この身は穢れゆえ
「其処元に頼みがあり申す」
「うん、それは分かってるけどなんで俺まで縛られてるの」
捕獲された俺と翼の聖人は武家屋敷に連れ込まれた。そこで一番偉いサムライの将軍に会っている状況だ、将軍は全身鎧を着こんでいる上に仮面まで着けてるから生身の部分が全く見えない。
「あいや失礼、なにぶん目が悪いものでな」
一瞬だけ将軍が動いた後に澄んだ音がした、金属がぶつかったような音だが一体なんの音だ?
「縄が、切れた」
「久方ぶりに抜いたが案外衰えぬものよな、其処元の腸を出さずに済んで良かった」
今の一瞬で刀を抜いて縄だけ切って納めたのか? 見えないどころか動作が終わってから音がしたような気さえしてるんだが、まさか音速を超えてるってわけじゃないだろ。そうだったら衝撃波で俺が死んでるはずだし。
「やはり見えぬ壁は邪魔よな、あれがなければもっと速く刀が振れるのだが」
空気の壁が邪魔になるレベルかよ、サムライに常識は通用しねえな。
「して本題に入ろうではないか。其処元に頼みたいのは」
「愛娘の呪いを解いてほしい、だろ?」
「なぜ知っている……?」
「いや、その、したり顔してすいませんでした、とりあえず刀しまってもらえませんか」
金属の冷たさはゾッとするな、しかもそれが首に当てられているとなれば尚更。うかつに喋ると首がいつのまにかコロッと落ちてもおかしくないぞ。
「これをしまうかどうかは、今からの其処元の話次第」
「えっと、実は呪いに詳しい事情がありまして。それで呪いの気配を察知したというわけですますはい!」
「真か」
「この牙にかけて」
ごめんなウンター、手頃なもんがなかったから勝手に牙にかけてとか言っちまった。まあでもあいつなら許してくれるだろ。
「良かろう」
「感知はできましたが直接見なければどのようなものかは分からないんだ。良ければ直接会わせてくれないか」
「今はどんな手段でも試さねばならぬゆえな、其処元の怪しさも飲み込もう。こっちだ」
立つとでかいな将軍、威圧感が倍増する。見た感じ金属の鎧なのに動いても全く音がしないとかどんな造りしてんだ、いや動きの技術なのかもしれない。
「ここだ、慣れぬものには少々煙たいかもしれんが我慢せよ」
「げほっげほっ! だい、げほっ、じょうぶだ」
「大丈夫には見えぬが」
異常な量の煙が部屋に充満してやがる、こんな中で過ごしてたら良くなるもんも良くならんわ。今回に限って言えばこれは正解だったけど。
「清浄な気を巡らせなければもう保たぬのだ、それももう限界に近い。あの子をシラヌイを救ってくれまいか」
「けほっ、診てみようじゃないか」
とは言うものの全然見えない、濃霧どころじゃない濃さだなこの煙。さて、ここで寝てる奴と会うのはもっと先になる予定だったが成り行きだ「RPGの中で一人だけ格ゲーしてる」「体力は見えてる数値の半分」「スーパーカミカゼアタックの使い手」「紙防御というより防御という概念がない」と呼ばれる仲間に会いに行こうじゃないか。
「ようやく見えたぞ、シラヌイ」
「あな……たは」
白い、という第一印象は美白という意味でなく蒼白だという意味だ。目を引くのはガリガリに痩せ細った身体でも白一色の死装束染みた着物でもなく頭に生えた一本の角。
「安心しろ、俺が助けてやる」
「にげて……ください、あなたまで、死んでしまう」
「いいや逃げないね、お前は生きるんだ」
死なせるわけねえだろ、貴重な戦力になるんだからな。助ける方法も知ってるし。まあそうじゃなくても確定で2年は生きますけどね設定的に。
「知ってるぜ、後ろから爪だろ」
とりあえず横っ飛びして避ける、攻撃自体は早くもない。今までみたいにデバフを積まなきゃ反応もできないような速さじゃない。素人が包丁振り回すくらいの速さだ。
「実際に見ると不気味極まりねえなお前」
「ヒュー、ヒュー」
風が管を通るような音をさせながら立っている異形はガキという名前だ。腹だけが出たガリガリの化け物で常に涎を撒き散らしている。ヨボヨボだが目だけが爛々と光ってるから余計キモい。
「でもお前の倒し方なら知ってるんだよ」
こいつは普通に殴り合っても勝てない、基本的に不死身だから。ジリ貧になる前にギミックに気付けるかどうかが勝負の決め手だがギミックをもう知ってるから別に問題はない。
「本体はこっちだもんな」
「な、なにを」
見るからに化け物な奴はフェイク、こっちでシラヌイに擬態してるのが本命のガキなんだなこれが。とりあえず素手で角折るか。
「ふんっ!」
「ああっ!?」
思ったより硬いな、折れる気配ない。どうしたもんかな。仕方ない。ドーピングすっか。
「小瓶に詰めたティーアのスープ持ってて良かったな」
一瞬だから一口でいい、それで能力は足りるはず。
「おらぁっ!!」
いい音と一緒に角が折れる、これでガキは消滅するはずだ。寄生しなきゃ生きられない奴だからな、今回は運がなかったと思っておとなしく死んでくれ。




