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紅羽妖録  作者: みお。
第1章
4/15

第3話 黒い獣

なんとか書けたので投稿。書けるうちに書いておきたいですね。


 あの後、若干動揺しつつも着替えを済ませて教室に戻った私たちは、ホームルームを終え一限の古典の授業を受けていた。

 私のクラスの古典を担当しているのは、目の前の眼鏡をかけた短髪の若い男性教師、都築先生だ。今日の授業内容は先週に引き続き古典文法。

 実は、この先生の授業は生徒たちの間ではかなり評価が別れている。

 一年時に先生の授業を受けたことのある先輩曰く、とてつもなく早い進行スピードで授業が進み、かつ授業の合間に入る補足説明が明らかに補足の領域を超える濃密さを誇るために、先生の授業が行われる50分間は少しも気が抜けないからだ。

 そのせいで定期テストの範囲はいつも驚異的な広さになり、人によっては赤点からの追試、そしてその追試もクリアできず放課後補習コースで「フルコンボだドン!」ならぬ「フルボッコだドン!」な事態になるらしい。

 かく言うその話をしてくれた先輩が去年「フルボッコだドン!」状態になって泣きを見たらしい。

 人はあんなに遠い目をすることができるのかと思ったのはナイショの話である。

 私は昔から古典は得意科目の一つで、更に最終兵器の元県立東高校で古典担当教員だった義朗さんもいる。

 なんとかなるはず。多分。

 あ、義朗とは私の祖父の名前で、祖母の名前は町子です。


 「いいか?古文を正確に把握するには助動詞の接続をしっかり把握することが重要だ。

 例えばこの"花咲きぬ"。この場合は"ぬ"の前にある活用が連用形になってるからー……」


 ふむ、なるほど。

 先生の授業を受け始めて2ヶ月も経ってないけど、細かい文法事項や考え方も噛み砕いて説明してくれるから個人的にはわかりやすくて好きだな。

 それより英語のリーディングの先生をどうにかしてくれ。

 生徒の質問に対して質問で返す先生を私は認めない。


 ……それにしても、中庭で見かけたあのおばあさんは結局どこの誰だったのか。

 うちの高校、田舎の学校らしく敷地はあるけど所属する先生や生徒はそこまで多くはない。

 もし教員なら一度は会ったことがあるはず。

 だから生徒の関係者かと思ったけど、やっぱりあそこにいたのは不自然だ……。

 なによりあの人の纏っていた雰囲気がなんというか…すごく異質なものに感じた。

 確かあの人、今私たちが授業を受けている一年生の校舎を見てたっけ。一体何を見ていたんだろう?


 「まぁ、考えても仕方ないか……忘れよう」

 「何を忘れるって?」

 「え」


 顔を上げると、いつの間にか私の席がある後列にまで足を伸ばしていた都築先生とバッチリ目が合う。

 ホントにいつ近くに来たんだこの人……じゃなくて!


 「俺の授業で時灯が忘れていい事は何一つ無いはずなんだがなぁ?」

 「いやっ、あのちょっと今朝出会った某日曜夕方6時半から放送されてる国民的アニメに出てきそうな不思議に素敵な着物と割烹着が似合うであろう老婦人のことをですね……」

 「お前が何を言っているのかは俺には全くわからんが、授業中に他の考え事とは随分と余裕があるんだな。

 じゃ、そんな時灯に今俺が黒板に書いた古文の現代語訳をして貰おうか」

 「あ、ハイ」


 その後、先生の出した問題に答えることはできたものの、「授業中他のことに集中してたのに解けるなんて生意気」という理由で追加の宿題プラス次の授業で再度当てられることが確定した。解せぬ。







 「いやぁ、朝から酷い目にあった……。」


 放課後、普段の通学路とは違う森の中(といってもちょっと広めの林くらいの規模だが)にある近道を使って帰路につきながら、一人呟く。

 今日は顧問の鈴木先生が主導で開いた職員会議と道場の点検が重なったため、放課後の部活は休みだ。

 それでも長年の習慣のせいか、少しでも竹刀を持って身体を動かしておかないとなんとなく落ち着かなかったため、軽く素振り等の自主練をしてから下校している。

 普段の練習に文句を言いながらも影でちゃんと努力のできる子、それが私。

 とりあえず家に帰ったら着替えて今日当てられた古典の宿題をどうにかしよう。

 授業の後、悪あがきにやんわり「私今日誕生日なんですよ〜。見逃してくれません?」と先生に主張してみたが、「それなら追加課題は誕生日プレゼントとしてお前にやる。泣いて喜べ。」と返された。

 こんなに嬉しくない誕生日プレゼント寄越すなんてあんまりじゃないか?とか言いたいことはあったけれども、まぁ授業に集中していなかったのは事実なので甘んじて受けることにした。

 今回舗装もされていない近道から家に向かっているのも、勉強時間の確保のためである。


 「お、そろそろ抜けられそう。」


 薄暗い自然のトンネルに、徐々に光の束が降り注いでくるようになった。

 後少し歩けば森を抜けられる。そこから家までは文字通り目と鼻の先だ。

 ……ん?


 「何?あの黒い塊……?」


 森の出口に横たわるやたら大きな黒い塊……なんだあれは。

 熊が出るのはもう少し先だと思ってたんだけど?

 万が一にでもあの黒い塊が野生の熊だったら死に物狂いでこの場から逃げ出さねば……。

 なんて一人で悶々と考えていると、その黒い塊が私の気配を察知したのか、ゆっくりと身体を起こし始めた。


 「っ!?」


 思わず持っていた竹刀を熊?に向ける。まさか竹刀で熊に対抗せざるを得ない日が来るとは……。

 くそうっ、ただで襲われるほどこっちだってヤワじゃないんだぞ!なんなら返り討ちにして今日の誕生日の食卓に色を添える熊鍋にしてやる!

 ……が、結論から言うと目の前の生き物は熊ではなかった。

 熊と共通しているのは鋭い牙と爪を持っていることくらいだろうか。

 黒く尖った耳、毛を蓄えた長い尾、そして逞しく伸びる四肢……


 「……狼?」


 私の目の前にいたのは、そこだけ夜が訪れたのかと思ってしまう程真っ黒な毛を持つ一匹の狼だった。


ここまでありがとうございました。

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