呪いはちゃんとかけて欲しい
まさかジンから呪いをかけられるとはな、これはラッキーと言う他ない、解かれると困るから速攻で逃げてきたが……効果はどんなものかな……
「は?」
【ジンの呪い(反転)】
力が入らなくなり戦闘力が大幅に落ちる……ような気がする呪い。実際には全く効果はなくジン支配空間でのみ効果を錯覚させる。これは照れ隠しの手段であり速やかに加護を受け取ることが推奨される、というか受け取れ、早く、はーやーくー!!
「……サー・ビクテロ少しだけここで待っていてください」
「分かった、万が一などないと思うが気をつけてな」
なんか諦めた顔をされた気がするけど気のせいだろうな、だってビクテロだし。
「呪うならちゃんと呪え!!」
「うわあ!? 戻ってきた!?」
流石にあんな呪いかけられても迷惑でしかない、効果なしとか許容できない。
「……なんで泣いてんの」
「うるさいわね……久しぶりに起きて目が誤作動してるだけだから」
「そんなことはいいんだ……呪いをかけろ……ちゃんとした奴をだ……」
「なんで!?」
「決まってんだろ……俺には加護が逆効果だからだ。お前なら分かるだろ」
「ええ……なんでそんな……あっ本当だ……神の恩寵も全部逆転させるような身体ね……それで加護を嫌がったのか……じゃあ別に嫌われたわけじゃない……なら良いか……」
一目で分かる訳じゃないのか……? 何かが認識を阻害している……?
「でも良いの? 身体を呪っても浄化をかけられたらそれまでよ」
「そんなことは分かってる、だから呪われた装備をくれればそれで良い。持ち運びやすいものだとなお良しだな」
「装備ねえ……そんな禍々しいもの持っててさらに呪いを求めるんだ……別に良いけど」
この元棒のことか? 仕方ねえだろ犬殴ってたらこんなことになったんだから。
「じゃあそれあげるわ、大事にしてね。というか死んでも外れないけど」
「それ……? 何ももらってないが」
「あー、角度的に見えないのね。視界が目しかないのは不便だわ」
でかい鏡、俺の姿を映している。
「やだ、俺って結構イケメンかも」
「そんなもの見るために出した訳じゃないんだけど?」
「分かってる」
あー、噛まれたところに刺青みたいになんか模様みたいなのがあるな。
「それ刺青じゃなくて刺繍だから、極細の糸で模様描いてるんだ」
「え……」
「血管まで一緒に縫ってるから無理に引き抜こうとしたら死ぬけど良いよね? だってこれ呪いだもん」
「え、それじゃあ絶対に外れない装備ってことか。最高だよありがとう!!」
「はぁ……もう良いわ、皮肉も嫌がらせも効かないってよく分かったし」
扱いとしては装飾品になるのか、確認しておくとしようか
【ジンの刺繍】
ー ジンの噛み跡に残った呪いの力を糸にして刺青のように刺繍されている。身体の内部にまで糸は絡みついていて内部が傷ついた場合にはその糸で修復が行われる ー
【ジンの呪い(反転)】
ー ジンが初めて人に向かってかけた呪いであり、今は刺繍糸が呪われている。呪いの効果は秘されているがその銘だけは開示されている。銘は「ありがとう」 ー
「効果が分からないんだけど」
「それは発動してのお楽しみってことで」
「まあ良いか……これで強化になっただろうし。でも加護はニケにやってくれよ頼むから」
「そんなに言うなら仕方ないわね、でも最後に聞かせてちょうだい。そのニケっていうのはどんな子なの?」
「世界の救世主だよ、それ以上でもそれ以下でもない」
「……そう。信じられないけど信じてあげる」
これでニケの強化も確定したな、これでハッピーエンドに近づいたってわけだ。
「あ、そうだ。一つ頼みごとしてもいい?」
「できることならな」
こういうイベントはやっておくと後々効いてくるっていうのが鉄板だからな。しかしジンからの依頼とか完全にイレギュラーだな……何を頼まれるか見当もつかない。
「他のセフィロトの子達にも会ってくれない? あたしほど寝てる子はいないだろうけど一応ね、余裕でしょそれくらい」
「……」
余裕ではない、確実に。セフィロトのある場所は決まってダンジョンとセットだしなぜか空に生えてたり火山に生えてたりするからかなりきつい。なんならラストダンジョンにも生えてるからなぁ……でも
「OK、やってやるよ」
「そう言うと思った、ちなみに言わなかったら加護を与えてたところだったわ」
「あっぶねえ……」
未知のイベントの報酬に期待して受けて良かった……精霊種との会話は綱渡りだなこりゃ……
「じゃあよろしくね」
「おう」
そう言ってセフィロトの内部から帰還すると俺の目の前には血濡れになったビクテロが膝をついていた。
「何があったんです!?」
「サー・レヒト……あれは……なんだ……」
それだけ言って気を失ってしまった。あれってなんだ……?
「……なんだよこれ」
目の前にそびえ立つのは巨人、銅像めいた無機質な身体に大きな斧を持っている。そしてそれは確実に死をもたらすと確信できた。
「お前犬の仲間だな」
その雰囲気は俺を三度襲った犬に似ていた、つまりこれは死の定めが襲ってきたということ。今回に標的はジンか。木ごと伐採する気だな?
「……せっかく助けたのに殺されてたまるかよ」
ビクテロは戦えない、セフィロトを攻撃されたら負け。これだけは確定だ。
「ん? 詰んでね?」