第1話 酔いと困惑
皆さんはじめまして!はくです。少しずつ書いていきますのでよろしくお願いいたします
容姿普通、頭脳普通、年齢=恋人無し。
特技と言いった物も趣味も持ち合せてはいないが俺のいつも通りの日常、退屈でもいつもの日常。
だが明日は俺の年に一度の誕生日。ファミレスのアルバイトを終え、そのまま商店街へと足を向けた。
秋も深まり、少しずつ肌寒くなっていく道を歩き、見慣れた赤い暖簾に目が止まる。
「ガラガラッ」と扉を開け暖簾を潜りながら僅かに暖かい店内へ入った。
すぐに「いらっしゃいませ!」と大将らしい男の声とスタッフらしき女の子の声が聞こえた。
「空いてるお席へどうぞ?」と続けて女の子の声が聞こえる。
俺は素早く隅の席へと座った。ホールを行き来している女の子がこちらに向かってくると、俺の前にお冷とお絞りを置いてくれた。
「何かお決まりですか?」という女の子の問いに、俺は目も合わせず「とりあえず生、あと焼き鳥セットで」と答えた。
「かしこまりました」女の子がそう俺に告げると、ひらりと厨房へ消えて行った。
目の前に出されたお絞りを手に取ると、それは少し熱く感じた。俺は雑に掌を拭い、そのままテーブルに戻した。
モテない原因が垣間見得る様だ。
お冷を一口含む。
すると、先程の女の子が「お待たせいたしました」と冷えたビールを置き、「こちらが本日のお通しの肉じゃがになります」と、続けて肉じゃがの入っている小鉢をテーブルに置いた。
・・・そして2時間ほど経っただろうか。
久しぶりに限界を超えた量のお酒を飲んだ俺はすっかり酔いが回り「すいません、お会計を~」と声をかけた。
フラフラな足取りでレジでの会計を終え、軽くなった財布に気付かない振りをしながら、「また来よう...」と扉を開け、暖簾を潜った。
「ありがとうございました~」
と間延びした声を背に帰り道を歩き始めた。
街灯と商店街にある居酒屋やコンビニの灯りだけが照らす夜道を歩いていく。着いたのは古めの小さいアパート。
その一角の1DKの部屋に俺は住んでいる。
ポケットに入れっぱなしの鍵を取りだし玄関を開ける、鍵を置き靴を脱ぎ捨てながら出しっぱなしの布団に倒れ込み、意識はそこで途切れた…
・・・・・・俺は夢でも見ているのだろうか。
目が覚めると、そこに広がっていたのは、草木生い茂る一面緑の森の中だった。
「俺、家には帰った…よな…」
確かに昨日は少しばかり飲みすぎたかもしれない。
しかし、玄関を抜けて、部屋に入った、はずだ。
そして家の近くに森らしきものはない。
あるのは小さな神社くらいだった。
ならばやはり、夢だろうか。
(それにしてはリアルすぎるだろ)
俺は少し痛む頭を上げて、周りを見渡した。
(頭の中が真っ白になった様だった)
立ち上がらずにただ、自分自身が見ている、目の前に広がる木々を見つめていた。
「ん?」
ふと、ポケットに違和感を感じ手を当てると、二つ折りの黒い財布を見つけた。
幸いにも少しの金はある。
(これで家には帰れるだろう)
息を吸い、「ふぅ…」とゆっくり吐く。
重い腰を上げ、俺はようやく立ち上がった。
ここにいても仕方がない。ともかく、何処か建物が見えるところまで歩こう。
とはいえ、周りは右も左も分からない森の中。闇雲に歩いても迷うだけだ。
「どうしようか…」俺は少し考え込んだ。
すると、少し遠くの方から声が聞こえた気がした。
独り言のような
誰かと会話してるような。
普段の生活の中では雑音と共に消えてしまいそうなほど小さくか細い声だった。
(そういえば…車が1台も走らない土地なんてあるのか)と痛む頭を酷使しながらも声の方へ進んだ。
森の中に入ると薄暗く、足元に注意していないとすぐ転びそうになる。道と言える道は無さそうだ。(あれは…子どもか…?)
少し歩いた先に、遠目からでも子どもに見える2人を、黒い大きな犬の様な獣が囲んでいる。
「野良犬か・・・?」
いや、犬にしては大き過ぎる。
あきらかに成人している女性の平均のそれを大きく上回っている。
あのままでは2人の子どもは危険だと。すぐに感じた。
この時の俺は冷静ではなかった。いつもの俺なら、こんな危険な状況を見かけたとしても、見なかった事にして逃げていたかもしれない。とても臆病で、弱気な男だったはずだった。
しかし、此処が夢の中だったからか。
それとも、二日酔いからくる頭の痛みか。
訳の分からない状況へのイラつきだったのか。
そこに居たのはいつもの臆病な俺ではなかった。
その時の俺は現状で出せる声を全力で使いながら
「おい犬っころ!こっち見ろよ!!」と叫んでいた・・・・・・