第5話 一目惚れと後悔
「競争って事は遊びって事?」
俺は、恐る恐る訪ねた。カーラ達の目を見ながら…、背筋に嫌な寒気を感じながらも、思考を止める事はしなかった。
「そうだよ?お兄ちゃんは、変な事聞くね。昔は競争をしてたみたいだよ?」
カーラはニコニコと笑いながら平然とした様子で答えた。
「...でも、ね?その後に、稀に、とても美味しい血を持っている人達がいる事に気付いたの。」
「...そこからは、どちらがより美味しい血を育てるかと、どうすると美味しくなるかの研究だった...よ?」
キーラもさらりとまるで音読をするように淡々とした声で語りかける。
頭を木槌で殴られた様に目の前がクラクラする。この子達の親は、人間を何とも思っていない。
「そーだ!お兄ちゃん、一緒に僕達のお家に行こ!」カーラが名案とばかりに提案する。
「なんで!?」
俺はあまりに突然の提案に驚きすぎて、変な声で叫んでしまった。
「…賛成!」
キーラも満面の笑みを浮かべ、コクコクと首を縦に振った。
「だから、なんで!?!?」
俺がもう一度叫んだ、その時、周囲が一気に騒めき出した。
…ザワザワ…
「んー…。なんかまたいっぱいきちゃった…。」
キーラがまた少し不満気な顔を見せた。
俺でも何となく感じた。
先程よりも多い、不気味な気配。20…いや30に近い程の群れだろう。足音を鳴らして、それは俺たちを囲うように少しずつ近づいてきた。
「さっき倒したやつらの血の匂いで集まってきたのか!?」
俺は警戒しながら、逃げ道を確認するように周りをキョロキョロ見渡した。
薄暗い森の中に、黄色く光る目がいくつも見える。
「もー!せっかくいいとこだったのに!」
カーラも頬を膨らませて怒りながら、気配のする方をじっと見つめた。
「...流石に、この数だとコウキお兄さんを守りながらは...危ないかも...」キーラは冷静に現状を分析し口にしながら、
「この子達は、小さな死神ってわたし達は呼んでる、死んじゃった子達の怨念やまだ、生きてる、生命力を食べに来るんだよ」
と淡々と説明してくれた。
「小さな…死神…」
俺は不気味で背筋に寒気が走るその光る目を見つめて呟いた。冷や汗が出る。
この子達にばかり頼ってはいられないが、今の俺では、何も出来ない。
この子達を置いて自分だけ逃げることだけはしたくない。
どうする。
とにかく、俺は二人の足を引っ張らない様にどこか隠れられる場所を、と周りを再度見渡した時、二人の少女とは別の声が聞こえた。
「あー、こんな所にいたの?あまり家から離れてはダメと言ったじゃない、キーラ、カーラ」
森の中から、その人は、現れた。
紅く長い髪が風で揺れながら、少し困った顔をした女性を見て俺は、先程獣達に襲われた時よりも心臓が高く強く鳴っていた。
「.....あっ。」俺の小さくか細い声は2人の少女達の声によって消された。
「「お姉ちゃん!」」
キーラ達が同時に大声で叫ぶと、お姉ちゃんと呼ばれたその人は「はぁ…」と溜息一つ出すと、
「言い訳なら後で聞くわ。ほら、残りもお片付けして、さっさと帰るわよ?」
と話しかけた。
彼女は舞う様に現れては消え、いとも容易く次々と敵をなぎ倒して行く、「お姉ちゃんが居るなら、心配無いね!」とカーラも駆け抜けて行く。「...コウキお兄さんは私と一緒に居て。」とキーラも俺の側で、こちらに向かって来る敵を吹き飛ばしながら言った。
五分も掛からずに、全ての敵を倒し終えた。
死神達は白い靄になり、空気に溶けて消えて行った。
「終わったね!」
「...終わった」
「お兄ちゃん!さっきの話しの続きなんだねど!」とカーラがニコニコとこちらに来る。
「待って?」心臓が凍ったと錯覚する程、恐ろしい声が聞こえた。
「あ!」
「...ひ」
ひどく怯えた声で、2人は一歩下がる。
「ねぇ?私はなんて言ったか覚えてる?あまり遠くに行ってはダメと言わなかった?」
彼女は、無表情で告げる。
「ごめんなさい!!」
「...でも!?」
「言い訳も、謝罪も家に着いてから聞くことにするわ」
彼女は、バッサリと切り捨てて、こちらを見た。
「ところで、君は?」
俺は答えようとし、言葉を出そうとしたその時、身体から力が抜け、意識が無くなった。




