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血の中に溶け込む願い

「ぜぇ、ぜぇ、血が足りねえ」


 あいつら全力で血を持って行きやがって、首から血を抜かれないの以外はほとんどマジモンの吸血鬼だったぞ。なんであんなに楽しそうに人の血を扱えるんだよ、他人の血液なんて触れるのも躊躇するようなもんだろうが。あと、ユーイーの瀉血が得意ってガチだったわ。なにあれ麻酔魔法なの、痛みはないのにしっかり血を抜かれるの怖すぎない?


「災難じゃったの、ぷぷ」

「あー、無理だ。悪態付く元気もねえ」

「あそこまで血を抜かれるとはの、死にそうじゃからこれを飲むんじゃ」

「なにこれ?」

「増血剤じゃよ」

「なんでそんなもんあるんだよ」


 ここのオーバーテクノロジーはもうお腹いっぱいだぜ、今だってどこからともなく現れたロボットが薬を持ってきたしな。ジジイが思念で操るとかそういうことなのか、実は俺でも操れたりしないのか。そうなったら非常に楽になるんだが。


「妻の血が薄くてのう、よく倒れたんじゃよ。それで死にものぐるいで血を増やす薬を作ったんじゃ。懐かしいのう」

「そうかよ、のろけどーも」

「それも遙か昔の話じゃがのう」


 まあそれもそうか、みんなとっくに死んでるんだもんな。幽霊になってるんだったら会える気もするが、何か事情があるんだろうな。


「すごいよこれ!! レヒト君の血ってすっごい美味しいの!!」

「いきなり出てきて怖いこと言わないでくれる?」

「それにね、すっごい猛毒になるんだ」

「それ飲んだの!?」

「そのままだとそうでもないんだけど、毒魔法かけたら一気に変わったんだ」

「ねえ、ヒーラーだよね? 回復魔法より毒魔法のほうをメインにしようとしてない? むしろ回復魔法使ってるところ見たこと無いんだけど?」

「毒も薬も一緒だよ?」

「駄目だこりゃ」


 どこで道を間違えたんだろう。あ、俺のせいだったわ。


「見てくださいわたくしの騎士!! あなたの血は水と土に非常に強い親和性があるようです、それこそこの血を使えばわたくしでも大魔法を無詠唱で発動できるレベルですわ!!」

「へ、へえすごいじゃん俺の血」

「できればもう少し、いただきたいのですけど、じゅるっ」


 待ってください、いただきたいの意味がなんか変わってきてませんか? もらいたいじゃなくて、食べさせてくださいの方に聞こえたんだけど。


「ユーイー、もしかして定期的に瀉血してた?」

「ええまあ、それが何か? 嗜みですわ」


 絶対鉄分足りてないじゃん、それでお前も飲んだのか。つーかさっき涎が垂れそうになってたように見えたぞ。吸血鬼ってこうやって産まれるの?


「それはそれとして、俺はもう限界だから待ってくれ。これ以上血を抜かれたら俺死ぬから」

「あら、それは大変ですわ。認識の齟齬は正さないと」

 

 お、分かってくれるか。ユーホと違って聞き分けが良くて助かるぜ。


「人間の限界というのものを舐めてはいけませんわ、もっといけます」

「おおっと、思わぬ解答だな」


 殺す気なのか? やっぱりミイラなのか?


「ゴーン!!」

「ははっ、血を抜かれすぎて幻覚が見えるぜ。なんかデカいプラチナが見える」

「ゴン!」

「わたくしの騎士、幻覚じゃありませんわ。現実です」

「嘘だって言ってくれよ……」


 俺の血ってなんなんだよ、美味かったり毒だったりプラチナが巨大化したり。一体何の成分を含んだらこんなことになるんだよ。


「ああ、ついでにやった解析結果も出ましたわ」

「うん、そっちがメインだったはずだよね」


 ジジイの説明を受けて謎の装置に血をぶち込んでいたのは見たが、それで一体何が分かるかまでは知らされていないからな。きっと重大なことが分かるに違いない。


「結果から言いますと、分かりませんでした」

「解析結果出てねえじゃねえか」

「ええ、ですから。分からないということが分かったのです。つまりは既存の液体には当てはまらない希有な性質を持つと言って良いでしょうね。今までのわたくし、ティーアさん、プラチナさんの実験結果を鑑みるとなんとか性質は浮かび上がってきたように思いますわ」


 え? 魔法の触媒と美味しい毒物と巨大化で何が分かるんだろう、てんでバラバラで何も見えてこないんだけどな。


「ポイントはそれぞれわたくし達が望む結果が出たということ、ティーアさんは美味しい毒物を求めていましたし。わたくしはなにか魔法に使えるようであれば使おうと思っていました。プラチナさんは……大きくなりたかったんでしょうね」

「大きくなりたかった……?」

「きっとそうです、そのはずですわ」

「そ、そうなのか」


 大きくなりたいってなんだ、巨大化して大暴れしたいっていう本能なのか。もしかしてボスモンスター化したいっていう欲望でもあるのか。それだったらあんまり巨大化させない方がよさそうだ、ダッキになられても困る。


「ゴーン!!」

「待てプラチナ!! その図体ですり寄ってくるな、潰される!!」

「ゴン?」

「死ぬから!! ぷちっといっちゃうから!!」


 小首をかしげるのは可愛いけども、サイズがキツい。足先一つで俺の身体がバッキバキのボッキボキにされてしまうぞ。


「喜びのあまりはしゃいでしまいました。あてもここまで変わるとは思わなかったもので」

「プラチナ……?」

「はい、ご主人様の愛狐プラチナでございます」


 でかいな、色々と。身長もその他も。


「いかがなされました?」

「大きくなったな……」

「えへへ、可愛いですか?」

「あ、うん」

「コーン!! はっ……!?」


 ああ、嬉しいと素の鳴き声が出るのは変わらないんだ。なんか安心した。
























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