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始まりの大誤算、美味いメシはいらねえ。

 ゲームの世界というものに憧れた、特に「グロウ・マジック・ファンタジー」は人生で一番はまったゲームだった。自分で魔法をカスタマイズして強化するのが醍醐味でバフをいかに組み合わせていくか考えるのが楽しかった覚えがある。攻撃魔法もあるにはあるが……結局のところバフをかけて殴った方が強かった。

 そんなゲームの世界に迷い込んだというか……主人公の2件隣の家あたりのモブの役割に当てはめられた状況だ。記憶は朧気だけど何となく生活に不自由しないくらいの記憶はある……歳は10歳くらいだから冒険が始まるまでにはまだ猶予がある。確か12で旅に出るか村に残るかを選ばされる設定だったなたしか。


「ここがグロウ・マジック・ファンタジーだと確信したのは良い。それは別に問題ないんだ、問題があるとすればこっちなんだ」

 

俺のステータス画面に書かれていることが非常にまずい、致命的と言ってもいい。ステータス事態は問題がない、むしろ良い方だと思う。


「【反転体質】か、これがでかすぎるんだよな……」

 

俺の身体に備わったこのユニークスキルが全てをぶち壊してしまっていた。だって俺にバフをかけるとデバフになるんだ……能力が……ガタ落ちするんだ……バフが優秀なゲームなだけにこれは相当痛い……せめてチートとは言わないまでも人並みの性能が欲しかった……


「戦闘力が低すぎてまともに冒険者もできやしない」


 基本的に魔法でバフをかけて殴り合いするシステムだったからな……しかもデバフは数えるくらいしかないのがさらに向かい風なんだよな。そもそも自分にデバフをかける方法なんて存在しないし。


「でもまあ……完全に詰みという訳でもない」

 

 実は特殊なデバフを持つ存在がいる、ゲームをしていた頃には「存在意義が迷子」とか「秘密兵器、ただしエンディングまで秘密のまま」とか「ルックス以外には何もないので実質マネキン」とか散々なことを言われていた結構回りくどいルートをやらないと仲間にならない最初の村の隠しキャラだ。


「立ち位置も良い……俺はお隣さんの幼なじみという最高の立場にいる……これは早めにお近づきになって是非ともパーティを組みたい……というかまずはこれを達成しないと俺の冒険は始まらない」


 お隣さんの名前はティーア・バッキング。別名メシマズを極めし者だ。


「レヒト!! お客さんよ!!」

「はーい、分かったよ母さん!!」


 今の俺の名前はレヒトになっている、ゲームの初期設定のランダム名前のうちの1つだった気がする。


「ティーアちゃんのこと泣かせたりしたら……晩ご飯抜きだからね」

「分かってるって……そんなこと1回もないだろ?」

「ま、それもそうか。行ってらっしゃいな」

「はいはーい」


 扉を開けると深い緑色の髪の毛を腰辺りでゆったりと結んだ女の子が立っている、クール系の顔立ちの割にドジ属性があるのが人気ポイントだったな。いやほんとルックスだけの人気ランキングなら上位に入っていたから大人気だったと言えるだろうな。


「あの……レヒト君……今日の約束……」

「分かってる、さあ行こう」

「う、うん」


 今日の約束というのはティーアの家で料理の味見をして欲しいということだった。これ自体は初期イベントであった奴だから何がどうなるのかはだいたい知っている。ここから正しく導いてやればメシマズ女王も少しはマシにすることができるのだが、今の俺に必要なのは度を超えたデバフを付与できるような超弩級のまずい飯だ。だから俺は心を鬼にしなければならない。できるだけ間違えた方向になるように誘導するほかない……!!


「これなんだけど……」

「これ……は……なに……?」


 俺の目の前に出てきたシチューらしき物体Xはどう見ても食べられるものではなかった。だって青いんだもの……およそ自然界に存在しない色をしているんだけどどうやって作ったんだろうね……ここの調理場は錬金術師の工房か何かかな?


「えっと……カレーなの」


 おおっとシチューですらなかったか、カレーというならばカレーなんだろうけども……少なくとも具材が存在しているようには見えない……それになんか泡立ってるね?


「美味しそうだ、いただきます」


 言葉に合わせて笑顔を作ることも忘れない、こういう細かいところが重要なんだ。


「うっそだろ……」

「え……美味しくなかった……? 隠し味にブルーマッシュルームを入れてみたんだけど……」


 ちなみにブルーマッシュルームは錬金術に良く使われるキノコで毒の威力を2倍にする効果があるぞ、もしこのカレーが毒物だったら最高の組み合わせだ。


「こんな美味いもの食べたことないよ!!」

「本当に!? 嬉しい!! お父さんとお母さんには良い毒だなって言われてたから不安だったの!!」


 はは、ティーアの両親の目は確かだな……流石凄腕の狩人夫婦……野生動物どころか魔物だってこのカレー食わされたら確実に毒状態になるだろう……現に俺の視界は緑色だし……体力はゴリゴリ減ってる……でも何故か美味いのは本当なんだよなあ。毒以外のマイナス効果は全部バフに変換してるし、体力自動回復があるってことはこの劇物普通に食べたら二重にスリップダメージが入ってたってことか……えげつないな。ちなみに発動効果は【毒】【体力自動減少極小(反転)】【全ステータスダウン極小(反転)】【生体機能ダウン極小(反転)】だ。



「顔色悪いけど……無理してない? 緑色の泡が口から出てるけど……」

「え? これは違うよ? これは……あれだよ……間違って喰った石鹸の残りが……」


 我ながらクソみたいな言い訳だ。でも大丈夫このティーアは基本的に言われたことを鵜呑みにする性格だから。


「大丈夫? そんなことしたらお腹壊すよ?」

「大丈夫だって、鋼鉄の胃袋だからさ」


 よし、ごまかせた。発展途上でこれとは恐れ入る……これが完成したとしたら……それはもうものすごい効果になるに違いない……今から楽しみだ……


「もっと隠し味を入れたら良いと思うな、キノコ以外もさ」

「ほんと? 私もそう思ってたんだ!!」


 とんでもない化け物を生み出してるような気もするけど……食べるのは俺だから許して欲しいと思う……俺の冒険にはティーアが必要なんだ……


 そして一月が経過した。


「なんでだ……どうして……こんなことに……!?」

「どうしたの?」


 なんてこった……こいつ……料理が上達してやがる……普通に食えるもの出してきやがった……!!













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