人攫いへ鉄槌を
「僕は何も見なかった……良いな? それが分かったらさっさと僕の視界から消えてくれ……おかしくなりそうだ……」
開口一番そんなことを言われてしまったら流石に滞在するわけにもいかねえか。
「って事でビクテロの居る方に行きます」
「おー!!」
「そして問題があります」
「おー?」
「ビクテロの居る方角がどう見ても街じゃありません」
「あての記憶だと街にいるって言ってたけど?」
「俺の記憶でもそうだ、でも確実に方向が違う。それならモンスターの討伐でもやってるのかと思ったらそれも違うみたいだ」
「なんで分かるの?」
「あいつの戦闘スタイルは不幸体質全開の天変地異だからめちゃくちゃ目立つだろ? 戦闘してれば確実に分かる」
「移動してるだけかもしれないよ?」
「あいつが乗ってる馬はシルバータンカーだ、あれも相当うるさいがこっちは音が根拠じゃない。俺のテイムしたUMAの居場所は分かるようになってる」
シルバータンカーの場所はなんとなく感じ取れる、本当ならマップに表示されるんだがマップ機能さすがにないようだ。
「あいつは村にいる、そんでビクテロだけがこれだけ離れる理由はない。つまりこれが意味することは……」
「はいっ!!」
「はいプラチナさん、答えは?」
「そういう気分だったから!!」
「違います!! 正解は……攫われたんだよ」
不定期で起こるイベントの1つだな、NPCが盗賊かなんかに捕まってそれを助けに行くっていうイベント。無事に取り返せれば報酬と盗賊が溜め込んだお宝がゲットできるって寸法よ。
「しかしビクテロを攫うとは……見る目があるんだかないんだか」
「助けに行くの?」
「もちろん、あいつは俺の大事な仲間だからな」
「むぅ……胸あたりがムカムカする」
え? やだこの子嫉妬してる?
「プラチナは大事な俺の狐だぞ〜!!」
「こんこん!! それなら良いの!!」
こんな可愛い生き物が一歩間違えると凶悪になるんだからこの世界はすげえなあ。
「さっさとシルバータンカー拾ってビクテロ回収に行くぞ!! 軍資金はもらったから武器も買って行こうか」
「いえーい!! おかいものー!!」
貰った金は有効に使わないとな。
「んで、ボウガンを買ったわけだが」
「すごい細かい部品だね!!」
「重大な欠陥が見つかりました」
「え? なんだろう?」
「実は普通の矢が毒に耐えられません、溶けます」
「えー!? それじゃあ使えないの!?」
「そこで俺のプラチナにお願いがあります」
「なになに?」
「髪の毛ちょっとちょうだい」
「良いよ!!」
自分の爪なら簡単に切れるんだなその髪……同じもの同士でぶつけ合うとダメージが通るみたいな事があるのか……?
「ありがとうプラチナ」
「どーいたしまして!」
「そしてこれを普通の矢にちょちょっと埋め込みます。思った通り溶けません」
「えー!! すごーい!!」
「すごいのはプラチナの髪だからね、石が毒とか無かったことにするって言ってたのを思い出してな、それを使えば溶けない矢ができると思ったんだ」
「あったまいい!! 流石ご主人様!!」
「ははは!! 褒めても何も出ないぞう!!」
『オリハルコンアロー』
ー かつて太陽を落とした矢があった。試すのも悪くないだろう ー
「いやいや……マジですげえよこれ」
「どうしたのご主人様?」
「なんでもない、プラチナはすごいなって」
「えっへん!!」
「それじゃあ溶けない矢もできたところで行きますか!!」
「おー!!」
居場所は分かるらしいからな、見つけて盗賊殴って終わりだ。
「と、思っていたらこれだよ」
ビクテロの居場所を教える石の導きのままに進むと案の定坑道の跡みたいなところに入り込んだ。ここは……昔宝石が取れたんだったか。
「ちょっと多くねえか?」
「すんすん、五十人くらいだよ」
「分かるのか? すごいな」
五十人規模の盗賊団なんて見たことないぞ、三つくらいの盗賊団が合体でもしない限りはこんな人数にはならないはずだけどな……
「っ!? 嘘だろ!?」
「どうしたの?」
「盗賊王ステフかよ……!?」
「すてふ?」
盗賊王は盗賊をまとめ上げた伝説の男……ストーリー上では肖像画と名前しか分からないがその功績だけは各地の盗賊の手記から知ることができる奴だ。
「なんでこんなところに……消えた!?」
「なあ……盗み見はよくねえよな?」
「貴様!! ご主人様に刃を!!」
「寝てろ」
「きゃんっ!?」
背後から声、低く落ち着いた男の声、思い当たるのは一人しかいねえ。
「お見通しですか……王よ」
「は、俺を王と呼ぶか。それならお前は俺の臣下か?」
「いいえ違います」
「じゃあ敵だな、死ね」
「情報があります!! 有益だと約束しましょう」
「……保証は?」
「あなたの名にかけて、ステフ・グラダ様」
「俺の名を知るか……最低限の情報量はありそうだな……」
っぶねえ……死ぬとこだった……情報の価値を知る奴で助かった……
「対価はなんだ、情報の対価は先に渡す主義でな。その代わり偽りの代償は分かるな?」
「この命ですね、存じています」
「さあ、お前は何を望む」
「攫われたある人物の解放を」
「あ? 人攫い? そんなの誰がやったんだ?」
「この石の持ち主がここに攫われてきたはずですが……」
「……待ってろ、石は少し借りる」
また消えた……速えな……ウンターみたいだ……
「この中に掟を破った奴がいる!! 潔く出てこい!!」
うわ、なんかステフめっちゃキレてる……なんで?
「出てこねえか……それじゃあ仕方ねえな」
また消えた!?
「こいつをここまで攫ってきたのは誰だって言ってんだよ!! 敵以外の殺し、人攫い、火付けは厳禁だって言ったよなあ!! 」
ビクテロだ、やっぱりここに攫われて来てたのか。良かった……特に何かされたわけじゃないみたいだ……
「良いか!! 俺たちはクズだ!! 寄生虫みてえなことして生きてるんだよ!! だから最低限の矜持だけは捨てるなって言ったはずだ!! なあバルダ……そう言ったよなあ?」
「ひっ!? お、俺じゃねえです!?」
「うるせえもう分かってんだよ、矜持のねえ盗賊はただのゴミだ、生きてる価値はねえ」
「かひゅっ!? ぞ、ぞんなあ……!?」
ナイフ!? 投げたところ見えなかったぞ!? 一撃で急所を……恐ろしい腕だな……
「悪かったな坊主……これは俺のせいだ。情報はいらねえ、こいつも返してやる」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあな、二度と会わねえことを祈ってるぜ」
その言葉の後に坑道を破壊しながら何かが現れた。
「ギュオオオオオオオ!!!」
「なんだありゃあ!? お前ら逃げろ!! あれは俺がやる!!」
その姿に俺は見覚えがあった、文献のみに姿が残る宝石の守り主だった……その名を
「グレンデル……」
全身筋肉の塊で覆われた竜、飛べず、ブレスも吐けず、されど災厄にも例えられる豪腕を持ったその化け物は確かにここに存在していた。
「設定上にだけしかいなかったのに……!?」
「上等だぜ化け物……細切れにしてやらあ!!」




