序章
初投稿です。なんとか2週間に一度は次の話を定期的に出していきたいです。
日本のとある場所。
発展著しい現代において、今でも多くの自然を残し、昔の面影を残している土地……。
はるか昔より、この地は『紅羽』と呼ばれていた。
その名前の由来は、まだ神も人も獣も、そして妖も区別されず同じ地に暮らしていた神話の時代まで遡る。その土地を治めていたと言い伝えられる女神、『暁命』の背に生えていた燃えるように紅い羽に起因すると言われている。
この紅羽の地でのみ伝えられている女神の正体は、太陽神アマテラスが紅羽で独自の変化を遂げ信仰されてきたものとも、日本神話の忘れ去られた女神が、何かの理由でこの場所でのみその存在が語り継がれてきたとも言われているが、今となってはその真偽もわからない。
そして紅羽には、暁命にまつわるこのような昔話が伝わっているーー。
今は昔。神も人も獣も、そして妖もまだ共にあった頃。
ここ紅羽の地を治めるのは、暁命と呼ばれる紅い羽をその背に宿す一人の女神であった。
ある日、女神は一匹の獣と出会い主従の関係を結ぶ。
しかし、その獣はあろうことか女神を裏切り深い傷を負わせ何処かに消えてしまった。
自身の死期を悟った女神は、従者であった人間二人を呼び次のように語った。
「お前たちも分かっているように、私はもう助からない……。
私の唯一の心残りは私が居なくなった後、この地は神も人も獣も、そして妖も同じ地で暮らすことは叶わず、皆が離れ離れになることだ。
そうなる前に、二人に私の力を分け与えたいと思う。
たとえ私たちが、二度と相見えることがなくてもお前たち二人がいつの日か、その力を以ってかつての紅羽の姿を取り戻してくれると信じている」
そして女神は二人に自身の持つ「神力」を分け与えた。
男の従者には「穢れを祓う神力」を、女の従者には「生命力を与える神力」を与え、ついに事切れた。
その後女神の危惧した通り、主を失った紅羽の地に住まう四つの種族は散り散りになり、二度と交わることはなかった。
そして神の力を分け与えられた二人の人間も、遂に女神の悲願を果たすことなく亡くなってしまったーー。
これが、紅羽の地に伝わる『暁命伝説』である。
恐らく紅羽の地に住まう人は、誰もが一度は聞いたことのある昔話であろう。
現在の紅羽は、そんな神話にまつわる場所を豊かな自然と共に"神の住んだ土地"として、新たな観光資源になることを期待して売り出していたりする。
しかし、彼らは知らなかった。この"昔話"が決してただの昔話ではないということを。
そして、その昔話の続きを紡ぐ新たな物語が、ある少女と少年を中心に始まることを…。
――何千年の時を経て、ここ紅羽の地に、新たな"神話"が生まれようとしていた。
拙い文章ですが、ありがとうございました。