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聖の玉座は砕け、黄泉帰りし戦乙女は天を貫く

「くそ!! どれくらい寝てた!!」


 身体を跳ね起こす、俺の後ろには白く灰のような塊になった【奇跡】だったものが転がっているのを見るとそこまで時間が経っている訳じゃなさそうだが。


「ん? 見えてる?」


 ウンターの力はもう全部使い切ったはずだが、なぜか目は見えるようになったままだ。どういうことだ、いったい何が。


『友の瞳』

ー くれてやる ー


「ばっかおまえ、今は泣いてる場合じゃねえんだよ!!」


 いちいち涙腺にダイレクトアタックしかけてきやがって!! ありがとうよ!!


「いや、それよりも、今は復活の手段を」


 待て、何かがおかしいぞ。身体の感覚が違う、いつもより調子が良い。というよりも、何か外付けで流れ込んでいるような。まさかとは思うが、【奇跡】の聖痕を取り込んだわけじゃねえよな。ははは、まっさかあ。


『始まりの聖痕』

ー 完全なる形の聖痕、欠けるべきものが満たされてしまったなれの果て。願いに喰われた聖人のもの。きっとこれはあってはならぬもの。しかし、玉座ある限りこの聖痕は残り続ける、もし人の心があるならば、これは返上するがいい。さすれば、一度きりの【奇跡】は機能する ー


「あの椅子か!! あれが俺から持っていった玉なのかよ!!」


 うわあ、まさか本当に玉座になってるとは思わねえって、だがそれなら話が早い。


「何回も見たからよ、とりあえず感覚は分かるぜ」


 今だけ使わせて貰うぜ【奇跡】の点移動だ。


「うわっ、すっげ。これマジで一瞬だな。視界がカチッと切り替わるみたいに移動しやがった」


 目の前には透き通る玉座、これが今の聖痕を維持してる元凶だったのか。なら頭蓋骨はこっちに投げるべきだったな。失敗したわ。


「いや、どうやったらそんなこと気づけるんだよ。終わったことを嘆くな、俺が勝ったそれだけが重要だろうがよ」


 そんで、聖痕の返却ってどうやるんだ?


【聖の玉座 ー始まりの聖痕ー】

ー 聖痕は救済なり、聖痕とは十三個に分けられし神の力。現世にて神の力を振るう神の代行者に与えられしもの。預言とは一線を画す桁違いの力を授ける。全てを得た代行者よ、己の愚かさを呪え、聖痕とは神に至るための力ならず、衆生を救うための力である、聖痕を完成させたものよ、全てを得たものは全てを失うことになると知れ。だが、まだ人として生きる気があるのなら、聖杯に血を捧げよ ー


「聖杯、か」


 そんなもんどこにあるんだよと言いてえところだがもう察しがついちまったんだよな。これ見よがしに転がってるもんよ。金ぴかの杯を予想してたんだけどくすんだ銀色の杯だなこれは。これが聖杯ってことで良いんだよな。


『聖杯に血を捧げますか? その場合は全ての聖痕を失います』


 そりゃ捧げるだろうよ。そうすることでしかできない事があるんだろう?


『了承、全血液の抽出を開始します』


 んん!? 全部なの!? 聖杯を満たすくらいで良いんじゃないの!?


『否定します。始まりの聖痕は血に宿るものなれば、聖痕の返却はその血の全ての返却でもって成されます。それによって発生する肉体的危機は考慮致しません』


 そーいうことは先に言えええええええ!! だからといって他に血を用意するツテもなかったけどよお!!


『血の消失に伴う危機は貴方には発生しません、貴方の生きる糧は生きる呪いによるものであり通常の摂理の外にあります』


 え、そうなの? じゃあ良いや。


『二度目の承認を確認、聖痕の返却を完了します』

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 なんかめっちゃ吸われてるだけど!? 聖杯から血があふれ出てるし!! 透き通った玉座が血に染まっていってるんだけど、うわあ、椅子が全部血で満たされた。


『返却完了』

「うおお……ショッキングな絵面の割にはあっさりだったな」


 でもアレだな、はだカッサカサだ。どっかで水分とらねえと動くミイラだと思われちまうな。それ以前にマミー系の魔物と思われて討伐対象になっちまうかもしれねえ。


『玉座の崩壊が始まります』

「壊れるのかよ」


 風化するようにサラサラと崩れていった椅子の後には空っぽの玉と白く輝く結晶が残されていた。これが一度きりの【奇跡】って奴なのか。


【聖痕の結晶】

ー 神の力の一欠片、これを砕き願うのならそれは世界の修正にも等しい事象を可能にする。死者蘇生、生まれ変わり、圧倒的な力、世界改変、好きなように願え、だが、後悔するなかれ、これは一度きりの機会、最も正しき願いが分かるまでこれを使うべきではない ー


「はん、そんなもん分かりきってるだろうが」

 

 手に持った結晶を思いっきり地面に叩きつける、そしてあらん限りの大声で叫ぶ。


「俺の仲間を帰しやがれえええええええええええええええええええ!!!!」


 光が空間を満たした、そして、その後に何かが落ちてくる音がする。


「ああ、これでいい。俺の願いはこれで……ん?」


 なんか変な音も混じってるような、やたらデカいものも落ちてきてたよな。あんなデカい仲間いなかったような気がするんだが、いったい何が来やがった?


「ま、まさか、死んでから我が居城に乗り込んでくるとは……がはっ……!!」


 え? あの見るからに神っぽいおっさんはなんだ、めっちゃボロボロなんだけど。え? どういうこと、何がどうなってんの? あれってこれから俺が倒そうとしてた奴じゃねえの?


「どうなってんだこりゃ」


 何が起こってんだ?


「レヒト君にお土産ができたね」

「旦那様もこれで安心だ」

「あても頑張ったので褒めてもらおうっと」

「いやはや神との戦いとはまさに英雄譚、サー・レヒトに後でゆっくり聞かせてくれよう」

「手前の舞が神の領域に届くとは、次は阿修羅でも目指してみましょうか」

「これでイー姉様への落とし前はつけられましたね」

「天界の魔術の分析は興味深いことこの上ないですわ、今すぐにでも研究を」


 おいおい、マジかよ。死んでからそっちで戦ってたとでも言うのかよ。それで神を倒してきたとでも。


「ふふっ……人狼の身体とは不便だが……懐かしいな、これからはこれが我の身体か」


 嘘だろ、確かに、仲間を帰せと言ったけどよ。


「とりあえず、おかえり」



 


















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