おめでとう、この装備は呪われているぞ
「あはははははは!!」
思った通りだった!! 呪い!! 忌子!! 大歓迎じゃないか!!
「すげえぞ……こんなのもう……最高だよ」
最初の村のはずれにある小さな祠、そこには魔物が封じられている。クリア後の裏ボス的な立ち位置のこいつは「拳王」「今までのゲームプレイを無にする」「ステゴロしか許さないバランスブレイカー」とか言われる奴だった。
「流石に先代魔王ナックルは蘇らないみたいだけど……ここに来ただけで呪いをかけられるとは……さすがだぜ」
で、本題は呪いの方だ。呪い自体は状態異常だから防げない、毒だって普通にくらったしな。でもな、呪いの効果自体はデバフなんだよな。つまりこうなる。
【先代魔王の呪い(極小)】【全ステータス永続ダウン(反転)】
「流石は忌子!! 呪いは俺の力になるってわけだ!!」
でも問題がある。
「村とか街って入り口で状態異常解除されるんだよな……」
そう、基本的に呪いは持ち越せない。永続って書いてあるのは浄化されて呪いが消えるか戦闘が終わって街に入るまでって意味なんだ。
「さて、どうしたものかな……毎日呪われるのは難しいし……」
なんか手軽に呪われる方法ないか? 例えばそう……竜の冒険の呪われた装備みたいな……
「ああ、そっか」
俺の持ち物を呪ってもらえば良いのか、そうすれば街で解除されることもないし。うん、そうしよう。
「で、どうするか。一日くらい祠に置いておけば呪われたりしないだろうか」
とりあえずハンカチあたりを置いてみよう、そうすれば結果は分かる筈だ。
「楽しみになってきたぞ……光が見えてきた!!」
呪いで見える光もあるんだな……でもなんか忘れてるような……
「そんなところで何やってるの?」
「ああ、ちょっと実験を……」
待て、誰だ? 立ち入り禁止の祠に行ったのがバレたら大目玉だ。たぶん二度と近づかせてもらえなくなる。口止めしないと。
「あの!! このことはどうか秘密に!!」
「レヒト君の言うことなら守るよ?」
「え? ティーア?」
なんでこんなところに?
「レヒト君の匂いがしたから来ちゃった」
「に、匂いって…俺そんなに臭うの?」
「んーん、良い匂いだよ」
やっべえ、ヤンデレ特有の嗅覚まで備えてやがる。おそらく他の女の匂いも嗅ぎ分けるだろうな。着々と進行してるじゃねえか……止めないと……仕方ねえ他の人間にも興味を持たせるか。
「あ、そうそう。ニケが用があるって言ってたぞ」
「ニケ君が? 私に? なんで?」
なんでって……特に意味はねえよ。主人公の家の子供だからきっと良い奴だろうと思って無理やり紹介してるだけだし。
「そこまでは分からない、でもなんか急ぎの用らしいぞ?」
「そう……じゃあ行ってくるね?」
ようし……これで俺以外の奴との関係も作ればヤンデレ化も阻止できるだろう……たぶん……きっと……そうなったら良いなあ……
「そんで、ハンカチを取りにきたわけだけど」
一日おいた結果俺のハンカチがどうなったかっていうと……
「いやっふう!! 見事に呪われてるぜ!! 見ろよこの赤黒い染み、そして漂う不吉な雰囲気!! これを呪われていると言わずになんと言うのかって感じだぜ!!」
いやもうこれ見よがしって感じ、呪われたなあ。いやー結構呪いもちょろいんだな。
「それで、これを身に着けると……」
【先代魔王の呪い(超極小)】【全ステータス永続ダウン1(反転)】
「よっわ……!! ものすげえ劣化してるじゃん……呪いそんなにちょろくなかった……ええ……1ってどうなの……全ステ1上がったところで雀の涙よ……でも良いか。呪いの装備を作れるってことは実証されたわけだし……」
そうだ、一足飛びに強くなれるわけないじゃないか……地道に積み重ねるんだよ……なんでもな……一歩ずつだ……
「というわけで……これからはまたティーアの魔改造計画に戻る訳だけど……どうすっかなあ……このままだとティーア以外の仲間を作れなくなりそうだし……いい感じにならないもんか……ニケがどうにかしてくれねえかなあ……」
まあ、まともに話したことないんですけどね。
「んん? なんだあれ?」
野犬みたいなのと誰かが戦ってる、俺と同じくらいってことは結構危ない気がするな。村からも結構離れてるし……
「今なら呪いブーストされてるからいけるか? でもなぁ……極小と1ポイントアップで強くなったとは言いにくいんだよなあ……」
ぶっちゃけ誤差の範囲だから、俺も危ない。
「助けて!!」
ありゃ、助けを求められてしまった。ここで見ぬふりをするのも駄目か……どうにかなることを願って……武器はまあその辺の棒で。
「ぐるる……!!」
「うわあ……野犬って言っても大型犬だなこれ……でけえ……」
なんかサイズ感おかしいと思ったんだよなあ……明らかにでかいじゃん……大型犬の野犬ってそれもう狼とかそういうやつだよな……こええ……
「……どうにもならんかもしれないから逃げてもらえる? そんで村から大人呼んできて」
「う、うん!!」
よく見たらこいつニケのところの弟じゃん、いずれ勇者メンバーになるんだから助けておいて良かったわ……ん? 待てよ?
「おいおい……死んだわ俺」
そういや主人公の弟助けて死んだ奴いたわ、たしか奇跡的に魔物と刺し違えて子供たちの英雄になってた奴……それ俺かあ……
「マジかよ……こんなところで死ねるか。俺はまだ冒険のぼの字もしてねえんだよ!!」
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
俺と犬の死闘が始まった。