~終着点~
~~~最終日~~~
命を賭した戦いの末、俺達は西の街に辿り着いた。
だが、そこに待ち受けていたものに、俺達は立ち尽くしてしまった。
「何だよ……これは……」
目の前の光景に、俺は唖然として呟いた。
それだけ信じられない……いや、信じくないほどの惨状だった。
所々から立ち上る黒煙。
漂う焦げ臭さと何かが焼けるような異臭。
そして、我が物顔で闊歩するゾンビ達。
恐らく、数日前までは本当に理想郷として機能していたのだろう。
それは、敷かれた防衛網を見れば分かる。
だが、何かが原因で此処は崩壊したのだ。
結果、後に残ったのは瓦解した街の残影でしかない。
そこに生者の気配はなかった。
明日に繋がる希望は欠片さえも存在していなかった。
「どうして……どうしてだよ……!!」
やり切れない思いに涙が溢れてくる。
俺達が命を賭して此処まで辿り着いたのは、こんなものを見るためではないのだ。
「もう俺たちは救われないのか……人間は生きることすら許されないのか……?」
その事実を突き付けられるような光景に、目の前が暗くなるのを感じる。
どれだけ抗おうと、これが人間の辿る運命なのだろうか。
「あああううぁぁぁ……!」
「うえああぁぁ……!!」
打ちひしがれる俺たちを嘲笑うかのように、ゾンビ達が迫り来る。
俺たちから希望を奪い去っただけでなく、この命まで消し去ろうというのか。
「ふざけやがって……!!」
怒りに任せて後ろ腰へと手を伸ばす。
もう残り時間も少ない俺は構わない。
だが、明菜を奪われるわけにはいかないのだ。
だが、そこへ―――
「待って…………」
銃を握った俺の手に、明菜が自らの指を添える。
そして、どこか清々しささえ感じさせる表情で俺を見詰めてきた。
「もういいよ…………」
「えっ…………?」
「もう戦わなくていいよ……十分だよ……」
「明菜…………」
それは―――諦観。
全てを諦めた人間の言葉だった。
だが、俺に彼女を責めることは出来なかった。
奮い立たせようとも思わなかった。
この現状を目の当たりにして立ち上がるだけの気力は、最早、俺にも彼女にも残されていなかったのだ。
「結局、ここが俺達の終着点になるってわけだ……」
思い描いていた未来とは違う。
だが、ここで全てが終結するのは決まり事だったのかもしれない。
「…………どうする?」
俺は手にした銃を持ち上げながら、少しばかり戯けた表情で問い掛ける。
それは、皮肉にも あの日の再現となった。
全てが終わり、全てが始まった日の……。
「あなたが決めていいよ……私は後でも先でもいいから」
「ふふっ……迷わせてくれるね」
トリガーガードに指を掛けて銃をクルクル回しながら、
俺は苦笑を浮かべて呟く。
だが、俺の中で答えは決まっていた。
この旅を始めた時から、彼女に俺の最期を見せるつもりはないのだ。
「…………目を閉じて」
言いながら、銃口を明菜に向ける。
この距離なら外すことはない。
銃声を聞くことすらないだろう。
俺は、ゆっくりとトリガーに指を掛ける。
そして―――
A・迷うことなく指へと力を込める
B・僅かばかりの迷いが過ぎる