運命を退ける素質
「考えろ考えろ……今の俺には何ができる……!?」
強化の手段はねえ、なら棒をぶん投げて倒すしかねえだろ!!
「うおらあああああああ!!!」
軌道は思いのままだ、狙いは足元!!
「お前みたいなデカブツは足元を崩されると弱いんだろ!!」
食いちぎれ!!
「は?」
風圧が俺の顔に直撃する、さっきまでゆっくりとしか動いていなかった巨人の足が高く上げられている?
「棒はどこだ!?」
流石に視界から外れるとどう操作して良いか分からねえぞ!?
「うおっ!?」
落ちてきた……蹴り上げられたのか? 足が動く瞬間なんて見えなかった……
「おいおい……その図体で動きが早いとか何考えてんだよ……!!」
見えない速さで動くとなるとそれはもう詰みのレベルが一段階上がったと思って良いな。でも待てよ? 蹴り上げられたってことは当たれば何かしらのダメージがあるってことじゃないか?
「ダメージが入るなら……倒せるか……」
地道に削るのも悪くねえ、問題がこいつのヘイトを俺に向け続けることができるかだ……なんのスキルも覚えてねえから挑発も誘導もできねえ。
「攻撃し続けるしかないか……」
ビクテロもジンも何も壊させねえぞ……やってやるよ耐久戦だ……!!
「やってやるよ!!」
え? 待て、なんで俺の目の前に斧が、あるんだ、さっきまで巨人は、あっちに、
「っ!?」
目を瞑ってしまった……駄目だ……死んだ……未熟すぎた……戦うべきじゃなかったか……きっと今の俺にコンティニューはねえ……くそが……!!
「……あれ? 」
いつまで経っても死は俺を引きずり込まない、恐る恐る目を開ける。
「……何やってんだよビクテロ!!」
「サー……レヒト……教えてくれた技だ……逆十字……良かった……守れて……早く逃げて……君は私の初めての……同士……バカにされ続けた私の……死んでほしくない……早く……逃げて……」
「馬鹿野郎!! お前が致命傷受けたら何の意味もねえんだよ!! 俺はお前と一緒に冒険するんだ!!」
「はは……嬉しいなあ……次起きたら……きっとそう……なると……いいなあ……」
斧を受け止めたビクテロの十字架が砕ける、崩れ落ちるビクテロの顔に生気はなかった。
「くそ!! くそおおおおおおおお!!!」
斧は再度俺の頭上に落ちてくる、分かってる。それでも俺は二度も命を救ってくれた英雄を置いて逃げることなどできなかった。
「ちくしょう……」
ビクテロの身体を引き寄せる。こいつこんなに華奢だったのかよ……身体のラインを見たことなんてなかったから全然分からなかった……それにまだ温かい。
「見てて……ね……これが最期の……さくり……ふぁいす……だから」
「ビクテロ?」
この状態で起こる不運……アームズの時の隕石か!?
「おちよ……ほし……」
「っ!?」
角度が変わってる……これなら俺たちに当たる前に巨人に当たる
「ビクテロ……お前すごいよ」
「ふふっ……そうでしょ……わた……しは……選ばれたものなんだから……」
何故か動かなくなった巨人に隕石がぶち当たる。
「思い知れよ、これがサー・ビクテロの力だ」
ガラガラと音を立てて巨人の体が崩れていく、もしかしたらアームズにも当てられてたら相当ダメージがあったのかもしれないな。
「おい……嘘だろ……倒れて終わりなんだよお前は……何で……何で再生しやがるんだよ……!!」
信じられない光景だ……崩れた箇所が急速に治っていってる……これじゃビクテロの攻撃の意味が……!!
「くそがあああああああ!!!」
棒を使って妨害をしてみようとしたが全く意に介してやがらねえし逆十字も解けてる……このままじゃ……!!
「なっ!?」
崩れた腕だけで……斧を!?
「避けっ……!?」
避けられない、全くの予想外の攻撃だった。
「ガアアアアアアアアアア!!!」
聞き覚えのある咆哮、怖気、そして四足獣のシルエット。
「おいおい……タイミング悪いぜ……お前も来るのかよ……犬」
それは三度俺を殺そうとした死神の姿だった。何故か今は斧を弾いてくれたようだが……俺を直接噛み殺すためか……
『いい加減犬と呼ぶのを止めろ罪人……我が名はウンター誇り高き執行者である』
「とうとう喋りやがったか……良いぜやれよ。その代わりこいつを助けてやってくれ……」
今の状況であの巨人を何とかできるかもしれないのはこの犬……ウンターだけだ。俺は確実に死ぬがビクテロだけでも助けられれば良い……
『殺さぬ、そして殺させぬ。我はお前を殺すがそれは最初から最後まで我が執行すべき崇高なる所業。それをお零れのような形でなすわけにはいかん。さりとて他の執行者にくれてやるのも癪だ。業腹だがここは助けてやろうではないか』
は? 何言ってんだこいつ?
『見ていろ、これがいずれお前の命を断つ執行者の牙である』