記憶泥棒4
「出て来いやコラー!」
誰も居ない部屋で俺は叫ぶ…正確には口に出して無いので大きく念じているのかな?
「ハーイ♪ごめんなさい♪本当反省してま~す♪」
「楽しそうに言うな!生活に支障きたすような急な入れ替わりは駄目だと、あれ程言っといただろう!」
「大丈夫です♪変に思われるような行動は一切してないのでバレて無いですよ♪」
「本当だろうな。バイトは兎も角、部活まで勝手に変更しやがって!本当どういう気だ」
「ゲームに勝ったの私ですから良いじゃないですか♪」
「だいたい何だよ『心理学研究会』って。何する活動だよ」
「さあ~?」
「聞いとけよ。俺聞いてるもんだと思って聞けなかったよ」
「ノブくんがやってる部活だから変なのではないでしょ♪」
「小学生以来なのにそんなの分かるか?人って変わるぞ」
「あれだけ昔ノブくんに助けてもらっといて、よくそんなこと言えますね♪」
「ごめん。その辺の記憶はお前が持ってるからよく分かんないから...」
「あっ!お母さん………」
暫く頭の中は沈黙に包まれた。次に頭に届いたのは鍵を回す音と入り口の扉が開く音だった。
「お帰りなさ~い♪」
_今コイツと入れ替わったのは解った。俺の視界は一瞬で奥の部屋から玄関先に変わったから。体が勝手に飛んだように錯覚する。もしテレポーテーションが出来る人が居るならこんな感覚何だろうか。
玄関先にはお袋が買い物袋を抱えて立っていた。お袋は微笑みながら〝只今〟の挨拶をすると、台所に行き冷蔵庫を開けて荷物の整理をいそいそとはじめる。
「手伝ってあげなさいよ~♪」
「狭いからかえって邪魔だって」
お袋は今日久しぶりの休みだ。いつもは夜に工場に働きに出て朝方帰ってくる。家事も有るので毎日ほとんど寝ていない。
「夕飯のお手伝いしましょうよ~♪」
「だから変に思われるから駄目だって」
「お母さん何から何まで1人でやって、疲れているんだよ♪たまには孝行しましまょう♪」
「分かってるよ。だったらお前も部屋散らかすなよな。今朝も起きたら紙屑とかいっぱい落ちてたぞ」
10年間、お袋は無職になった親父の代わりにずっと家計も支えている。親父は何かの理由で働くことをしなくなったらしい。
そんな親父が失跡してからもう5年以上経つ。ひと月前、俺の中学卒業と同時に離婚が成立した。本当はもっと前にしたかったらしいが、失跡してたのでどうしようも無かったみたいだ。
親父が居なくなった理由は今も解らない。とりあえず働かない上にお袋に暴力を振るうクソ親父というのは知っている。
それ以外の情報は俺には無い。実は顔も知らないので街中ですれ違っても俺は気付かないだろう。
写真はお袋が全部捨てたし、記憶は全部コイツが押さえている。
「お袋。ごめん。これバイトの同意書なんだけど後でサインくれる。芹沢さん家の信哉くんと一緒のとこで働くことにしたから…」
子供ながらに家計の事情は分かっている。だから昔からおねだりとかあまりしない。バイトするのも少しでもお袋の負担を減らしたいからだ。
「そう!昨日電話有っただろ。今日面接してきた。部活も一緒だよ!」
お袋に〝何の部活?〟って聞かれて返答に困った。
うーん。心のケアをするボランティアみたいな活動かな?
心理学って心の病を治すようなイメージが有るし…
俺の浅知恵じゃよく解らん。明日先輩に聞こう。
とりあえず夕飯出来るまで奥の部屋で待つことにした。
「フロイトやユングとか出てくるアレですかね?心の行動科学を勉強するとか…難しそうですね♪」
「んなの俺、理解出来るかな?……でも心理学研究会か……ちょうど良いかもな...」
「なぜですか?あっ!お母さんには無理だからノブくんに相談するつもりですね♪」
「心って頭の中のことだろ。お前のこと何かちょっとは解るかもしれない。俺とオマエがこのままでいいのか先輩にアドバイスもらうよ」
「いいですね♪私も自分のことよく解って無いですから♪」
「オマエのことでお袋に心配掛けてもいけないし…とりあえず明日からバイトと部活頑張ろうか」
「ハイ♪」