特待生の肩書き
「というわけでこれにお前の名を書け」
「どういうわけだ?」
なんかいきなり紙渡された……なんだこれ……魔術師に渡される紙とか……そんなのもう契約書でしかないから絶対に軽率に名前書いちゃ駄目なやつ……
「これはお前の入学届だ」
「は? なんで?」
「オリハル狐の研究に思った以上に時間がかかりそうだからお前を手元に置いておこうと思ってな」
「はいと言うと思ってる?」
「思ってるが、書かないのか」
「書かないだろ……なんで俺がこの悪鬼蠢く場所で勉強なんかせにゃならんのだ」
「お前に特待生の肩書きをやろう」
「いらん」
「なぜだ!? 音に聞こえしマクスウェルの学び舎だぞ!?」
「知らねえもんマクスウェルなんて」
「はぁ!?」
待てよ……俺の知らない部分の知識を補完するのにはちょうど良いかもしれないぞ? それに二年間の猶予……いややっぱ駄目だよ!? 今しかできないと思われる介入が山ほどあるぞ!!
「うん、やっぱ駄目だわ。ここには居られないからさっさと帰らせてくれ」
「ぐぬぬ……入学金も授業料も免除だぞ……」
「いや要らんて、俺にはやらないといけないことが山ほどあるんだ。しかも時間制限がある」
「そのやらなければならないことはなんだ……僕が手伝ってやろう……」
「人助け……かな」
「聖人にでもなる気か」
「そんなつもりはない、今なら俺が助けられる奴がいるってだけの話なんだ」
「お前……そんなこと言うから預言者扱いされるんだからな」
「いやいや預言者はこんなもんじゃなかった」
聖人って……そういやグレーゴリ教国ってどうなってんだ……聖人の管理してんのあっちだろ……あっちと関わり合いになると何かと面倒だぞ……
「まあ何にせよだ……俺はここには留まれない」
「……じゃあ遊学生徒ってことにするがどうだ」
「なんだそれ……」
「遊学生徒っていうのは席を置いてはいるが定期的な出席のみが義務になっている生徒だ……よっぽどの特例じゃない限り許されないが……」
「その制度なんの為にあるんだよ……」
「学者になる気はないが学術的に貴重な能力、もしくは物を持っているやつを長期的に観察するためのものだ……ここ百年ほど使われていない制度だがお前には使えるだろう」
「で、それは俺になんの得がある?」
「金が出る」
「よーし乗った!!」
「現金なやつだ……」
金があれば何とかなることってのは予想以上に多いもんだ、そのせいで危険になることもあるが金はあるほうが円滑に話が進む筈だからな。
「はぁ……じゃあこっちだ」
「随分古びた紙だな」
「百年以上の紙だからな」
さて、どんな風に書いたら良いか……ただレヒトと書けば良いのか?
「普通に書くか、レヒト……っと」
「かかったな!! これはお前の通常の入学届だ!!」
「はぁ……お前はそういうことするもんなあ」
「なっ!? 書いてないだと!?」
俺は羽ペンじゃなくて牙で紙をなぞっていただけだ、どうせお前のことだから一回くらいは罠にかけてくると思っていたさ。
「じゃあ騙されたんでこの話はなかったことに」
「待て待て待て!! 僕が悪かった!! こっちが本物だ!!」
「それを信じる理由がどこにある?」
「ええいこれで良いか!?」
紙に血をふりかけた? なんの意味がある?
「これで僕がこの契約に責任を持つことになる、しかも僕だけの血しかかかっていないからお前にその咎は及ばない」
「本当に?」
「本当だ!! 信用しろ!!」
「……月桂樹の冠にかけて誓うか?」
「くっ……お前……どれだけ……!!」
シーザー派のこいつにとって月桂冠はただのシンボルじゃない、重要な意味を持つとかなんとかだったかなー? 反応を見る限りだと合ってるっぽいけど。
「分かったよ……これが本物だ」
「お前……二段構えとか……本当にお前……頭大丈夫かよ……信用される気ある?」
「うるさい……シーザー派では契約の二段構えは基本だ……」
シーザー派どうなってんだよ……それともそんな風にしてパラケルススの実権握ったのか? 詐欺師の集団なの?
「しかし月桂冠を引き合いに出されては……それもここまでだ」
「うわぁ……引くわ……」
「コン……」
「見ろよ……プラチナもドン引きだぞ」
「ふ……負けたよ」
ええ……本当にこれで良いのか? マジで? もう何も信用できないんだけど……
「はいはい、書きますよ」
「うむ……これでお前は遊学生徒の肩書きを得たわけだ……」
ああ、流石にこれは本物なんだ。
「あとは遊学生徒という肩書きを学長に認めさせるだけだ」
「うぉい!!? そこから嘘なのかよ!?」
「ふふ……百年も前の特待生制度など存在していたとしても今の学長が知らなければないのと一緒だ……はは……シーザー派としての腕が問われるな……」
うわあ……シーザー派怖いわぁ……




