主人公は修行中
「というわけで預言者だったウンターと決着つけて色々してここに戻ってきたんだ」
言えることだけ繋げて説明したが大丈夫か……? 変に突っ込まれるとボロが出かねないが……
「うっ……ぐすっ……たいへんだったねえ……つらかったねえ……ひっく」
「いやティーアが泣くことじゃない……それに悪いことばかりじゃなかったんだ」
「それでも悲しいよお……」
まさか泣かれるとは……怒りはどこかにいってしまったようだから目的は達成した。
「ニケは大丈夫か? あいつ変なこと口走ってたからな……」
「あ……ニケちゃんはその……実際に見たほうが早いと思うから来て」
え? 何? まさか死んだとか言わないよな……主人公が死んだら世界は誰が救うんだよ!?
「……あれがニケ?」
「そう、すっかり変わっちゃたんだ」
ボロボロの格好にボサボサの髪、それなのに目だけは爛々と輝いているという感じだ。まるでずっと武者修行していたようなそんな印象を受ける。
「あー、辻褄ってこういう風に合うんだな」
「辻褄?」
「ん? なんでもない独り言だよ」
本来なら村を蹂躙された事で主人公は戦う力を欲する流れだった。それがなくなったからどうなることかと思ってたらまさかもう修行モードだったとは。
「おーい!! 久しぶりだなー!!」
「駄目だよレヒト君……ニケちゃんは誰とも話さなくなっちゃったんだ。聞こえてるはずだけど反応しないんだよ」
「そんな感じのこともあったか」
目的以外のことには目もくれないってことね……それじゃあ一回主人公を叩き起こすとしますかね。というか今の状態だとコミュニケーション取れなさ過ぎてちょっとやりにくいわ。
「ずっと剣を振ってるんだ、それが痛々しくて……」
「じゃあ剣を取り上げたらいいかな」
「え?」
たぶん剣を取り上げようとしたら普通に襲ってくる、けどまあなんとかなる気はしてるんだなこれが。幸いデバフ飯の効果はまだ続いてる。
「それじゃ、やりますか」
「っ!?」
近づいて剣を触った。
「ああああああああ!!!!」
「知ってる」
すぐさま袈裟斬りが飛んで来たので避ける。
「次は逆、そっから叩きつけだろ?」
「っ!?」
来る場所が分かってれば自分より早い相手の攻撃でも避けられる。
「お前の動き方は知ってる、当たらないから武器を渡せよ」
「ああああああああああ!!!」
モーションの数はそりゃ多かったけど今の段階で使えるコンボなんてたかが知れてるからな。何をしてくるかを読むのは簡単だ。
「うがああああああああ!!」
「っ!? あっぶね!?」
とは言うものの、やっぱり知らない動きも混ざるよな……そんな低空の攻撃知らねえんだけど……避けたけどさ。
「ニケ!! 聞こえるか!! 一人じゃ無理だ!! 一人でできることになんてたかが知れてる!!」
「うるさいうるさいうるさい!! じゃまするなあ!!」
お、バーストモードはもう使えるんだな。能力の向上と必殺技を撃てるっていう状態だけどまだ必殺技覚えてないだろ。
「でもさすがにこれ以上は厳しいな、だからちょっと小細工するぞ」
「うがあああああああ!!!」
「ほいっと」
懐から毒毛糸玉を取り出してゆるく投げる。
「当然切りにくるな、でもそれは駄目だ」
スキルとしてというかテクニックとして魔法とか飛来物を切るっていうのはあるんだけどな……それを毒物に対してやったら駄目でしょうよ。
「うっ!?」
それにその毛糸馬鹿みたいに強靭だからな、切れずにたわませてしまって解けたのに絡まるのがオチだ。
「うぐぐ……!?」
「辛いだろうな、でもまあ死なないから安心しろ。ティーアが治してくれる」
ティーアはヒーラーだ、解毒魔法覚えてるから無問題!!
「え? そんなことできないよ?」
「え? なんで?」
「習ってもいない魔法は使えないよ?」
嘘だろ!? 解毒はヒーラーの初期スキル……あ
「……2年前だったね」
となると対応策は一つだな。
「プラチナ!!」
「コーン!!」
よしよし、意図を察してか急いで来たからかは分からないが狐の姿で来たな。
「ちょっとだけ毛をもらえるか?」
「コン!!」
数本あれば十分だ。
「モンスター……!!」
「まだ動くか!?」
ニケの剣がプラチナに向かって一直線に突き出される。
「へげっ!?」
「コーン!!」
「あーあ、オリハル狐に突きなんてしたらしたらこうなるに決まってるのに」
最強の防御力を持つオリハル狐に突きをしたら全く刺さらずに跳ね返されて柄が腹にめり込んで気絶したな。
「はい終わりー、プラチナお疲れ様」
「コンコーン!!」
全く、こんな愛らしい生き物を刺そうとするとはそれでも主人公か? まあプレイしてた時は倒してたけどさ。
「あとは毛を飲ませて無理やり解毒、起きたらみっちり説教だな」




