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球転がしの時間

「ふはははははは!! 潰れろ潰れろ!!! そして俺の糧になれ!! そしてその球に呪いをかけろ!! あーっはっはっはっはっはっは!!!」

「お前……玉転がしてるだけなのになんでそんなにハイになれるんだ?」

「今やってることが全部俺の糧になると思ったら笑いが止まらねえ!!」


 なんて楽しい害虫駆除、やり方は簡単。洞窟状になってる虫どもの巣に目掛けて比較的安定している鉄球状態の球を転がして入れるだけ。あとは重さとスピードで虫を潰していくって寸法よ。アレだな、ボウリングに近いなピンは紫色の子犬サイズの蚕だけど。


「まったく……僕が地面を操作して球を回収しなきゃ成立しないんだから感謝しろよ……」

「プラチナを定期的に見たいんだったら協力しろ、それに球も持っていくんだからWin-Winだろうが」

「うぃんうぃん? なんだそれは」

「双方得だってことだよ」

「なるほど……ウィンウィンか……良い言葉だな」


 しかしみるみるうちに球が虫の体液で染まっていくな、血塗れみたいなものだからそろそろ呪われても良いと思うが……ぱっと見じゃ分からないな。


「なあフラメル、これ呪われてると思うか?」

「知らん、装備してみたら分かるんじゃないか」

「このドロドロの球を触る気になるか?」

「ならないな」

「そうだよな、もう少し潰して目に見える変化があるまで待つ」

「そうか……まあこの感じならそれほど時間はかからないだろうな」

「だと良いが……」


 そういや虫系のモンスターってだいたいマザー級の個体がいたりキング級の個体がいたりするものだけど、この蚕にはいないんだったかな?


「なあフラメル、マザーとかキングとか付く虫ってこの巣にはいないのか」

「何を言っている、居るに決まっているだろう。マザー級の個体は滅多に出てこないが……ここまでの虐殺をすれば何か動きがあってもおかしくはないな」

「マザー級のポイズンシルキー……それってどんなの?」

「どんなと言われると非常に心苦しいが他の個体よりも多少大きいくらいだということしか分かっていない、オリハル狐ほどではないが希少種の一種だ」

「んー……それじゃあ今巣穴を破壊しながら出てきたデカい蚕はなんなんだ」

「ああ……あれは突然変異のエンペラー級だな。すごいぞ……もしかしたら歴史上で最初の発見かもしれない……!!」

「感動してるところ悪いが……あれに勝てると思うか?」

「ん? 無理だろうな。エンペラー級は個人の武力でどうにかする相手じゃない。それこそ軍隊の出番だな」


 まあプレイヤーキャラなら倒せるんだけどな……でもまだそこまでの力は俺にはない……てことは取り得る手段は一つ。


「逃げるぞ!!」

「そうだな、それが賢明だ」


 一目散に逃げるしかねえ!! 三十六計逃げるにしかず!!


「キシャアアアアアアアア!!!」

「あ……」

「素晴らしい量の糸だな」


 退路が糸で塞がれた!? 


「フラメル!! 今すぐ燃やせこの糸!!」

「無理だな、毒を含んだ糸を燃やせば僕が死ぬ」

「くぅ……解毒薬とか飲め!!」

「個体ごとに毒が違うと言っただろう、エンペラー級ともなれば致死性の毒の可能性も十分あるうえに情報がなさ過ぎてどうにもできん」


「キシャアアア……!!」


 うわあ……やっべ、近づいてくるわ……


「シャアアアアア!!」

「うおっ!? 糸が巻き付いてきた!?」

「僕には見向きもしないな、よっぽど恨みを買ったらしい。安心しろ、オリハル狐は僕が責任を持って飼育しようじゃないか」

「てめえ!! 死ぬこと前提みたいに話すんじゃねえ!!」

「いや流石に無理だろう、お前にどんなインチキ染みた力があったとしてもエンペラー級に捕まった状態からではどうにもできない」

「クソが!? うごっもごうごうが!?」


 糸で口塞がれた!? 窒息する!?


「さらばだ、得がたい出会いではあったが別れもまた唐突だったな」


 もうちょっと助けようとあがけよ!!? そういう割り切りの良さは良くないと思うな!!?


「うごごごごうががが!!?」

「今ばかりは我が身の非力を嘆こう、僕ではどうすることもできない」

「むごむがむご!!?」


 まずい……意識が遠くなってきた……耳元でカチカチ音がなってやがる……食われるのか……こんな虫に……? ウンターならまだしも……こんな奴に……!?


「コン!!」


 ああ……プラチナ……ごめんな……俺はもう駄目みたいだ……せっかく……ダッキになる以外の道があるかもしれなかったのに……


『こんなところで死なれては我の立つ瀬がないではないか』


 ははっ……幻聴まで聞こえてきやがった……あいつはもういないってのに……


『見ろ、かのお方もお怒りだ。良かったなレヒト、お前は偉大なる方の寵愛を受けている』


 なんだよ偉大なる方の寵愛って……俺は最初から神の加護からは見放されてるっての……お前も冗談を言うんだなあ……


「あてのご主人様をいつまで縛ってるつもりなの?」


 は? 


「罰として鉱石の槍で串刺しにするね?」

「キシャアアアアアア!?」


 は?


「全く……大人しくご主人様の糧になれば良いものを……ああそうだ……確かこの球でトドメを刺せばいいんだったかな? えい!」

「キッ……シュ……!?」


 はあ!?


「ごめんねご主人様、あては狐だけど狐火は使えないの……だからこの糸は手で剥がすしかなくて……あれ? 案外脆いね」

「……誰?」

「あてはご主人様の愛狐のプラチナですよ?」


 待って、理解が追いつかない。


「この姿で会うのは初めてなので改めて……不束者ですがよろしくお願いいたしますねご主人様」


 白金色の狐の幼女なんて聞いてないんですけど……!? どうなってんのこれ……!?











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