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紅羽妖録  作者: みお。
第1章
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第1話 日常

連投です。

 「那央、今日の誕生日は何が食べたい?」

 「うーん……なんでもいいよ?」


 朝食の席で私がそう答えると、祖母は困ったように「その答えが一番困るのよねぇ……」と呟き溜息をつく。


 「朝の食卓で飯を食いながら、夕飯のおかずの話をされたら那央も困るだろう」

 「でも、せっかく那央が16歳になるんですよ?去年も一昨年も、忙しくてまともにお祝いできなかったのに……」


 祖父母のやりとりに苦笑いを浮かべながら、祖母の作った豆腐とワカメのシンプルな味噌汁を流し込む。

 うん、美味しい。

 9歳から飲み続けている慣れ親しんだ味。ほとんど毎日飲んでいるのに、不思議と飽きないのは何故だろう?

 私は一旦箸を置いて、二人に話しかける。


 「ごめんごめん。おばあちゃんの作る料理が好きだから、なんでもいいって言ったんだよ。

そうだなぁ…それじゃあ、おばあちゃんの鯖の味噌煮が久し振りに食べたいな。

お肉が好きなおじいちゃんからしたら不服かもしれないけど」


 そう言って祖父の方を向くと「鯖はまだ好きな方だ」と笑顔で返してくれた。

 「この調子で野菜も食べてみたら?」と言うと、しれっと目を逸らされてしまった。

 やはり、祖父の偏食は筋金入りのようだ。


  県立東高校一年B組、出席番号21番。私こと時灯那央ときとうなおは今日誕生日を迎え、16歳になる。

  小学校三年生の時、私は両親を事故で亡くして母方の祖父母の家に引き取られた。

 親がいない寂しさと慣れない土地での生活に辟易して二人に八つ当たりをしたこともあったけど、それでも私に目一杯の愛情を掛けて今日まで育ててくれた二人には感謝しても仕切れない。


 「ところで那央、部活の朝練があるんだろう?時間は大丈夫なのか?」

 「ん…?あ、そろそろ準備したほうがいいかも。おばあちゃん、ご馳走様でした!」

 「はい、お粗末様でした」


 祖父に促されて手早く自分の食器を流し台に運んだ後、洗面所で歯磨きをして軽く髪を整える。

 祖母に「女の子はやっぱり髪の毛が長いほうが良いわねぇ。」と言われてから伸ばしている髪は、背中に届くか届かないかくらいの長さだ。

  ……今度髪を切るときは、もう少し短くしてもらおうかなぁ?

 部活の時ちょっと邪魔なんだよね……。


 玄関で靴を履いて、今年の四月に新しく買ったばかりの竹刀と鞄を持つ。

 9歳でこっちに来てから、元県立東高校の古典教員にして、剣道部の顧問だった祖父に手ほどきを受けて始めた剣道は、市民大会で優勝する程度の実力である。

 まぁそれなりの腕にはなったんじゃあないのかな?なにせ市では1番だからね!

 ……まぁ次の年油断して3回戦で負けてしまったんだけれども。慢心、ダメ絶対。

 これから行く朝練は当然剣道部の朝練だ。


 「忘れ物はない?はい、お弁当」

 「うん、確認もしたから大丈夫!お弁当もありがとう!」


  祖母に渡された桜色の風呂敷に包まれたお弁当を持って、玄関の引き戸を勢いよく開ける。


 「じゃあ、行ってきます!」

 「行ってらっしゃい。夕飯楽しみにしててね」


 夕飯に用意してくれているであろう祖母の手料理を想像して大きく頷き、最近やっと通い慣れた高校への通学路を歩いて行く。

 桜はすっかり散って、葉桜に様変わりをしている。

 満開の桜も好きだけど、こっちの葉桜も私は好きだ。


 「さーて、今日も頑張りますかっと!」


 なんてことのない、いつも通りの朝の風景。

 いつも通りの通学路の景色。いつも通りの紅羽。

 平穏な日々が続くと思っていた私は今日この日、大袈裟でもなんでもなく私の人生に大きな変化が訪れるなんて、想像することも、予想することもできなかったんだ。




ここまでありがとうございます。

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