クールに行こう
「よし、切り替えよう」
復活とかニケとかでなんかテンションがおかしかった。せっかくだから冷静になって考えようじゃねえか。無闇に動くとろくな事にならないからな。
「とりあえずは皆の回復を待とう、そんでグレーゴリのピンチを利用して修行に入る。混乱に乗じるのは良いが地力がないとそれもままならんし」
そうだ、焦りすぎてた。今すぐやらないと世界が滅ぶわけでもないんだ。一歩一歩確実に行こうじゃねえか。そうしないとまたピンチに陥る。
「あらぁ? 行かへんの」
「ああ、ちょっと冷静になった。今は自力を上げる時間だ」
またの名を魔改造タイムとも言う。対抗策やら切り札やらをわんさか作らにゃならん。
「うんうん、それでええ。それくらい慎重にならんとなあ」
「てことで五獣の塔貸してくれ、やりたい事がある」
「ええよ、好きなだけ使うてな」
場所の確保はこれで完了だな。後はちょっと仕込みを、って、あれ、なんか、視界が、歪んでる、ような気が。
「限界や、悪いようにはせんからゆっくり眠りや」
寝てる、場合じゃ、ない、これからやる事は、いくらでもある、んだ、無駄にできる時間なんて、ない、のに。
「じゃあお休み」
だめだ、ねる。
◇◇◇
夢を見た。あっという間に過ぎ去ってしまったがあれば確かに俺の身体が崩れていく映像だった。身体の端から少しずつ崩れてそして居なくなった。意味のある夢とは思えねえが。
『目覚めないことを選択できます、速やかに身体は崩れ落ちて安らかな死を享受できるでしょう』
おいおい、自殺教唆とはシステムメッセージも随分と物騒なこと言うようになったな。
『これから先に待ち受けるのは混沌、あなたの優位性は失われます。それでも挑むのですか。難易度設定は地獄を超え不明領域へと至ります。ほぼ確実な死が訪れます。今ならば魂の安寧を約束しましょう』
へえ、最高難易度のさらにその先を見せてくれるっていうのか。それなら見てみたいもんだな、そのアンノウンっていうのを。
『最後の警告です、あなたはこの生を全うして犬死にするのですか? 次の機会を与えることも可能なのですよ』
そろそろやめにしようや、仮にも神を名乗るんなら悪魔の真似事なんざしちゃ駄目だろうが。そんなに俺に邪魔されるのが怖えのか。ニケまでいなくなっちまったもんな、お前の手駒はドンドンいなくなるぜ?
『これは慈悲だ。お前は無念のままに惨たらしく死ぬ、やがて来る未来なら今安らかに迎える方が良いだろう』
は、余計なお世話だ。せいぜいグレーゴリに籠もって震えてやがれ。次に会う時がお前の最期だと思え。俺を敵に回したことを後悔させてやる。
『なるほど、では取引だ。我はお前たちに今から一切の手を出さぬ。聖人も差し向けぬ、今までの所業も不問としよう』
恐ろしいくらいにうさんくさいなお前、交渉下手なんじゃねえの? それだったら俺から奪った玉も返せよ。あれねえと不便なんだよ、音・匂い・気配でなんとか補ってるけど今は目が使えてねえんだよ。
『取引に応じるならばそれも直ちに返却しよう』
一応だが聞いておこうじゃねえか、その取引とやらで俺に何を求めるんだ?
『ツァラトゥストラと五獣の塔にいる亡霊を消せ、それで取引は成立だ』
ぶははははははは!! やなこった、なんでお前が消したくても消せなかった奴らを俺が代わりに消してやんなきゃならねえんだよ。どうせお前は神として存在するせいでできないことが多いんだろ、お前の代行なんざ死んでもやんねーよ!!
『残念だ、であれば我も手段を選ぶことはできなくなった。お前の言う通り我にはいくつもの枷がある。だからグレーゴリがあるのだ。我はこれよりグレーゴリの精鋭三万五千をお前を殺すためだけに差し向けよう。逃げても無駄だ、どこまでも追いかけてお前を殺す』
おい待てなんつった、三万五千って言ったか?
『然り、物量の前に一個の武勇なぞ無意味。絶望の中で死ぬが良い』
グレーゴリの兵をそこまで出すって事は魔王との衝突はそこまで深刻でもねえのか、なら魔王軍をつついてやればその兵を出す余裕はなくなるな? 聖人は別の仕事があると見た。
『お前が今の魔王に何をするというのだ。協力なぞ得られるはずもない。進軍は十日後だ、懺悔し震えて死を待つが良い』
勝手に打ち切りやがったな、どうせ取引に応じても難癖つけて殺すんだろうが。信用がねえのに取引が成立するわけねえんだよ。さて、十日後となると俺の修行に使えるのは三日で後は移動と会議になるな、三日でどこまで仕上げられるか。そこが勝負だ。その前に目を覚ますところからだな。
「さ、てと、起きるか」
光が入ってこねえから分からねえが今は何時だ、多分朝っぽいが。
「レヒト君!! やっと起きたんだね!!」
やっと?
「もう五日も寝てたんだよ!!」
これが、絶起か。




