第3話 出会いと迷い
「本当に夢か?」ふと、口に出していた。
ズキズキと痛む腕がそうでない事を告げてはいた。が、目の前で起こっている、少女達の異常とも言える殺戮を見ていると・・・。
いっそのこと、夢であって欲しいとも思えた。
そして、森に静寂が戻ってきた。
「あーぁ、終わっちゃった。」
「うん...終わりだね」と少女達の声がした。
混乱、緊張と二日酔い。
目の前に散乱する赤黒い肉片、そして鼻につく血生臭で、一気に吐き気が込み上げる。「うっ、く。うぇっ…」
腹の中の物は全部出したと思う。心臓の音が激しく頭の中に響く。酷く目の前がグラグラと揺れる。しかし左腕の痛みからか、それとも、こちらに歩いて来る2人の少女がいる為か、気を失う事は無かった。
すっと、身体に力が入っていく。
「はっ?」どうしたんだ?
気になり両手で身体を触った…、楽になった?
「…あ?」
あれ?今、俺は一体、何をした?
…左手を使った!?
慌てて腕を見た。噛みつかれた時に破れ、血が付いた服を捲る。あったはずの傷も痛みも無くなっている。
「嘘だろ!!」残った咬み傷の跡だけが、自分の腕が治り、塞がっている事を証明していた。
「んー、お兄ちゃんは何をしてるの?」
「.......お兄さんは...何してるの??」
ここで初めて、目の前にいる少女達の姿がはっきりとが見えた。「可愛い。」俺の口から出たのはそれだけだった。自分の身体や状況の判断など、全て忘れてしまうほど、呆然と少女達を見つめていた。
今の俺の視界の中には、2人しか見えていなかった。獣達の血も肉片も何一つ見えず、可愛いらしくも少し不安げに、此方を覗き込むように声をかけてくれる少女達をただ見続けた。
月の光に照らされた紫色に舞う少し長い髪が一層、自分の心を加速させていた。
「あ、あぁ」
腑抜けた返事しかできなかった。
少女の1人に「お洋服、汚れちゃうよ」と告げられ、ようやく自分の体勢を気づく。
「...お兄さんは...ここでなにしてたの?」「お、俺は…その...」
何と答えればいいのか、少し考え込んだ。
少女達は自分達の問いに答えて貰えず、目を見合わせて「どうしよう?」と困った顔をしてしまった。
そもそも何処から説明すべきなのか。いやむしろ、俺が状況の説明して欲しいくらいなのだが。
「ごめん...俺…気付いたら、この森の中にいたんだけど…。ここは何処だか、分かる?」
「ここ?ここはね、チェルハリオ帝国の外れにある、帰らずの森だよ?」
「ち、チェルハリオ…?帝国…?」
聞き覚えのない名前、外国の名前でも見た事もない。記憶にもある訳ない。ここは、俺のいた日本ですらないのか。
「ところで、お兄さんは誰…?」
少女達が少し興味ありげに聞いた。
「あ、俺は、星本 光輝。えっと、…君たちは?」
少女達は首を傾げながら、
「ホシモト…コウキ…?変な名前…」
俺の名前を変と言った。
「僕はね、カーラ!カーラ·ローシャ· ナスアルだよ!」
「私は...キーラ·ローシャ· ナスアル
...です」




