最弱最賢の魔王が生まれる時、英雄もまた
「うう……べたべたする」
「俺もだ、とりあえず水浴びをしたいところだな……プラチナも立ち直ったことだし」
「ずびばぜん~」
流石にこのまま町に戻るのは嫌だな、つーか下手したら憲兵にしょっぴかれてしまう可能性まである。アームズが手を回してくれるだろうから大丈夫とは思うが。
「ん? なんか騒がしいな?」
人の歓声みたいな? なんでそんな声が聞こえるんだ?
「あれ、もしかして、魔王決まった?」
俺の耳の性能がおかしくなったわけじゃなければ魔王様万歳的な声がしているような……まだ選挙の時間は終わってないはずだろ。それともブレインがよっぽど上手くやったのか。
「とりあえずは合流しねえとな……」
ちょっと時間ねえから手段は選べねえ。
「ユーホ、水頼む」
「はいはい、これでいい?」
「ぬおおおおおおお!?」
「きゃあああああああ!?」
なんだ!? 鉄砲水か洪水か!? いきなり頭の上からすげえ量の水が降ってきやがった!?
「ばっかおまえ!! いきなり大量の水をぶっかけるやつがあるか!?」
「水って言ったのあなたでしょう? 乾燥もつけましょうか?」
「うおおおおお~!? 熱風ががががが!?」
でもこれ温風っていうか、サウナの風送ってくるあれじゃねえか!! これ水を被る前だったら絶対に火傷してるやつ!!
「くそ……でも乾いた……ありがとな」
「どういたしまして」
「うう……」
ビクテロもちょっとグロッキーじゃねえかまったく、もうちょっと繊細さを身につけて欲しいもんだ。言ったら酷い目にあうのは火を見るより明らかだから言わねえけど。
「今すぐ戻らにゃならんから早くシルバータンカーに乗るぞ」
「分かった……サー・レヒト」
「げひひ~ん!!」
なんで今の段階で魔王が決まったのかは分からんが、それがブレイン以外だったらこれは俺の企みが瓦解するからな。とりあえず他の候補が当選したわけじゃないことを確認したい。どちらにせよ聖騎士どもが来るのを殲滅してもらわにゃならんからな。
「ん? 殲滅……聖騎士と魔王軍がぶつかって大量の死者が出るのか」
今更ながら大戦を起こそうとしてることに寒気がしてきた、膨大な量の死を生み出すかもしれないということに今初めて向き合った。確かにこれは俺が生存するためには必要なことだ、だがそれ以上の不幸、災害をここにもたらしても良いのか? 俺が直接解決すべきことじゃないのか。
「な、なあビクテロ。聖騎士ってどんな奴ら?」
「聖騎士……か、あれは人間ではないな。傀儡の類と言って良いだろう、オレも何度か見たが鎧を脱いだ所は見たことがない。まるで意思ある鎧が動いているようだった」
「人じゃない?」
「ああ、一応人格らしきものはあるがそれも機械の類の応答に近い。もう知っているから言うがツァラトゥストラのものに似ているような気がする」
「そうか、それを聞けて良かった」
良かった、それならなんの呵責もなく滅ぼせる。滅ぼすのは俺じゃなくてブレインと魔王軍だけどな。
「サー・レヒトは聖騎士に興味があるのか?」
「そういや言ってなかったな、俺は今三万五千の聖騎士に追われてるんだよ」
「はぁ!? なんでそんなことに!?」
「神の誘いを断ったからだとよ、お前は既に離反してたっぽいから知らないみたいだけど」
「さんまん、ごせん」
「うおあ!? ちゃんとシルバータンカーの手綱を握ってろ!! 落馬したら死ぬ!!?」
「あ、ああすまないな。しかし三万五千とはなかなかにひどい」
「だろ? だから俺が今ここに居る」
それが上手くいくかどうかの瀬戸際になるかもしれねえんだよな、たぶんブレイン以外だと普通に物量に押しつぶされるような気しかしねえ。ビクテロの言うとおりだとすると機械のような奴ららしいからな、補給もいらなければ消耗もないっつう化物軍隊の可能性がある。人間じゃねえならねえで壊しやすくはあっても倒しやすくはねえんだなこれが。
「勝算があるのか」
「まあ一応な」
「それは、魔王に聖騎士を押しつけるということか」
「ん? いやまあそうなるな」
「サー・レヒト、それは本当にお前の勝利なのか? 命を救われ、魂を救われたオレが言うのもおこがましいが本当にそれで良いのか?」
「え?」
至上目的は俺の生存と仲間の生存、そしてできる限りバッドなエンドを回避する。その過程で神を下す必要があるってことなんだが……ここで起こる戦争行為は本当に必要なのか、それは、俺の、勝手で無用な犠牲を出すだけなんじゃねえか。
「いや、でも、三万五千だぞ」
「数は問題じゃない、無責任だが言わせて貰う。勝利は、栄光の友だ。そしてそれは臆病と責任転嫁からはもっとも遠い言葉だ」
「俺は、失わないために……この道を選んだ」
「本当か、本当にこれ以外の方法はないのか。オレは見たぞ、馬鹿げた数の魔物を掃討するサー・レヒトの姿を。それをもう一度やることはできないのか」
「や、それは」
「サー・レヒト、栄光はお前と共にあるぞ」
この、野郎、勝手なことばっかり言いやがって、今の状況がどんだけやばいか分かってねえんじゃねのか。栄光とか要らねえだろうが、そんなもんで命を拾えるのかよ、ちくしょう……くそが。
「今の、俺たちの力でできると思うか?」
「できるさ。できると信じてる」
「マジかー、ああああああああ……もう……付き合ってらんねえよ……俺は英雄の器じゃねえ。わざわざ死地に仲間を送り込んで平気な顔もできねえ。それでもか」
「信じる、オレの全てを預けよう」
「はぁ……本気かよ、なんのために俺はここまで来たんだろうな……」
「オレに会えたじゃないか」
「は、よく言うぜまったく。あんな死に体で会いに来やがって、どんだけ驚いたと思ってるんだよ」
「それに関してはすまないと思っている」
馬鹿な決断をしようとしている、それは分かってんだけどなあ。それでも、こっちの方が良いと思っちまったんだよ。
「死ぬかもしれねえぞ」
「今更死を恐れてなんとなる、我が身は既に死を乗り越えた。ただ進み、そして勝利を掴むのみ」
「あーあ、やるか……」
「おう!!」
どうすっかなあ……三万五千を倒すのか……




