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幼なじみがちょっと人間辞めてた件

「じゃあ私も行ってくるね」

「いや、ニケ専用なんじゃ……」

「ううん、私だって少しくらい良いところ見せたいんだ」


 いくらなんでもニケと並んで戦うってのは難易度が高すぎるっていうか、無理無理の無理としか言えねえよ。三分とはいえニケはもう最高クラスの戦闘力を持っているんだぞ、それについていけるとはとてもとても思えねえ。


「じゃあ、ちょっと貰うね♡」

「んむっ……お前なあ、戦う度にキスするのなんとかならないのか」

「ならないよ」


 俺にキスしたってことは毒魔法のやべえ奴を使う気だろうけどそんなことしたらニケまで死んじまうぞ。いや、今のニケに毒が入るかどうかはかなり疑問だが。


「見てて、さっきはできなかったけど今ならできる気がするの」

「なにをする気なんだ……?」


 臨戦態勢のトモエ軍団とニケの中間に飛び込んでいきやがった……命知らずにもほどがあるな。それにしてもさっきはできなかったけど今はできることってなんだ? 集団戦ではあんな毒は使えねえと思ってたけどな。


「お嬢ちゃん横入りは駄目やよ?」

「ティーアちゃん、邪魔だから、どいて」

「ふふ、どっちも私なんて眼中にないって顔をしてる。そうだよね、私は弱いもんね。でもね、レヒト君と一緒に居るときの私はちょっと強いよ? 婚約魔法」


 毒ぶっ放す気か、それをやる前に潰されるような気がするんだが。ニケの早さとかトモエの技術とかで発動前に攻撃される未来しか見えねえ。


私を焦がす熱い毒(ポワゾン・クリムゾン)


 ん? 聞いたことねえやつがでてきたぞ? 新技か?


「熱い、熱いわ、とっても」


 熱い? 熱系の毒ってあるのか?


「ごめんね、付き合ってあげられない」


 ニケが動いた、速すぎて動きを予測するのがやっとだが恐らくティーアを狩りにいったな。これに対応できるわけねえからティーアはここで退場だな。新技には驚いたがやっぱろ基礎ステータスの差はどうにも埋まんねえよな。


「うん、そうだよねニケちゃんはそうするよね。毒を警戒しながらできるだけダメージが少ない方法で気絶させようとしてくると思ってた」

「っ!?」


 なんだ、何が起こってる。俺の読んでる気配とかが間違ってなければティーアはニケの攻撃を受け止めている、それどころか見切ってるような発言まで聞こえてきたような……


「なんで……それは……」

「うん、ニケちゃんなら気づくと思ってた。だってこれはレヒト君の技だから」


 え? 俺の技? 


「毒を反転させて力にするなんて……そんなこと旦那様以外にできるわけ、特異体質を後天的に獲得するのは不可能なはず」

「うんうん、そうだよね。普通は無理だよね。そういうのを可能にするのはなんて言うか知ってる? これはね愛のキ・セ・キ」

「どういうつもりかな」

「別にどういうつもりでもないけど、ちょっとだけレヒト君に良いとこ見せたくて」


 うわ、なんか怖い。とても、怖い。恐らくゴゴゴゴゴっていう擬音が背後に出ていることだろう。今俺は見えてないことに感謝した。


「れひとはん、嬢ちゃんに何したん? さっきまでと違ってすっかり戦う女の顔になっとるやないの、これはもう放っといた方が修行になるわぁ」

「何もしてねえよ……」


 トモエが静観決め込んでるあたりでどれくらいヤバい雰囲気が出ているかを察して欲しい、マジでやばい。殺気とか闘気とかいうような目に見えない系のオーラが放出されているのを肌でひしひしと感じているから冷や汗が止まらねえ。


「そう、手加減は要らないんだ」

「私はしてあげても良いよ?」

「随分自信満々みたいだけど、そろそろ動くよ」

「私はもう動いてるよ」


 風が動く音、そして響く金属音。何か硬いもの同士がぶつかった音だな。発言を加味するとこれはたぶんティーアの一撃をニケが剣で防いだみたいだな。つまり、ティーアはニケに剣を抜かせることに成功したってことになる。素手でボコられたのを考えるとちょっと考えられないくらいの強化が入っていると考えて良い。


「やっぱバフが正義なんだな……」

「ばふ? なんや知らん言葉やね」

「ああ、こっちの話だ」


 音がえげつない、もうなんかこう、ズガガガガガガっていう感じで超高速バトルが行われているのが分かる。つーかティーアは拳のはずだよな、なんでこんなに剣と打ち合えてるんだ? 拳を鉄にするスキルでもあるって言うのか?


「ティーアちゃん……鍛え上げたんだね。これは才能だけの拳じゃない、努力に努力重ねて作りあげた鉄の拳だ。疑ってたわけじゃないけど本当に強くなったね」

「ニケちゃんに言われると嬉しいな、でもついでに言わせてもらうなら鉄なのは拳だけじゃなくて足もだよ」

「くっ!?」


 拳闘だけじゃない? 足技までできるようになってんのかよ。ティーアがヒーラーだって言って信じる奴はもういねえな、毒と格闘を行う新しいジョブに変わっちまったな完全に。名付けるなら毒闘士ポイズン・グラップラーかな。


「あとぉ!! 自分だけレヒト君の所有物になってずるいんだけど!!」

「はぁ!? それを言うなら勝手に婚約魔法とかいってきき、ききき、キスとかしまくってるじゃないか!! うらやまねたましい!!」

「ふふーん!! 幼なじみの特権ですぅ!!」

「きー!!」


 いきなりキャットファイトじみて来たな、その割にはえげつない戦闘は続いているのが逆に怖え。こいつらを怒らせたら俺は確実に死ぬな。


「はぁああああああああ!!!!」

「せやああああああああ!!!!」


 クライマックスに向かってるのか、二人のボルテージが最高潮に高まっているのを感じる。終わりが近いな。


「ぜえっ……ぜぇっ……」

「はぁっ……はぁっ……」


 もう限界が近いようだな、でもやっぱりというかなんというかニケの方がまだ余裕を残している。流石に匹敵はしても肩を並べるのが限界ってことか。


「これで……最後……」

「受けて立つよ、全部をぶつけて」


 ティーアの一撃を正面から受けたニケが恐らく膝をついたんだろう、そんな音がした。でもそれと同時にティーアが倒れる音も聞こえてきた。


「ニケちゃん強いよお……もう動けない……」

「けっこうギリギリだったよ、ティーアちゃんも強い」

「えへへ……レヒト君守れるように頑張ろうねえ……」

「うん、旦那様は皆で守るんだ」


 え? 河原でタイマンして意気投合みたいになってるけど俺って守られる対象として認識されていたの?

けっこうショック……


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