あの……デバフを……デバフを……ください
「……木の棒便利だな」
なんか呪われてるせいか威力が高いような気もするし……それに投げても勝手に戻ってくるから投擲武器としても使える。
「あと犬に好かれるようになった……これは少し鬱陶しい」
速攻で懐かれてペロペロされる……まあ害になるわけでもないから良いけど……
「武器はまあ良いとして……やっぱりデバフがないとどうせ行き詰まるんだよな」
最終的には武器なんてなんでも良くなるし、俺にとってのバフであるデバフをかけてくれる存在が絶対に欲しい。
「で、そのデバフ候補が今どうなっているかと言うと」
「レヒトくーん!! お弁当作ってきたよ!!」
「うん……ありがとう。それで……そのごつい手甲は何?」
「え? レヒト君を守れるようになろうと思って」
「……そうか」
こんな感じである……メシのクオリティはぐんぐん上がっていきバフが発動する瀬戸際くらいまで来てしまった……そんなことになったら目も当てられない……どうやったらあのメシマズに戻ってくれるのか……それになんか戦闘訓練もしだした……こいつヒーラーなのに……
「せいっ!! はっ!! なかなか良くなってきたと思わない?」
「うん……すごく良くなった」
この世界ではある程度無意識で身体強化のバフを発動しているらしい……だからぶっちゃけステータス自体は高くても戦闘になったら俺は相当厳しいんじゃないかと改めて思ったところだ。だってティーアが練習で殴ってる岩……そろそろ球になるんだ……
「……メシも美味いなあ」
「当たり前だよ、レヒト君の為のご飯なんだもん」
これでバフが発動するようになったらこれは俺にとって毒にしかならん……そうなったら計画を破棄するしかない……割と本気で困ってる。どうやったら料理を下手にできるのだろう……しかも相当上達した人間をだ……かなりの難題だと思う……まずいぞ……このままだとティーアのヒモになる未来しか見えない……それは嫌だ……なけなしのプライドがそう叫んでいる……
「強くなりてえ……」
「レヒト君はもう強いと思うよ? 命がけで魔物に立ち向かうなんて誰にでもできることじゃないし」
「それは……なんというか……」
いやだってあれは回避不可能のイベントみたいなものでな、戦った相手も魔物ってか犬だし。変な存在だったらしいけど……戦ってるときはまじでほぼ大型犬だったからな? 魔物というほどやべえ感じはしなかったぞ?
「俺の身体のことは知ってるんだよな?」
「うん、神様からの加護を受け入れないんでしょ?」
「まあ、そういうことだ。これから戦っていくためにはその加護と同等もしくはそれ以上のものを身につけなきゃならない……」
文字通り呪いを身に憑けるかティーアの料理を携帯するのかっていう二択なんだけど……ぶっちゃけ一択になりつつあるんだよな。
「……かっこいい」
「かっこよくなんてねえよ……あるものでなんとかしようとしてるだけだ」
「私だったらもう諦めて職人にでもなろうとしてるところだよ」
「職人?」
「うん、村のお仕事の1つだよ?」
……待てよ? 生産職? 主人公の職が固定されてたゲームの時とは違っているんなら俺でも生産系の行動をできるってことか?
「ティーア……お前は女神か……」
「ふえっ!?」
ティーアがメシマズじゃなくなったのなら俺が自分で作れば良いだけの話だったんだ……そうすればなんの問題もないじゃないか……!!
「ふははははは!!! やるぞやるぞやるぞおおおおおおおおおお!!!」
「あっ! 待ってよレヒトくーん!!」
俺は家に直行して料理という名前の毒物の生産を始めた……できるだけマズくできるだけ毒性が高くなるように。最強のデバフ飯を作りあげてやるんだ!!
「できたっ!!」
「うわあ……レヒト君これは人が食べられるものじゃないよ……」
「良いんだ、俺しか食べないからな!!」
見ろよこの色、この匂い、刺激臭までするぜ……こんなもん食ったら絶対に半端ないデバフが付くに決まっている……ドーピングポイズンフードだぜ……ふふふふふ……
「では……いただきます!」
「止めた方が良いと思うなあ……」
これは……!!
「うえええええええ……」
「……止めた方がいいって言ったよね?」
「く、くえたもんじゃねえ。なんだこれは……作った奴誰だよ……ぶん殴ってやる……」
俺だったわ……口に入れるだけで死にかけるとは……これはもうただの毒物だな……身体の中に入れてないから毒にはなってないけど……確実に死ぬと思うわ……デバフかかるけど美味かったティーアのメシってすごかったんだな……マジで脱帽……
「材料は悪くないのになんで適当にやっちゃうの……これを使って美味しいもの作れるのに……」
「は? 今なんて?」
「だから私なら同じ材料で美味しいもの作れるってば」
「マジで?」
「なんで嘘つく必要あるの?」
おいおい嘘だろ……俺が使ったものは全部毒性だぞ……それで美味いもんつくれるわけないだろう……そんなことができるとしたらそれはものすごいアドバンテージになるのでは?
「でも……美味しいけど……ちょっとおかしくなるかもしれない」
「おかしくなる?」
「うん……力が入りにくくなったり疲れやすくなったりするかも……」
「それだ!!」
「うわっ!? びっくりした……なんでいきなり大声出すの」
「是非とも……是非とも作っていただきたい……!!」
「レヒト君が良いなら……」
力が入りにくくなる……疲れやすくなる……それはまさしくデバフ……!! なんだティーアお前……不安にさせんじゃねえよ……デバフ飯作れんじゃねえか……!!
「はいどうぞ」
「……おお」
見た目は普通にメシにしか見えねえ……でも俺のセンサーが反応してるぜ……これはまごう事なきデバフ飯だと……だって材料アレだしな……
「うめえ……うめえよ……こんなうめえもん今まで食べたことねえよ……」
「ちょっ!? 大げさだなあ……身体は大丈夫?」
「ああ……むしろ力が……」
入らねえな……あれ? おかしくね? デバフ飯だよなこれ? 確認しちゃうぞ?
『恋人未満の愛の料理』
― 特別な関係になる前の者が作った料理。隠し味は自覚なしの愛情 ―
「……」
「どうしたの?」
【小匙いっぱいの愛】【小程度までのマイナス効果をプラス効果に変える】
「ガッデム!!」
「ええ!? 美味しいって……!?」
「違う……ティーアは悪くない……俺が悪いんだ……!!」
お、の、れ、嫌がらせかのように……だがくじけえねえぞ……俺は……絶対にやってやる……絶対にだ……!!