイシャっていう職はゲームにはなかったから分からんが絶対おかしい部分があった。煌びやかな衣は別に良い、華やかな舞もするだろう、でも滅殺ってなんだ?


「ゲイシャは、その、戦うのか?」

「もちろんで御座います。ゲイシャとはサムライの対にある存在。刀や弓などという野蛮なものは使わずに扇や鞠を用いて戦う戦場の花形なのですよ」


 それ対じゃなくて類似じゃないかな、確実に戦闘民族の考え方だよね。芸といえば武芸しかない考え方だぞ、芸能という概念は存在しないんだな。


「つまりサムライになるのが嫌だと?」

「その通りです、あんな野蛮なものになりたくありません。手前は母のようにゲイシャになりたいのです。しかしそれも叶わぬ夢、母からは才能がないと破門され他の師匠にも匙を投げられてしまいました。手前はゲイシャにはなれぬのです」


 だから病気になって引きこもったと、なるほど。それじゃあゲイシャになれることを匂わせてやれば良いのか、それか戦闘狂の血を目覚めさせるか。何にせよ一戦する必要がありそうだな。


「俺から説得できれば良いんだが、お前がどの程度できるのか見てみないとなんとも言えん。軽く立ち会って見てくれるか」

「本当ですか!? きっと外の人の言うことなら母も少しは耳を傾けてくれるかもしれません!! その申し出ありがたく受けせていただきます」


 すげえ食いつきだな、嫌がっていたとはいえシラヌイはサムライだ。手を抜ける訳もない。ティーアのスープは一瓶丸々飲み干さないといけないだろう。


「ぷはぁっ、良し。やるか」

「行きます」


 姿が消えた、訳ねえよな。なら視界の外にいるはずだ。真下か上か後ろか、サムライの動きとするならきっとそれは後ろだろう。あいつら後ろから斬り捨てるとか普通にやるし。


「当たりぃ!!」

「っ!?」


 まさか初見で見破られるとは思わないよな、ごめんな初見じゃないんだ。驚いてできた隙はもちろん突かせてもらう。


「ここだ!!」

「ぐっ!?」


 狙いバッチリ肋骨の間に貫手が刺さる。こんな芸当今までできなかったが金庫開けでなんとなく呪いの効果を把握したのがデカイな。


「かはっ!?」

「肺に入ったから息はしにくいよな、じゃあ追撃だ」


 狙いは顎先、かすめるように拳を使う。なんかで見たけどこれで脳震盪いけるんだろ確か。


「がぁあああああああ!!」

「気合で動くか、すごいな」


 ガタガタの動きだから当たりはしないと思うけど、一応距離を取っておくか。


「そこです」

「マジか」


 滑るように懐に入って来やがった、縮地とは違うスキルか? 重心が完全に後ろになってるから何もできねえぞこれ。


「はぁっ!!」


 まずいな、クリーンヒットだ。掌底が胸に入る。衝撃が胸を突き抜けて身体が吹っ飛ぶ。飛んだ先の襖を破壊して床に叩きつけられた。


「かはっ」


 やっぱ素人に毛が生えたレベルじゃサムライ見習いにもやられるか、もうちょいできると思ったんだけどな。


「痛え……」












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