ああ神よ、その御心のままに
「こんなものか……」
視界が失われた、開いてるはずなのに全く見えやしねえ。こんな状態でどうやって冒険しろっていうんだよ。
「安心しろ、余は魔王であって鬼ではない。視界の代替はくれてやろう。お前に蹴り返したこの球に余の力を注いでやる」
いや、球に力を入れても別に視界返ってこないんですが? どういう意図だ、意味が分からねえ。
「さあ飲め」
「むぐっ!?」
押し込んできやがった!?
「んごっ、ぐごっ、ふぐっ!?」
「ふははははは!! 早く飲まねば窒息してしまうぞ」
この野郎……!!いつか絶対仕返ししてやるからな。
「ぶはぁっ!!」
「飲んだな?」
飲まされたんだよ、死ぬかと思ったぞ。
「見える? いや、感じる? なんだこれ?」
「先程の球は呪いを収集する力があったのでな、少しばかり調整して情報も一緒に収集するようにしたのだよ」
お前呪いのカスタマイズとかできんのかよ、その力ずるいな。
「それで俺の目が見えるようになったってわけか」
「まあそういう事だ、実際に見えているわけではないがな」
『真円』
ー 完全なる円、存在できない概念、幻想は結実し現実をあざ笑う。その中心にはあらゆるものが流れ着くという。ここに運び手は始まりの叛逆者によって中心となった、喝采せよここが新たなる世界の始まりである ー
【呪いの玉座・改】
ー 大いなる呪いは空の玉座となった、座るべきものを求め全ての呪いを蒐集する。始まりの叛逆者によって周囲の情報をも収集する性質を付加された。呪いとはあるべき形になれなかったものが縋り付く最後の縁である、空の玉座を埋める者はきっと全てを遍く拾い上げる者だろう。皮肉にもそれは怨敵のあり方に酷く似ている ー
【蠱毒】
ー 喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、喰らえ、その先に望みがあると信じて ー
【物質化】
ー 呪いに実体を持たせることができる、神に対抗するならば呪いを刃にする他ないだろう。相手は神だ、神の創造物では絶対に傷は付かない。ただし呪いの刃では神の創造物に傷をつけられない ー
「すげえ、こんなことになってるとは」
「最低限の力は与えた、精々楽しませてくれ」
その言葉を聞いた時にはすでに俺は祠の外に出ていた。
「ユーホ、ユーイー、無事か?」
「え、ええ。あなたは無事じゃないようですけど」
「いや、特に問題はない。やることが決まっただけだ」
やってやるよ、神の討伐。
「レヒト君!!」
「ご主人様!!」
プラチナとティーアが走ってくる、だが様子がおかしいな。何か焦ってるような。
「後ろを見て!!」
うしろ?
「罪人サー・レヒト。我が名の元に裁きを下そう。我が神名は重十字。十三聖人が番外である」
「ビクテロ……?」
なんだよその物言いは、それじゃあまるでお前が神の側の人間みたいじゃねえか。
「裁きの時は来たれり、今こそ聖十字と逆十字は一つになる」
「おい、何言ってんだよ!? 冗談キツイぞビクテロ!!」
「黙れ罪人、ビクテロなどという者はもういない。ここにいるのはただの一人の聖人である」
「うそ、だろ」
頭が追いつかない、ビクテロが、裏切り、神の手先に? 聖人? なんなんだ? なんなんだよ!?
「お前が俺を攻撃する時が来るなんて思ってもみなかった、それだけはないと思ってたんだ」
「出でよ重十字!!」
「ぐああああああああああああああ!!?」
いきなり磔にされた!? 腕と足に痛みがあるってことは本当に打ち付けられてやがる。
「さあ、懺悔せよ。全ては神の御心のままに」
「ビクテロ……お前は英雄だったんだ……結構ボロクソに心で言ってたこともあったけど……尊敬だけは本物だったんだぜ……?」
「滅せよ、罪人」
駄目だ、遊びがなさすぎる、まさかこんなすぐに殺しに来るなんて思ってなかった。それもビクテロが聖人とか誰が想像できたんだよ、なにもかも甘かった、なにもできないじゃねえか。
「生贄賛歌!!」
「え?」
それはビクテロの技だ、聖人の技なんかじゃない。落雷による俺へのダメージもない。
「サー、レヒト、逃げろ、どこまでも、オレは、自由に動けない、生贄賛歌を使えるのも、これが最後だ、オレは、お前を殺したくない。もうグレーゴリが動いてる、できるだけ遠くに行くんだ、聖人が、来る」
「ビクテロ……お前」
磔から解放される。でもこのままだとビクテロが。
「逃げますよ!! 早く掴まりなさい!!」
「でも」
「でもなんてありません!! 聖人が来ると言われたでしょう!! そちらの二人も来るなら来なさい!! 」
「うん、ご主人様についていくよ」
「私もレヒト君がいれば安心だから」
視界が切り替わる、ビクテロを置いて俺は逃げ出したんだ。
「くっそ……」




