宝物庫の中に勝利はなく
「ジジイ、正座」
「へ? なんでじゃ」
「良いから、そして胸に手を当てて考えろ」
「なんじゃいきなり……」
俺は今結構怒ってる、なんでかって言うと。
「なんも入ってねえじゃねえか!!」
「そ、そんなことないじゃろ!? この宝物庫には金銀財宝・宝剣・機構鎧なんでもござれだったはずじゃ」
「じゃあ見て見ろよ!!」
空っぽの空間だけがそこには広がっていた、宝物なんてありゃしない。まじでもぬけの殻だぞ、なんか違和感を感じるって事もないから本気で何もなさそうだ。
「そ、そんな、サバトグランの、ワシの遺産が……」
「誰かに持って行かれたんじゃねえのか」
おうおう、ショックを受けて崩れ落ちちまったか。自分の遺産が根こそぎなくなったとなればそりゃショックも受けるわな。
「く、くくく、ははははははははははははは!!! 大成功じゃったようじゃ!! ワシの最高傑作である黄金の勝利は起動していた!! この戦い勝ったぞ!!」
いきなり大きい声出すなよ、びっくりしたじゃねえか。それにビクトリアの起動? ここにそのビクトリアとやらがしまわれていたって事で良いのか。
「さあ探せ。この世に生まれ落ちた最強の兵器があれば神などただの塵芥に過ぎんぞ!!」
「あー、ちなみにその最強兵器って人型決戦兵器だったりするか。しかもそれって女型?」
「記憶で見たか、その通りじゃ。運命に干渉する能力を搭載した対神最強兵器じゃ」
「名前はビクトリア・サバトグランで良いのか」
「強いて人として名付けるとしたらそうなるかのう」
はーい、確定でーす。ほぼほぼ確定だとは思ってたけどビクトリア・サバトグランはそのままビクテロの名前の一つだからな。あいつが今どんなことになってるかを説明するしかないか、それだとショックを通り越して昇天しちまうんじゃないかこのジジイ。虎の子の兵器が敵方の幹部になってますだなんて言わない方が良いような気がする。まあ言うけど。
「ジジイ、心して聞け。俺はそのビクトリアともう会ってる」
「なに!! それではどうしてここに居ない!!」
「まあ落ち着けって、実はそいつ今はビクテロって名乗りながら聖人やってるんだ」
「なんだそういうことか」
あれ、なんかあっさりだな。もっとこうこの世の終わりみたいな顔をするもんだと思っていたが、むしろ想定内だとでも言うかのような感じがする。動揺なんて微塵もしてないぞ、リアクションを期待してたからなんか拍子抜けだ。
「もとよりあの子は聖人になりかけておったからの、それを利用して聖人の中に潜入して内部から食い荒らすのが主な用途の一つじゃ。あの子はきっとこう名乗ったはずじゃよ。裏切り者とな」
それが本当だとしたらビクテロは裏切ってなんかいなかったってことになる、俺が神と敵対すると分かって速攻で敵の懐に潜り込んだとでも言うのかよ。あのビクテロが?
「きっとあの子が入り込めているということは聖人の内部で既に内戦が起きていると考えてもいいじゃろうな。聖人の中にも目覚めてしまう者はいるということじゃな」
「聖人の内戦、そんなこと起こるのか? 聖人は基本的に神の言いなりだと思ってたんだが」
「ああ、そうか。まだ上位の聖人には会っていないんじゃな。七番目以降の聖人は確かに神の支配が強く自由意志はあまりないが、一から七までの聖人は違う。自由意志を持つことを許されておるのじゃ」
そうだったのか、ステフは確か三番だったからあんな風に振る舞えていたのか。ステフの場合は完全に神と袂を分かった感じだったが、そんなことして大丈夫だったのかあいつ。正面から殴り合うつもりの俺ほどではないにしろ刺客とか来るんじゃ……
「ちなみになんでビクテロのことをあの子って呼ぶんだ? 聞く限りだと兵器としての呼び方ではないと思うんだが」
「そりゃそうじゃ、あの子はビクトリアはワシの孫じゃもの」
「へぇー、孫だったのか」
「うむ」
「待って、孫を兵器に改造したの」
「そうなるのう」
「マジか」
「軽蔑するか? 人でなしと罵るか? あらゆる侮辱の全てを受け入れる覚悟など死ぬ前からできておる。じゃから好きに言うと良いそれでもワシは神から人を救いたかった。それだけの話じゃ」
そんな眼をして言う奴を詰れるかよ、悲壮な覚悟というか押し殺した悲しみというか。一つくらいなんか言ってやろうと思ったけどやめにした。
「それはビクテロ本人に言ってもらうことにする、だからまあ連れてくるまで待ってろよ。それまで勝手に成仏なんかするんじゃねえぞ」
「ほほ、死んでまで約束なぞするものではないがこれは素直にしておくべきかのう」
ここにビクテロを連れてくるっていう約束もしちまったな、これでまた一つ死ねなくなった。
「うん、それはそれとしてな。装備とかくれよ」
「なんじゃ締まらんのう、良い感じの場面だったじゃろ今」
「王やってたなら物資の補給と兵站の重要性は分かってんだろ、そんな大層なもんじゃなくてもいいから資源をくれ」
「仕方ないのう……」




