あまり物には厄がある
「おのれぇ、みんなカッコつけて出て行きやがって。俺もあの巨大聖騎士倒せる手段があればな」
「先生、やはり残ったんですね」
「ん? おいていかれちまったからな。カッコ良かったぞブレイン陛下」
「やめてください、僕はまだただのブレインですよ。何も為していないんですから」
「いやあ、そうは思えない啖呵の切り方だったぞ」
多分ゲームだったらあそこはムービーだった。それくらい決まってた。
「いえ、本題はこれからなので」
「本題?」
「先生ならお気づきだと思いますがあの巨大聖騎士は囮です。確実に仕留めるための二の矢があるはずです」
「お、おうそうだな」
嘘だろ、そんなに考えもしてなかったぞ。だがこの状況で繰り出す二の矢なんてもうあの最高戦力しかないだろ。
「聖人か」
「僕もそう思います、きっと今にも先生を殺そうとしているでしょう」
「来るとしたらどこからだ?」
「正面です」
「おいおい、嘘だろ」
俺の胸に突き立つ一本のナイフ、今、ここでブレインが俺を刺しやがった。まあナイフ程度で入るダメージなんかほぼねえけど。
「先生、僕を信じてくれますか」
俺を陥れる意味はねえ、ならこれはなにかの意図がある。ブレインがやることだ、きっと考えた末の行動に違いない。
「信じよう、お前を王にしたのは俺だ」
そのまま倒れる演技をする、少しばかり深く刺さったが今更だ。
「これで標的は死にましたよ、奇跡の出番はありません。そちらは聖騎士を失うでしょうが痛み分けです」
「分かられていましたか、流石は魔王と言っておきましょう。ですがそのちっぽけな刃物でそこの大罪人が死んだと思うのは早計では? 元に一度そこの大罪人は蘇っているのですから」
もう来てやがったとはな、ここからブレインの頭の見せ所だぞ。うまく騙くらかしてここを切り抜けるんだ。
「刺したのはこれです、これで死んでいないと?」
「ああ、なるほど。魔王の持つ宝物の一つ決別の薔薇ですか。これなら確かに死ぬかも知れません。何せこれはあらゆる祝福を打ち消し死で塗りつぶす呪物ですものね」
「でしたらお帰りを、神はまだここを消せとは言っていないでしょう?」
「聡いですね、その通りです。用もありませんし帰りましょうか。まだ食べ残しもありますし」
気配が消えた。本当に帰ったようだ。
「ですが」
耳もとで声!? 動かなかった俺を自分で褒めてあげたい!!
「この大罪人の首でも持ち帰らないと安心できませんね。また甦られても困りますし」
「でしたらその手間は僕がやりましょう」
え? 待てよ、俺の首マジで落とすの? 流石に死なない? ねえ、そこまでの耐久性があるかどうかは自信がねえぞ!?
「信じていた僕に落とされるなら首も本望でしょう」
「くく、やはり魔王ですね。邪悪そのものじゃありませんか」
くそ、信じろってか。良いぜ、俺はブレインを信じるって言った。首でもなんでも落としやがれってんだ。
「よい、しょっと」
「なかなか良い腕ですね、一刀両断です。処刑人の方が向いているのでは?」
ん? 別に斬られてねえぞ? なんだ、今ブレインは何をしている? 動きの把握がうまくできねえ、何をどうしてるんだ?
「これを」
「ええ、良いです。この首を持って帰りましょうか。ガラクタはこちらで処分して構いません」
「次会う時に落ちるのはどちらの首でしょうか」
「はは、あなたはユーモアのセンスがあるようだ。落ちるのはあなたの首ですよ。決まっているでしょう? 私は神の如きものになるのですから」
今度こそ消えたか? 今度こそいなくなったんだよな、ドッキリは一回で良いからな? 天丼はないよな?
「先生もう良いですよ」
「あっぶねえな、まさか【奇跡】がもう来てるとは」
「大急ぎで宝物庫を荒らした甲斐がありました、念のために色々持ってきて良かったです」
「色々ってなんだ? 俺を刺したナイフ以外にもなんか使ってたのか? 首を落としたらしい剣くらいじゃないのか?」
それに幻術とかそういう効果が付いていたんだろ多分、それで【奇跡】をごまかしてくれたんだよな? そうだよな?
「いいえ、アームズ様を超える正真正銘理外の化け物相手にそんな心許ないまねはできません。使ったのは17個の認識阻害効果と8個の幻術、14個の幸運招来に23個の身代わりです」
「ごめんもっかい言ってくれる?」
「使ったのは17個の認識阻害と……」
「分かった、冗談じゃないのを理解した。本当なんだな?」
「はい、直感で分かったんです。この相手に出し惜しみをした瞬間に死ぬと。現に今も僕には致死の呪いが降りかかり続けています。身代わりが受けているので大丈夫ですが」
「本当に大丈夫なのか? 呪いなら俺が中和できればいんだが」
この感じは死の祝福だから無理そうだ、こんなことできるのは神くらいだと思ってたが。
「あいつさっき神の如きものになるって言ってたな。嫌な予感がするぜ」




